よだかは、実にみにくい鳥です。
見た目がみにくいというだけで、ほかの鳥たちから嫌われているよだか。ついには鷹から「市蔵」と名を変えろと迫られます。行き場をなくした一羽の鳥が、自分が生きることの意味に向き合う短い童話で、賢治の自己犠牲の物語の系譜に数えられる作品です。
こんな人に
- 見た目や生まれで決めつけられて、悔しい思いをしたことがある人に
- 生きることそのものに、ふと後ろめたさを感じたことがある人に
- 短くても、読み終えたあと静かに考えこむ話を求めている人に
あらすじ(ネタバレなし)
よだかは、顔が味噌をつけたようにまだらで、くちばしは平たく耳まで裂けた、みにくい鳥です。ひばりは顔をそむけ、小さな鳥たちはすれ違うたびに悪口を言います。けれども本当は、美しいかわせみや蜂すずめの兄でした。鋭い爪もくちばしもなく、誰かを傷つけたこともありません。
よだかの名に「たか」がつくのは、羽が強く、鳴き声が鋭いからです。それを嫌う鷹は、ある夕方よだかの家にやって来て、名前を返せと迫ります。代わりに「市蔵」と名乗り、首にふだを下げて鳥の家を一軒ずつあいさつして回れ、あさっての朝までにしなければつかみ殺すと言うのです。
名前は神さまからもらったものだと言っても、鷹は聞き入れません。よだかは目をつぶって考えこみ、うす暗くなった空へ飛び出していきます。
主な登場人物
- よだか
- みにくい姿のために、ほかの鳥から嫌われている鳥。夜や曇った日に飛び、羽虫を食べる。
- 鷹
- よだかの名前に「たか」がつくのを嫌い、改名を迫る。
- かわせみ
- よだかの弟。川で魚をとって食べる、美しい鳥。
- 蜂すずめ
- よだかの弟で、花の蜜を吸う小さな鳥。遠くに住んでいる。
見どころ・おもしろいところ
名前を奪われる理不尽
よだかは名前を自分で選んだわけではありません。それなのに鷹は、首にふだを下げて改名を触れ回れと命じます。容姿だけでなく名前まで否定されるよだかの姿が、淡々とした会話のなかに痛々しく浮かび上がります。
羽虫を飲みこむ夜
夜空を飛ぶよだかののどに、羽虫や甲虫が次々と入っていきます。食べることの意味に気づく瞬間が、からだの感覚として描かれるので、読む側も思わず息をのみます。この場面が、物語の向きを大きく変えます。
燃える山と夜空の色
遠くの山では山焼けの火がまっ赤に燃え、雲は鼠色からまっ黒に変わっていきます。赤い火と青白い星あかりの対比が繰り返され、短い話のなかに鮮やかな色の流れが生まれています。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
かわせみが弟なのはなぜ
よだかとかわせみ、蜂すずめが兄弟という設定は、意外に思えるかもしれません。実際にヨタカ、ハチドリ、カワセミは比較的近い仲間で、分類学的に的を射た設定と言われています。
いじめの教訓だけで終えない
子ども向けには、外見による差別やいじめを戒める話として読まれることが多い作品です。けれども生きることへの罪悪感という、より深い問いも含まれています。読み終えたら、よだかが何に苦しんでいたのかをもう一度考えてみると、印象が変わります。
「ぶどしぎ」として世に出た童話
『よだかの星』は1921年ごろに書かれたと考えられています。生前には発表されず、賢治が亡くなった翌年の1934年、文圃堂版の全集第三巻に収められて初めて世に出ました。
そのときの題は「ぶどしぎ」でした。ぶどしぎはオオジシギの方言名で、賢治は天へ向かって飛び続けるオオジシギのアイヌ民話をもとにした作品に改めようとしたとされます。賢治の詩「花鳥図譜・七月・」にも、かわせみが兄の夜鷹を語る、この作品に似た場面があります。
自己犠牲の物語としての読み
かつては国語の教科書にも採用されました。生きることへの罪悪感を抱くよだかの姿は、賢治の仏教思想とあわせて、賢治が終生抱き続けた出自への罪悪感を映したものとして、しばしば論じられます。『グスコーブドリの伝記』などと並ぶ、自己犠牲の物語の系譜にも位置づけられています。
1996年に開かれた宮沢賢治国際研究大会では、海外からの参加者がそれぞれの読みを語りました。韓国の参加者は、仲間から外されて初めて弱い虫の存在に気づけたと読み、インドの参加者はガンディーの非暴力の思想との共通点を指摘しています。二人とも、逃げることよりも自分の名を守り抜いたことに重きを置いていました。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
羽虫や甲虫を飲みこんだよだかは、毎晩たくさんの虫を殺している自分が、今度は鷹に殺されることのつらさに気づき、泣き出します。弟のかわせみに別れを告げたよだかは、夜明けに太陽へ向かい、焼けて死んでもいいから連れていってほしいと頼みますが、夜の鳥だから星に頼めと言われます。
夜になり、オリオン、大犬座、大熊星、鷲の星に順に願いますが、どの星にも相手にされません。力を落として地面に落ちかけたよだかは、鷹のような声で鳴いて空へ舞い上がり、どこまでもまっすぐにのぼっていきます。気がつくと、よだかの体は青く美しい光となって、カシオピア座のすぐ隣で燃えていました。よだかの星は、今でも燃え続けています。
よくある疑問
- 『よだかの星』はどんな話?
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みにくい姿のために嫌われ、鷹に改名を迫られたよだかが、自分の生き方に悩む話です。かつて国語の教科書にも採用された、賢治の有名な童話です。
- よだかはどんな鳥?
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実在する鳥のヨタカのことです。作中ではハチドリにあたる蜂すずめや、かわせみの兄とされていますが、これらは比較的近い仲間で、当時は同じブッポウソウ目に分類されていたとされます。
- 最初は別の題だったって本当?
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本当です。没後の全集では「ぶどしぎ」という題で初めて刊行されました。賢治が草稿の表紙の「よだか」を「ぶどしぎ」と書き改めていたためですが、本文にぶどしぎは出てこないため、のちの全集では「よだかの星」に戻されました。
- 『よだかの星』は無料で読める?
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著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。新字新仮名の版が公開されています。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
