働かずに親の金で暮らす三十歳の代助が、友人の妻となった女性への思いに向き合っていく話です。かつて二人の結婚を取り持ったのは代助自身でした。気楽な暮らしを続けるか、すべてを失っても思いを貫くか。『三四郎』と『門』とともに前期三部作をなす長編です。
こんな人に
- やりたいことが見つからず、立ち止まっている自分に覚えがある人に
- 言えずに手放した気持ちを、いまも引きずっている人に
- 家族の期待と自分の生き方がぶつかった経験がある人に
あらすじ(ネタバレなし)
長井代助は大学を出ても職に就かず、一軒家に書生の門野を置いて、本家からもらう金で読書や演奏会を楽しんで暮らしています。三十歳を前にしても、働く気はありません。事業で財を成した父の得はそんな息子を咎め、資産家の佐川の娘との縁談を勧めますが、代助は乗り気になりません。
そこへ中学時代からの友人、平岡が妻の三千代を連れて東京に戻ってきます。銀行の支店で働いていた平岡は、部下の不始末がもとで職を辞し、借金を抱えていました。三千代は代助の学友だった菅沼の妹で、平岡との結婚を世話したのは代助でした。
ある日、三千代がひとりで代助の家を訪ねてきます。用件は500円の借金の頼みでした。親の金で何不自由なく暮らしてきたつもりの代助は、自分の手では彼女を助けられないことに気づかされます。
主な登場人物
- 長井代助
- 主人公。帝大を出ても働かず、親の援助で暮らす高等遊民。神経質で敏感な性格。
- 平岡常次郎
- 代助の旧友。銀行を辞めて借金を抱え、妻と上京してくる。のちに新聞社に勤める。
- 平岡三千代
- 平岡の妻で、亡くなった学友菅沼の妹。体が弱く、子を亡くしてから具合がすぐれない。
- 長井得
- 代助の父。維新を生き抜き、役人から実業界に入って財を成した。代助に縁談を勧める。
- 長井梅子
- 代助の兄嫁。代助を「代さん」と呼び、縁談の世話を焼く。代助とは気安く話す間柄。
- 長井誠吾
- 代助の兄。父の会社で重要な地位にあり、青山の家で父や妻子と暮らす。
- 門野
- 代助の家に置かれた書生。兄は郵便局、弟は銀行に勤めている。琵琶歌を歌う。
見どころ・おもしろいところ
働かない主人公の言い分
代助は職に就かないことを恥じていません。働く友人たちを見て、なぜ働くのかとむしろ疑問を抱きます。高等遊民と呼ばれた有閑知識人の考え方が、代助の口からそのまま語られるので、反発しながらでも読み進められます。
金の話が恋の話になる
三千代の借金の相談をきっかけに、代助は兄に断られ、兄嫁に頭を下げて金を工面します。金に困らないはずの自分が無力だと知る場面から、物語は動き出します。金の出どころに注意して読むと、代助の立場の危うさがよくわかります。
父の縁談に込められた計算
父の得が勧める佐川の娘は、得の命の恩人である高木家の縁者です。縁談の裏には、引退を前にした父の事業の都合もありました。父と子の言い分がかみ合わない場面は、明治の家と個人の対立として読めます。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
冒頭はほとんど何も起きない
物語は、代助が目を覚まして自分の脈を確かめる場面から始まり、しばらくは気ままな日常が続きます。代助が何を考えているかに付き合うつもりで読むと、平岡が現れてからの展開がよく効いてきます。
長井家の人が多い
父、兄、兄嫁のほか、兄の子の誠太郎と縫、亡き伯父の直記まで名前が出てきます。代助の味方に近いのは兄嫁の梅子と押さえておけば、家族の場面で迷いにくくなります。
1909年の東京を映した連載
『それから』は1909年6月27日から10月14日まで、東京朝日新聞と大阪朝日新聞に連載されました。翌1910年1月に春陽堂から単行本が出ています。前年の『三四郎』に続き、翌年の『門』へとつながる位置にある作品です。
作中の時代は連載と同じ1909年です。東京高等商業の紛争や、直前に同じ紙面で連載された『煤煙』、汚職で騒がれた日糖事件など、当時の読者が知っていた出来事が作中で話題にのぼります。新聞の読者にとって、代助は同じ時代を生きる人物でした。
映画と翻訳で読み継がれる
1985年には森田芳光監督、松田優作主演で映画化されました。この映画はキネマ旬報ベスト・テンの日本映画監督賞を受け、日本アカデミー賞でも優秀作品賞や最優秀助演男優賞などを得ています。
ほかに舞台化や漫画化もされています。海外では、ノーマ・フィールドによる英訳が1978年に「And Then」の題で刊行されました。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
代助は縁談を断る意向を伝えたうえで三千代を家に呼び、自分にはあなたが必要だと打ち明けます。三千代も結婚前から代助を思っていて、三年前に聞きたかったと泣きます。代助は佐川の娘との縁談を断り、父は生活費の援助を打ち切ると告げます。二人は会うことを重ね、代助は平岡に手紙を書きますが、返事は来ず、三千代が倒れたことを知ります。
訪ねてきた平岡に、代助は三千代を譲ってほしいと頭を下げます。平岡は承知しながらも、病が治るまでは渡せないと言い、二人は絶交します。平岡が父に事情を知らせたため、代助は勘当され、兄夫婦からも縁を切られます。夏の日差しの中、代助は職業を探してくると門野に言って町へ飛び出し、その目には赤い色があふれていきます。
よくある疑問
- 『それから』はどんな話?
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親の金で気ままに暮らしていた男が、友人の妻への思いを貫こうとして、家族も暮らしも失っていく話です。主人公は三十歳の長井代助です。
- 『三四郎』の続きなの?
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『三四郎』『それから』『門』の三作で、漱石の前期三部作をなしています。それぞれ1908年、1909年、1910年に発表されました。
- どのくらいの長さ?
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長編小説です。1909年6月27日から10月14日まで、朝日新聞に連載されました。
- 『それから』は無料で読める?
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著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。新字新仮名と新字旧仮名の版があります。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
