狩りに来て山奥で道に迷った二人の若い紳士が、「山猫軒」という西洋料理店を見つけます。店に入ると扉が次々に現れ、そのたびに客への注文が書かれていました。二人は首をかしげながらも、都合よく解釈して奥へ進んでいきます。賢治が生前に出した唯一の童話集の表題作です。
こんな人に
- ちょっと怖くて、どこか笑える話が好きな人に
- えらそうな人がやりこめられる話にすっとする人に
- 子どもの頃に読んだ童話を、大人になって読み直したい人に
あらすじ(ネタバレなし)
イギリスの兵隊のような身なりをした二人の若い紳士が、白熊のような犬を二匹連れて、山奥へ狩りに来ています。ところが獲物は一匹も見つからず、案内の鉄砲打ちともはぐれてしまいます。山の物凄さに、犬たちは泡を吹いて死んでしまいました。紳士たちが口にするのは、犬一匹が何円の損害かということばかりです。
帰り道もわからず、腹をすかせて歩いていると、すすきの中に立派な西洋造りの一軒家が現れます。玄関の札には「西洋料理店 山猫軒」。ガラス戸には、どなたもどうかお入りください、遠慮はいらないと書かれています。
二人は喜んで中へ入りますが、廊下には色とりどりの扉がいくつも続いていました。扉を開けるたびに、店から客への注文が書かれています。二人は不思議に思いながらも、どれももっともらしく理由をつけて、言われたとおりにしながら奥へ奥へと進んでいきます。
主な登場人物
- 二人の若い紳士
- 東京から狩りに来た青年たち。名前はなく、二人の会話で話が進む。
- 白熊のような犬
- 紳士たちが連れてきた二匹の猟犬。山奥で倒れてしまう。
- 専門の鉄砲打ち
- 紳士たちの案内役の猟師。山奥でまごついて、はぐれてしまう。
見どころ・おもしろいところ
扉ごとに増えていく注文
髪をとかし、はきものの泥を落とせ。金物はすべて外せ。扉を開けるごとに注文が届き、二人はそのつど自分たちに都合のいい理由を見つけて従います。注文の中身と二人の解釈のずれが、読むほどにおかしく、だんだん不気味になっていきます。
紳士たちの浅はかさ
犬が死んでも悲しむより先に金額を口にし、料理店では「ただでご馳走してくれる」と喜ぶ二人。見栄と欲で動く大人の姿が、軽い会話のなかで遠慮なく描かれます。童話集の広告文では、都会の文明とぜいたくな階級への村の子どもたちの反感を描いた作品だと紹介されていました。
声に出したくなるリズム
風がどうと吹き、草はざわざわ、木の葉はかさかさ。音をそのまま写した言葉が多く、声に出して読むと山の気配が伝わってきます。短いので、一度読んだあと音読してみるのもおすすめです。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
犬の値段に驚かない
冒頭で紳士たちは、犬が死んだ損害を二千四百円、二千八百円と口にします。童話集の定価が1円60銭、当時の映画の入場料が30銭ほどだったことを思えば、桁外れの金額です。紳士たちの裕福さと金銭感覚を示す場面として読むと、その後の展開が生きてきます。
同じ名前の童話集がある
『注文の多い料理店』は、九つの童話を収めた童話集の書名でもあります。表題作はその三番目に収められているので、本を探すときは収録作の一覧を確かめると迷いません。
売れなかった自費出版の童話集
表題作は、童話集の目次に1921年11月10日の日付が記された作品です。童話集は1924年12月1日、盛岡の杜陵出版部と東京光原社から1000部が出版されました。発行人は盛岡高等農林学校の一年後輩にあたる近森善一で、挿絵は岩手の図画教師だった菊池武雄が描いています。
定価が1円60銭と高めだったこともあり、本はほとんど売れ残りました。書名は飲食店向けの実用書と誤解されないかと心配され、その懸念は当たってしまったといいます。もともと全12巻の童話集の1冊目として構想されていましたが、続刊は取りやめになり、賢治が生前に出した単行本は詩集『春と修羅』と合わせて2冊だけになりました。
教科書に載る代表作へ
表題作は『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』などと並ぶ賢治の代表作として知られ、小学校の国語の教科書にも載っています。戦後まもなくのGHQの検閲では、冒頭の紳士たちがイギリスの兵隊の身なりをしているという部分が削られたことが知られています。
1958年には学研の人形アニメーションになりました。1993年には岡本忠成監督による台詞のないアニメーションが作られましたが、監督は完成を見ずに亡くなり、川本喜八郎が監修にあたりました。テレビドラマや舞台、紙芝居など、さまざまな形で語り直されています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
最後の扉には、注文が多くて気の毒だった、もうこれだけだから、壺の塩を体中によくもみこんでほしいと書かれていました。ここで二人はようやく、これまでの注文が自分たちを料理の材料として下ごしらえさせるものだったと気づきます。戻ろうにも後ろの扉は開かず、奥の扉の鍵穴からは目玉が二つこちらをのぞいていて、二人は泣き出してしまいます。
そのとき、死んだはずの二匹の犬が扉を破って飛びこみ、奥の扉へ突進します。気がつくと屋敷は消え、二人は服を失ったまま草の中に立っていました。案内の猟師も戻り、二人は無事に東京へ帰りますが、恐ろしさで紙くずのようにくしゃくしゃになった顔は、二度と元には戻りませんでした。
よくある疑問
- 『注文の多い料理店』はどんな話?
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山奥で道に迷った二人の紳士が西洋料理店「山猫軒」に入り、扉ごとに書かれた店からの注文に従って奥へ進んでいく話です。賢治の代表作の一つで、小学校の国語の教科書にも載っています。
- タイトルの「注文が多い」とはどういう意味?
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客が料理を注文するのではなく、店のほうが客に次々と注文をつける、という意味です。店に入ってすぐの扉に、当店は注文の多い料理店なので承知してほしいと書かれています。
- 山猫軒にモデルはある?
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1924年に花巻に建てられた、上野精養軒系列の花巻精養軒がヒントになったという説があります。レンガ造りの西洋建築で、花巻ではハイカラな店の一つでした。
- 『注文の多い料理店』は無料で読める?
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著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。新字新仮名の版が公開されています。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
