「こんな夢を見た」という書き出しで知られる、十の夢を一夜ずつ語る短い連作です。死にゆく女との約束、背中におぶった不気味な子ども、仁王を彫る運慶など、時代も場面もばらばらな夢が並びます。漱石には珍しい幻想的な味わいの作品です。
こんな人に
- 筋の通った話より、不思議な余韻が残る話が好きな人に
- 寝る前に短いものを一つずつ味わって読みたい人に
- 怪談や、現実と夢の境があいまいな物語が好きな人に
あらすじ(ネタバレなし)
語り手の「自分」が見た十の夢が、第一夜から第十夜まで順に語られます。一夜分はどれも短く、続いた話ではありません。舞台も、明治の東京から神代に近い遠い昔まで、夢ごとに入れかわります。
第一夜では、死の床についた女が、自分が死んだら墓のそばで百年待っていてほしいと「自分」に頼みます。第三夜では、田んぼ道を六つになるわが子をおぶって歩くうち、目の見えないはずの子どもが周りの様子を次々と言い当てはじめます。第六夜では、明治の世に運慶が現れて、護国寺の山門で仁王を彫っています。
ほかにも、行き先のわからない大きな船に乗っている夢、床屋の鏡に人が次々と映る夢、女にさらわれた庄太郎という男の話などが続きます。どの夢も、理由の説明がないまま夢らしい理屈で進んでいきます。
主な登場人物
- 自分
- 十の夢を見て語る語り手。夢ごとに、侍になったり戦に敗れた男になったりする。
- 第一夜の女
- 死の床で「自分」に百年待ってほしいと頼む女。静かな声で自分の死を告げる。
- 背中の子ども
- 第三夜で「自分」がおぶっている六つの子。目が見えないのに何でも言い当てる。
- 運慶
- 第六夜に登場する鎌倉時代の仏師。明治の見物人の前で、黙々と仁王を彫り続ける。
- 庄太郎と健さん
- 第十夜の人物。庄太郎は女にさらわれた男で、健さんがその話を「自分」に伝える。
見どころ・おもしろいところ
「こんな夢を見た」の響き
第一夜、第二夜、第三夜、第五夜は、同じ一文で書き出されます。短い一文がそのまま夢の入り口になり、読者もすっと別の世界へ連れていかれます。声に出して読むと、この書き出しの効き目がよくわかります。
夢をまたいで響く百年
第一夜の約束にも、第三夜の子どもの言葉にも、百年という長い時間が出てきます。夢の中では、その百年が気づかないうちに過ぎたり、急に目の前に戻ってきたりします。夢と夢のあいだに響き合うものを探すのも、この作品の楽しみ方です。
怖さと美しさが同居する
背中の子どもが何でも言い当てる第三夜のようなぞっとする夢もあれば、床屋の鏡に人が次々と映る第八夜のような不思議な夢もあります。一夜ごとに怖さ、美しさ、可笑しさの配合が違うので、自分の好きな夜を見つける読み方ができます。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
夢の意味を探しすぎない
夢なので、場面の移り方に理屈の説明はありません。わからないまま受け取ってよい作品だと割り切ると、かえって情景がくっきり残ります。
一夜ずつ区切って読む
十の夢はそれぞれ独立した話で、一夜分はごく短いものです。続けて読むと印象が混ざりやすいので、一夜読んだら少し間をおくくらいがちょうどよい作品です。
新聞に載った十日間の夢
『夢十夜』は1908年7月25日から8月5日まで、東京朝日新聞に連載されました。同じ年の9月からは、同じ朝日新聞で長編『三四郎』の連載が始まっています。
描かれる夢の舞台は、作者と同時代の明治から、鎌倉時代、神代に近い昔、百年後にまで及びます。写実的な小説の多い漱石の作品の中では、幻想文学の色合いが特に濃い一作とされています。
十人の監督による映画化
2006年には、十の夜をそれぞれ別の監督が撮ったオムニバス映画『ユメ十夜』が公開されました。第一夜を実相寺昭雄、第二夜を市川崑、第三夜を清水崇が手がけるなど、顔ぶれもさまざまです。
英語圏では『Ten Nights of Dreams』などの題で知られ、漱石を英語で学ぶ教材にも取り上げられています。写真家の宮澤正明は、「夢十夜」と題した写真作品でニューヨークのICPインフィニティアワード新人賞を受けました。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
第一夜で、女の墓のそばで待ち続けた「自分」の前に、一輪の真っ白な百合が伸びてきます。そのとき「自分」は、百年がもう来ていたことに気づきます。第三夜では、杉の木の前で子どもが、おまえがおれを殺したのはちょうど百年前だねと言い、「自分」が人殺しだったと気づいた途端、子どもは石地蔵のように重くなります。
第六夜で自分も仁王を彫ってみますが、明治の木には仁王は埋まっていないと悟ります。第七夜では船から海に身を投げた直後に命が惜しくなり、後悔しながら落ちていきます。第九夜では、母が無事を祈り続けた父は、とうに浪士に殺されていたと明かされます。第十夜の庄太郎は、崖の上で押し寄せる豚と七日六晩戦い、ついに倒れます。
よくある疑問
- 『夢十夜』はどんな話?
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語り手が見た十の不思議な夢を、一夜ずつ短く語った連作です。夢どうしに筋のつながりはなく、時代も場面もばらばらです。
- どのくらいの長さ?
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十の短い章からなる短編です。一夜分はごく短く、どこからでも読めます。
- 「こんな夢を見た」はどの夜の書き出し?
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第一夜、第二夜、第三夜、第五夜の四つの夜が、この一文で始まります。ほかの夜は、いきなり夢の場面から語り出されます。
- 『夢十夜』は無料で読める?
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著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。新字新仮名の版が公開されています。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
