ゴーシュは町の活動写真館でセロを弾く係りでした。
町の楽団でいちばん下手なセロ弾きのゴーシュは、楽長に叱られた晩から、町はずれの壊れた水車小屋で夜通し練習を続けます。そこへ毎晩ちがう動物が訪ねてきて、あれこれ理由をつけて演奏をせがみます。音楽会を前にした数日の夜を描く童話で、賢治が亡くなった翌年に発表されました。
こんな人に
- うまくできないことを、毎晩こつこつ続けている人に
- 人間と動物がとぼけた会話をする話が好きな人に
- 楽器を習って、先生に叱られた思い出がある人に
あらすじ(ネタバレなし)
ゴーシュは町の活動写真館の楽団、金星音楽団でセロを弾いています。腕前は仲間のなかでいちばん下手で、町の音楽会で演奏する第六交響曲の練習でも、楽長に何度も演奏を止められます。音がおくれる、糸が合わない、表情がまるで出ないと叱られ、ゴーシュは楽屋の壁に向かって涙をこぼします。
その晩、町はずれの川ばたにある壊れた水車小屋へ帰ったゴーシュは、夜中を過ぎても一人でセロを弾き続けます。そこへ扉を叩いて入ってきたのは、大きな三毛猫でした。猫はゴーシュの畑からとった青いトマトを手土産に、シューマンのトロメライを弾いてくれと言い出します。
次の晩も、その次の晩も、ゴーシュが練習していると動物が一匹ずつ訪ねてきます。かっこう、狸の子、野ねずみの親子と、相手はそれぞれ別の頼みごとを持っています。気の短いゴーシュは怒ったり追い払おうとしたりしながらも、そのたびにセロを弾くことになります。音楽会の日は、あと十日に迫っています。
主な登場人物
- ゴーシュ
- 主人公。金星音楽団のセロ弾きで、楽団でいちばん下手。町はずれの水車小屋に一人で住む。
- 楽長
- 金星音楽団の指揮者。腕の劣る楽手には手厳しく、練習のたびにゴーシュを叱る。
- 三毛猫
- 最初の晩に来る猫。ゴーシュの畑の青いトマトを手土産に、シューマンの曲をせがむ。
- かっこう
- 二晩目に屋根裏から来る鳥。ドレミファを正確に歌いたいと、伴奏を何度も頼む。
- 狸の子
- 三晩目に来る小太鼓の係。父親に言われて、セロに合わせる練習をしに来る。
- 野ねずみの親子
- 四晩目に来る母と小さな子。母ねずみは、病気の子を治してほしいと頼みに来る。
見どころ・おもしろいところ
夜ごとに変わる訪問者
生意気な三毛猫、しつこいほど真剣なかっこう、のんびりした狸の子、必死な野ねずみの母親。訪ねてくる動物の性格が一晩ごとにちがうので、同じ水車小屋の場面でも毎回まったく別の空気になります。ゴーシュがそれぞれの相手にどう応じるかを見比べるのも楽しみの一つです。
楽長の小言を覚えておく
冒頭の練習で楽長は、ゴーシュに音がおくれる、糸が合わない、表情がないと注意します。この三つの小言を頭に置いて読むと、夜ごとの動物たちの頼みごとや何気ない一言が、別の意味を帯びて聞こえてきます。
音が聞こえてくる文章
ごうごう弾き続けるセロ、ボロンボロンと合わせる糸、どこまでも続くかっこうの鳴き声。擬音と繰り返しの多い文章なので、声に出して読むと演奏の勢いがそのまま伝わってきます。短い作品なので、一度は音読してみるのもおすすめです。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
乱暴な主人公に戸惑う
最初のゴーシュは粗野で、楽長に叱られた鬱憤を猫にぶつけるような若者として描かれています。主人公を好きになれなくてもまずは読み進め、夜ごとに彼の態度がどう動くかに注目すると、物語の筋が見えてきます。
セロと活動写真館とは
セロはチェロのことで、活動写真館は映画館のことです。書かれた当時の映画は音のない無声映画が中心で、映画館には伴奏をつける楽団がいました。ゴーシュはそうした楽団の楽手だと知っておくと、冒頭の場面が思い浮かべやすくなります。
日数を数えながら読む
物語は、音楽会まであと十日しかないという楽長の言葉から始まります。動物たちの訪問はその間の夜に一晩ずつ起きるので、何晩目の出来事かを意識すると、話の流れを見失いません。
チェロを習った賢治と楽長
賢治は1926年、農民の生活改善を目指す「羅須地人協会」を主宰していたころにチェロを買い、練習を始めました。農民楽団をつくり、自作の詩に曲をつけて演奏することを目指していたとされます。音楽教諭だった親友、藤原嘉藤治の影響もあったと考えられています。
同じ年に上京した際には、新交響楽団の楽士だった大津三郎の家に通って教わりました。賢治は三日で弾けるようになりたいと頼み、大津を困らせたと伝えられています。熱心に取り組んだものの、演奏はとてもうまいとは言えなかったようです。
作中の厳しい楽長には、新交響楽団で厳しい指導をしていた斎藤秀雄がモデルではないかという説があります。賢治が上京して楽団の練習を見学した時期と重なるためです。
影絵から高畑勲のアニメまで
1949年には全編影絵のアニメーション映画が作られ、1953年には日本最初のカラー人形劇映画になりました。1982年には高畑勲が監督したアニメーション映画が公開され、毎日映画コンクールの大藤信郎賞を受けています。この映画では、作中に出てくる架空の曲「インドの虎狩り」「愉快な馬車屋」を間宮芳生が新たに作曲しました。
1957年には清水脩、1986年には林光がオペラにしています。1996年には賢治の生誕100年を記念して、ヨーヨー・マが賢治のチェロで、作中にも名前の出てくるシューマンの「トロイメライ」を花巻で演奏しました。英語にはジョン・ベスターやロジャー・パルバースによる訳があります。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
四晩目に来た野ねずみの母親によると、このあたりの動物たちは病気になるとゴーシュの小屋の床下に入り、セロの音で治していたのでした。ゴーシュは子ねずみをセロの孔に入れてラプソディを弾き、病気を治してやります。それから六日目の晩、金星音楽団は第六交響曲を首尾よく演奏し終えます。アンコールを求められた楽長は、ゴーシュを指名しました。
ばかにされたと思ったゴーシュは、猫の晩と同じ「印度の虎狩」を怒りにまかせて弾きます。ところが聴衆は静まりかえって聴き入り、楽屋に戻ると楽長は、十日前とは比べものにならないほど上達したと褒めました。その晩、家に帰ったゴーシュは窓をあけ、かっこうが飛んでいった遠い空をながめながら、あのときはすまなかったと詫びます。
よくある疑問
- 『セロ弾きのゴーシュ』はどんな話?
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楽団でいちばん下手なセロ弾きのゴーシュのもとへ、夜ごとに動物たちが訪ねてきて演奏をせがむ話です。動物たちとのやりとりを通して、ゴーシュの演奏が変わっていく姿が描かれます。
- 「ゴーシュ」という名前の意味は?
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フランス語で「不器用な」を意味する gauche(もとの意味は「左」)から来ているという説があります。ほかに、フランス語の「カッコウ」から、あるいはチェロの音をまねた言葉から、という説もあります。
- 作中の「第六交響曲」は何の曲?
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作中では作曲者が書かれていないため、何の曲かはわかっていません。1982年のアニメーション映画では、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」が使われました。賢治はこの曲のレコードを、ほかの多くのレコードを手放したあとも最後まで手元に残していました。
- 『セロ弾きのゴーシュ』は無料で読める?
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著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。新字新仮名の版が公開されています。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
