坊っちゃん

坊っちゃん夏目漱石
発表
1906年(明治39年)
初出
雑誌『ホトトギス』第九巻第七号の附録として掲載
形式・長さ
小説・中編
手ごわさ
すぐ読める
親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。
書き出し

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ひとことで言うと

まっすぐで無鉄砲な江戸っ子の青年が、四国の中学校に数学教師として赴任し、生徒のいたずらや教師たちの陰険なかけひきに真正面からぶつかっていきます。同僚をあだ名で呼ぶ痛快な語りで進む、漱石の作品の中でも特に読みやすい中編です。

こんな人に

  • 曲がったことが嫌いで、つい損をしてしまう人に
  • 職場の人間関係にうんざりしたことがある人に
  • テンポのいい一人称の語りで一気に読みたい人に

あらすじ(ネタバレなし)

「おれ」は子どものころから無鉄砲で、家族からは疎まれて育ちました。ただひとり、下女の清だけが、まっすぐな気性だとほめてかわいがってくれます。父の死後、兄から渡された六百円で物理学校を出ると、卒業して八日目に四国の中学校の数学教師の口を即座に引き受けます。

赴任先の学校には、赤いシャツを着た教頭の「赤シャツ」、そのご機嫌をとる画学教師の「野だいこ」、いかつい数学主任の「山嵐」、顔色の悪い英語教師の「うらなり」がいます。あだ名はすべておれがつけたものです。

ところが、そば屋で天麩羅そばを四杯食べたことを黒板に書かれ、初めての宿直の夜には寄宿生からひどいいたずらを受けます。生徒を罰せよと訴えるおれに、事なかれ主義の教師たちは取り合いません。おれは、誰が味方で誰が敵かわからない職員室の中で、腹を立てながら立ち回っていきます。

主な登場人物

おれ(坊っちゃん)
語り手。物理学校を出たばかりの江戸っ子の新任教師。本名は最後まで出てこない。
清
おれの家の下女。家族に疎まれるおれをただひとりかわいがり、手紙で気にかけ続ける。
山嵐
数学の主任教師で、名字は堀田。会津の出身。正義感が強く、生徒に人望がある。
赤シャツ
教頭。学校で唯一の文学士。物腰は柔らかいが、裏で何を考えているかわからない。
野だいこ
画学の教師で、名字は吉川。赤シャツの腰巾着で、芸人のような口調で話す。
うらなり
英語の教師で、名字は古賀。お人よしで消極的。マドンナという令嬢の婚約者。
狸
校長。事なかれ主義で優柔不断。おれは初対面で狸のような男だと感じる。

見どころ・おもしろいところ

  1. あだ名で描かれる教師たち

    おれは同僚を、見た目や癖からつけたあだ名で呼びます。赤シャツ、野だいこ、うらなりといった呼び名だけで、人物の印象が一瞬で伝わるのがこの作品の強みです。読者もいつのまにか、おれと同じ目で職員室を眺めることになります。

  2. 遠くから届く清の手紙

    四国にいるおれのもとへ、東京の清から手紙が届きます。あだ名をつけるな、かんしゃくを起こすなと書いてくる清の存在が、おれの心の支えになっていることが、騒動の合間ににじみ出ます。痛快な話の底にある、さびしさや温かさにも目を向けてみてください。

  3. 息つく間もなく進む語り

    おれの語りは短い文で次々と進み、迷いや理屈をはさみません。漱石はこの作品を10日足らずで書き上げたとされ、その勢いが文章にも出ています。声に出して読むと、江戸っ子の啖呵のリズムがよくわかります。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

あだ名と名字が混じる

地の文ではあだ名が使われますが、会話の中では堀田、古賀、吉川といった名字で呼ばれることがあります。山嵐が堀田、うらなりが古賀、野だいこが吉川と覚えておけば、場面の途中で迷いません。

第一章は東京での生い立ち

全十一章のうち、第一章はおれの子ども時代と清との日々で、赴任先の学校は第二章から登場します。第一章の清とのやりとりは、最後まで読むと大切な意味を持つので、さっと読み流さないのがおすすめです。

松山での教師体験から

漱石は1895年4月から1年間、愛媛県尋常中学校で英語を教えていました。熊本の第五高等学校へ移るまでのこの体験を下敷きにして、10年ほど後に書かれたのがこの作品です。漱石の初稿では、赴任先は「四国辺」ではなく「中国辺」となっていました。

作品は1906年4月、『ホトトギス』の附録として全編が一度に載りました。同じ号には連載中の『吾輩は猫である』も載っています。いま読まれている本文には、編集者の高浜虚子による手直しが入っていることもわかっています。

何度も映像化された青春小説

漱石は談話の中で、坊っちゃんを愛すべき人物としながらも、単純すぎて複雑な社会では生きにくい人だと読者が感じてくれればよいと語っています。痛快な主人公として読まれる一方、作者自身はこうした距離をおいて描いていたことになります。

映画には1935年から1977年までに少なくとも5回なり、テレビドラマやアニメにもなりました。ただ作家の井上ひさしは、この作品は文章の面白さで成り立っているため、映像化はことごとく失敗しているという見方を述べています。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

おれは、赤シャツがうらなりの婚約者マドンナを横取りし、うらなりを延岡へ転任させたことを知ります。これをきっかけに、仲違いしていた山嵐と和解して手を組みますが、山嵐は赤シャツの策略で辞職に追い込まれます。二人は赤シャツの行状を見張り、芸者遊びの帰りを夜明けに待ち伏せて、野だいこともども制裁を加えます。

おれはその場で辞職して東京へ帰り、清と再会します。街鉄の技手になって清と家を持ちますが、清はやがて肺炎で亡くなります。死ぬ前、清は坊っちゃんの寺に埋めてほしいと頼み、その墓は小日向の養源寺にあります。

よくある疑問

『坊っちゃん』はどんな話?

無鉄砲な江戸っ子の新任教師が、四国の中学校で生徒や同僚とぶつかる話です。漱石の作品の中では平易で、大衆的な作品とされています。

モデルはいる?

漱石が1895年から翌年まで愛媛県尋常中学校で英語を教えた体験が下敷きになっています。登場する教師には当時の同僚をモデルとする説がいくつかありますが、赤シャツのモデルとされた人物は本人が否定しています。

作中の町は松山なの?

作中では「四国辺のある中学校」とされ、松山という地名は出てきません。ただし漱石の松山での教師体験がもとになっているため、松山が舞台と受け取られてきました。

『坊っちゃん』は無料で読める?

著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。新字新仮名の版が公開されています。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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