ある日の暮方の事である。
主人に暇を出され、行くあてのない下人が、荒れ果てた羅生門の上で死人の髪を抜く老婆に出会います。飢え死にするか、盗人になるか。雨の降る一晩のうちに、その迷いがどちらへ転ぶのかを追う短い物語で、生きるための悪という問いが正面から描かれます。
こんな人に
- 正しいことと生きのびることが食い違う話に考えこむ人に
- 短い時間で読み終えられる、緊張の続く話を探している人に
- 人の心が一晩で入れ替わる瞬間に興味がある人に
あらすじ(ネタバレなし)
平安時代の京都では、地震や辻風、火事や飢饉がこの数年続き、町はすっかりさびれています。都の正門である羅生門も修理されないまま荒れ果て、引き取り手のない死人が捨てられる場所になっていました。
ある日の暮れ方、一人の下人が羅生門の下で雨がやむのを待っています。長く仕えた主人から数日前に暇を出され、帰る所がありません。生きるには手段を選んでいられない、つまり盗人になるしかないと考えながらも、その一歩を踏み出す勇気が出ないのです。
夜を明かす場所を求めて、下人は門の上の楼へ梯子を上ります。死人しかいないはずの暗がりに、火がともっていました。そこには女の死骸から髪の毛を一本ずつ抜く老婆がいたのです。
主な登場人物
- 下人
- 主人に暇を出されたばかりの男。右の頬にできた大きなにきびを気にしている。
- 老婆
- 楼の上で死骸の髪を抜いている、背の低い白髪の老婆。なぜそうするのかを下人に語る。
- 作者
- 語り手。ときどき「作者は」と顔を出し、自分の書いた言葉を言い直してみせる。
見どころ・おもしろいところ
一晩で揺れ動く下人の心
門の下では盗人になる勇気が出なかった下人が、老婆を見た瞬間には悪を激しく憎みはじめます。恐怖・憎悪・失望・侮蔑と、心の動きが一場面ごとに名前をつけて書かれているので、短い中に起伏がはっきり見えます。
語り手が物語に口をはさむ
途中で語り手が「作者はさっき」と前に書いた一文を取り上げ、より正確な言い方に直してみせます。昔の京都の話なのに、語り手は外から眺める近代の人として立っています。この距離が、下人の迷いを冷静に見つめる効果を生んでいます。
荒れた門の描写の生々しさ
丹塗りのはげた柱、石段にこびりついた鴉の糞、楼の上に転がる死骸の臭い。見る・嗅ぐ・聞くの感覚が細かく積み重ねられ、読んでいるうちに雨の夜の門の中にいるような気分になります。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
見慣れない言葉が多い
「下人」「暇を出される」「楼」「検非違使」など、平安時代の言葉がそのまま出てきます。下人は身分の低い使用人、楼は門の二階部分と押さえておけば、細かい語はわからなくても筋は追えます。
老婆の長い言い分
終盤、老婆が古い言い回しで長々と自分の理屈を語ります。何を、なぜ悪くないと言っているのかの二点だけをつかむつもりで読むと、その後の下人の変化が飲みこみやすくなります。
無名の学生作家が書いた一編
『羅生門』は、芥川が東京帝国大学に在学していた無名時代に書かれ、1915年11月に雑誌『帝国文学』へ発表されました。1917年には「鼻」「芋粥」とともに、第1短編集『羅生門』として阿蘭陀書房から出版されています。
題材は『今昔物語集』の本朝世俗部に収められた説話です。題名は平安京の正門である羅城門から来ています。門の正しい名は羅城門ですが、近代まで「羅生門」と書かれることが多く、先行する観世信光の謡曲の題もこの字でした。
書き直された結びの一文
この作品は、最後の一文が何度も変えられたことでも知られています。初出の形から第1短編集で一度手が入り、1918年の短編集『鼻』に収めるときに、いま広く読まれている結びになりました。発表から二年半ほどたってからの改稿です。
題名と一部の場面は、黒澤明の1950年の映画『羅生門』に使われました。1959年にはテレビドラマになり、1988年と2007年には漫画にもなっています。2007年の漫画版では、下人を『藪の中』の多襄丸と同じ人物とする設定が加えられました。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
老婆は、抜いた髪で鬘を作るつもりだったと答えます。さらに、この女は生前、蛇を干したものを干魚と偽って売っていたが、それも飢え死にしないための仕方のないことだった、だから自分のすることも許してくれるだろう、と言い訳をします。
答えの平凡さに失望していた下人の心に、門の下では欠けていた勇気が生まれます。下人は、自分もそうしなければ飢え死にする身なのだと言って老婆の着物をはぎ取り、蹴り倒して、梯子を夜の底へ駆け下ります。老婆が門の下をのぞくと、外には暗い夜があるばかりで、下人の行方は誰にもわかりません。
よくある疑問
- 『羅生門』はどんな話?
-
主人に暇を出された下人が、羅生門の上で死人の髪を抜く老婆と出会い、生きるための悪について迫られる話です。物語は雨の夜の一晩のうちに終わります。
- 元になった話はある?
-
平安時代末期に成立したとされる説話集『今昔物語集』の、羅城門の上で死人を見た盗人の話が基になっています。蛇を干魚と偽って売る女の話も、同じ説話集の別の話から取り入れられています。
- 黒澤明の映画『羅生門』と同じ話?
-
同じ話ではありません。1950年の映画は主に芥川の別の短編『藪の中』を原作にしています。題名と、着物を奪う場面など枠となる部分の一部が『羅生門』から借りられています。
- 『羅生門』は無料で読める?
-
著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。新字新仮名と旧字旧仮名の両方の版が公開されています。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
