杜子春

杜子春芥川龍之介
発表
1920年(大正9年)
初出
雑誌『赤い鳥』1920年7月号に掲載。翌年、短編集『夜来の花』に収録
形式・長さ
小説・短編
手ごわさ
すぐ読める
或春の日暮です。
書き出し

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ひとことで言うと

財産を使い果たした若者・杜子春が、不思議な老人のおかげで二度も大金持ちになり、二度とも一文無しに戻ります。人間に愛想を尽かした彼は、仙人になるための試練に挑むことになります。唐の伝奇小説をもとに、子ども向けの雑誌『赤い鳥』のために書かれた短編です。

こんな人に

  • お金があるときだけ寄ってくる人に、うんざりしたことがある人に
  • 昔話のような語り口で、すっと読める話を探している人に
  • 何のために生きるのかを、短い話で考えてみたい人に

あらすじ(ネタバレなし)

唐の都・洛陽のある春の日暮れ、西の門の下に、杜子春という若者がぼんやり立っています。金持ちの息子でしたが、財産を使い果たし、今夜泊まる所もありません。そこへ片目のすがめの老人が現れ、夕日に映った影の頭のところを夜中に掘ってみろと言い残して消えます。

言われたとおりに掘ると、車に積みきれないほどの黄金が出てきました。杜子春はたちまち洛陽一の大金持ちになり、贅沢三昧の暮らしを始めます。友人たちも毎日のように集まりますが、金がなくなると誰も寄りつかなくなりました。同じことがもう一度繰り返されます。

三度目に老人が現れたとき、杜子春は金はもういらないと断ります。老人が仙人だと見抜いた彼は、弟子にしてほしいと頼み込みます。仙人の鉄冠子は杜子春を峨眉山へ連れて行き、自分が戻るまで何が起きても決して声を出してはならないと言い渡します。

主な登場人物

杜子春
洛陽の若者。金持ちの息子だったが、親の財産を使い果たして困窮している。
鉄冠子
片目のすがめの老人の姿で現れる仙人。峨眉山に住み、杜子春に試練を与える。
閻魔大王
地獄の森羅殿にいる王。物語の後半に登場し、杜子春に口を開かせようとする。

見どころ・おもしろいところ

  1. 三度繰り返される問いかけ

    老人は門の下に立つ杜子春の前に三度現れ、毎回同じ問いを投げかけます。杜子春の答えも、二度目まではほとんど同じです。三度目にだけ答えが変わる昔話の型が、杜子春の心の変化をくっきり見せています。

  2. 目に浮かぶ贅沢の数々

    大金持ちになった杜子春の暮らしは、日に四度色の変わる牡丹や白孔雀、天竺生まれの魔法使いの芸など、きらびやかな品々を並べて描かれます。豪華であればあるほど、金が尽きたあとの人々の冷たさが際立ちます。

  3. 峨眉山で続く試練

    峨眉山の一枚岩の上で、杜子春のもとに虎や大蛇、雷雨、神将が次々に現れます。声を出せば仙人になれないという約束を守れるかどうか、場面が変わるたびに緊張が高まっていきます。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

途中に漢詩がはさまる

鉄冠子が空を飛びながら、四行の漢詩を歌う場面があります。芥川は手紙の中で、この詩は呂洞賓という仙人の作で、年少の読者には意味の説明は要らないだろうと書いています。意味がつかめなくても、気にせず先へ進んでかまいません。

中国の地名と言葉

洛陽、峨眉山、泰山といった地名や、西王母、森羅殿、畜生道などの言葉が出てきます。洛陽は唐の都、峨眉山は仙人の住む山とだけ押さえておけば、話の流れを追うのに困りません。

唐の伝奇を童話に書き直す

『杜子春』は1920年7月号の『赤い鳥』に発表されました。もとになったのは、唐の時代の伝奇小説『杜子春』です。芥川は後年の手紙で、主人公はそこから借りたが、話の大部分は自分で作ったと説明しています。

初出の雑誌では、物語の舞台は原話と同じ長安になっていました。翌1921年に短編集『夜来の花』へ収めるときに、舞台が洛陽に改められています。鉄冠子という名についても、芥川は三国時代の仙人の道号だと手紙で述べています。

原話との違いと読み継がれ方

原話では、試練の中身も結末も大きく異なります。原話が執着を捨てることを求める道教の考えに根差しているのに対し、芥川は他者を思う心を尊ぶ結末に書き換えました。中国文学の研究者からは、子どものころに芥川の作品に親しんだことが、原話の読み方に影響していないかという指摘も出ています。

1979年には『赤い鳥のこころ』と『まんがこども文庫』で、それぞれテレビアニメになりました。1981年には宇野重吉が仙人の声を演じたスペシャルアニメも放送されています。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

鉄冠子が去ったあと、杜子春は虎や大蛇、神将に脅されても黙り続け、ついに神将に突き殺されます。魂は地獄へ落ち、閻魔大王の前でもあらゆる責め苦に耐えて口をききません。そこで閻魔大王は、畜生道に落ちて馬の姿になった杜子春の父母を連れてこさせ、鬼たちに鞭で打たせます。

息も絶え絶えの母が、自分たちはどうなってもいいから黙っていなさいとかすかに語りかけるのを聞き、杜子春は思わず「お母さん」と叫びます。気がつくと、そこは元の洛陽の門の下でした。鉄冠子は、もし黙っていたらお前の命を絶つつもりだったと告げます。人間らしく正直に暮らすと誓った杜子春に、鉄冠子は泰山の麓にある家と畑を与えて去っていきます。

よくある疑問

『杜子春』はどんな話?

金持ちと貧乏を繰り返して人間に愛想を尽かした若者が、仙人になるための試練に挑む話です。唐の都・洛陽と峨眉山が舞台です。

元になった話はある?

唐代の伝奇小説『杜子春』がもとになっています。ただし芥川は手紙の中で、主人公は借りたものの、話の3分の2以上は自分の創作だと述べています。

子ども向けの作品なの?

児童雑誌『赤い鳥』に発表された作品で、伝奇小説を童話にしたものです。昔話のようなですます調で語られる短編です。

『杜子春』は無料で読める?

著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。新字新仮名と新字旧仮名の版があります。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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