河童

河童芥川龍之介
発表
1927年(昭和2年)
初出
総合雑誌『改造』1927年3月号に発表
形式・長さ
小説・中編
手ごわさ
ふつう
これはある精神病院の患者、――第二十三号がだれにでもしゃべる話である。
書き出し

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ひとことで言うと

精神病院の患者「第二十三号」が、誰にでも語って聞かせる話があります。穂高山へ登る途中、河童を追いかけて穴に落ち、河童の国で暮らしたというのです。人間の世界と何もかもが逆さまの国を通して社会が皮肉られる、芥川の最晩年の代表作です。

こんな人に

  • 当たり前だと思っている常識を、ひっくり返して眺めてみたい人に
  • 皮肉の効いた寓話や風刺の物語が好きな人に
  • 奇妙な住人が次々に現れる異世界ものを楽しめる人に

あらすじ(ネタバレなし)

ある精神病院に、三十を越したとは思えないほど若々しい患者がいます。第二十三号と呼ばれるその男は、院長や訪ねてきた「僕」を相手に、決まって同じ話を長々と語ります。

三年前の夏、彼は上高地の温泉宿から穂高山をめざし、深い霧のなかで道に迷いました。河原で休んでいると、岩の上から絵で見たとおりの河童がこちらをのぞいています。夢中で追いかけるうち、熊笹の中の見知らぬ穴へまっさかさまに落ち、気がつくと大勢の河童に取り囲まれていました。

彼は医者の河童チャックの家で手当てを受け、そのまま河童の国で暮らすことになります。そこは銀座通りのような町並みに自動車まで走る国でしたが、恋も出産も仕事も、人間の世界とはあべこべの習慣で動いていました。彼は漁師のバッグや学生のラップをはじめ、さまざまな河童と知り合っていきます。

主な登場人物

第二十三号
精神病院の患者で、河童の国の話の語り手。一章からの「僕」はこの人物。
僕(筆記者)
序に出てくる人物。第二十三号の話をできるだけ正確に書き写したと言う。
バッグ
漁師の河童。第二十三号が最初に追いかけた相手で、最も親しくなる。
チャック
医者の河童。河童の国に落ちてきた第二十三号を診察し、世話をする。
ラップ
学生の河童。雌の河童に追いかけられて、主人公の部屋に隠れていたことがある。
トック
詩人の河童で、超人倶楽部の会員。家族制度を軽蔑している。
ゲエル・マッグ
ゲエルは硝子会社の社長で資本主義者、マッグは警句集を書く醜い哲学者。

見どころ・おもしろいところ

  1. 何もかもあべこべの国

    河童の国では、雌が雄を追いかけ、生まれる前の子にはこの世に生まれたいかどうかを尋ねます。人間には当たり前の習慣が、河童の目から見ると少しも当たり前でなくなります。読んでいるうちに、自分の暮らす社会のほうが奇妙に見えてきます。

  2. ひと癖ある河童たち

    傲慢だが人なつこい資本家ゲエル、家族を軽蔑する詩人トック、警句集『阿呆の言葉』を書く哲学者マッグ。職業も考え方も違う河童たちとの会話を通して、国の仕組みや宗教、芸術が一つずつ明かされます。

  3. 語り手は精神病院の患者

    話の全体は、精神病院の患者が語ったことの筆記という形をとっています。語り手の正気そのものが疑わしいので、河童の国が本当にあったのかどうかも、読者の受け取り方にゆだねられています。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

「僕」が二人いる

短い序の「僕」は、第二十三号の話を書き写した人物です。一章からの「僕」は第二十三号本人で、序と本編で語り手が入れ替わると知っておくと戸惑いません。

カタカナの名前が多い

河童たちはバッグ、チャック、ラップ、トック、マッグと似た響きの名前ばかりです。名前より職業で覚えると区別しやすく、作中でも「医者のチャック」「哲学者のマッグ」のように職業を添えて呼ばれます。

亡くなる年に書かれた風刺

『河童』は1927年3月の総合雑誌『改造』に発表されました。芥川はこの年の夏に自ら命を絶っており、自殺の動機を考えるうえでも重要な作品とされています。芥川は1920年に「水虎問答之図」という河童の絵も描いていました。

物語の入口になる上高地の河童橋は、この作品より前からありました。むしろ河童橋という名前が着想に影響したと考えられています。作品の発表と芥川の死によって、橋の名はより広く知られるようになりました。

社会風刺か、作者の苦悩か

発表当時、日本の評者の多くはこの作品を、洞察に欠ける素朴な社会風刺とみなしました。その後の評価は、大正の日本を風刺した作品とする読みと、芥川個人の苦悩の表れとする読みに分かれています。吉田精一は芥川の書簡をもとに、社会風刺ではないと論じました。

自殺する詩人トックは、芥川自身の姿を映していると見られることが多い人物です。1947年に出た最初の英訳には「着物を着たガリヴァー」という副題がつき、研究者のスーザン・ネイピアは日本で最初の本格的なディストピア小説と呼んでいます。スウィフトの『ガリヴァー旅行記』やバトラーの『エレホン』の影響も指摘されています。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

河童の国で暮らすうち、詩人のトックはピストルで自殺します。のちにトックは霊媒を通じて現れ、死後の名声を気にかけ、自殺した詩人や哲学者たちを友として語ります。やがて第二十三号は、町はずれに住む年をとった河童に、人間の世界へ戻る道を尋ねます。老河童は天窓から下がる綱梯子を示し、後悔しないようにと言い添えます。

人間の世界へ戻った第二十三号は、人間の皮膚の匂いや顔を気味悪く感じるようになります。一年ほどして事業に失敗すると、河童の国へ「帰りたい」と思い、家を抜け出したところで巡査に捕まり、病院へ入れられました。病室には今も河童たちが見舞いに来ると彼は言いますが、机の上には何もありません。

よくある疑問

『河童』はどんな話?

精神病院の患者が、穂高山で迷いこんだ河童の国での暮らしを語る話です。人間の世界とあべこべの国を描くことで、人間社会が皮肉られています。

なぜ「どうか Kappa と発音して下さい」と書いてあるの?

題名の下に置かれた副題で、河童の読み方や発音が地方によって違うため、読み方を指定したものとされています。特に深い意味はないと説明されています。

「河童忌」とは?

芥川龍之介の命日である7月24日の呼び名です。この作品が芥川の晩年の代表作として知られていることから、こう呼ばれています。

『河童』は無料で読める?

著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。新字新仮名と新字旧仮名の版が公開されています。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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