カムチャツカ沖で蟹をとり、その場で缶詰にする工船「博光丸」で、出稼ぎの労働者たちが過酷な労働と暴力にさらされます。やがて彼らは団結し、監督に立ち向かっていきます。特定の主人公がいない群像劇で、プロレタリア文学の代表作とされる小林多喜二の小説です。
こんな人に
- 働く現場の理不尽について考えたことがある人に
- 一人の英雄より、大勢の人の動きを描く話を読みたい人に
- 昭和初めの社会と労働の歴史を、物語で知りたい人に
あらすじ(ネタバレなし)
函館の港から、蟹工船「博光丸」が北の海へ出ていきます。蟹工船は、小さな川崎船でとったたらば蟹を、母船の中ですぐ缶詰に加工する大型の船です。乗りこむのは、東北や北海道の貧しい人々から集められた出稼ぎの漁夫たちと、十四、五歳の少年の雑夫たちでした。
工船は「航船」ではないため航海法が適用されず、工場でもないため工場法も適用されません。法の空白に置かれた閉ざされた船の中で、監督の浅川は労働者を人間として扱わず、暴力をふるって働かせます。
劣悪な環境のなかで、病気や過労で倒れる者が相次ぎます。ある日、遭難した川崎船の漁夫たちがロシア人に助けられて戻ってきます。その出来事をきっかけに、それまで黙って耐えていた労働者たちの考えが少しずつ変わり始めます。
主な登場人物
- 浅川
- 会社から送りこまれた監督。労働者を人間扱いせず、船長よりも強い力を持つ。
- 漁夫たち
- 東北や北海道から集められた出稼ぎの男たち。作品の中心にいる群像。
- 雑夫たち
- 函館の貧しい地域などから集められた十四、五歳の少年たち。
- 学生上りの漁夫
- 元学生の漁夫。船の現実を、本で読んだ流刑地と比べて考える。
- 船長
- 博光丸の船長。船の上での判断を、監督の浅川に押さえつけられる。
- ロシア人と中国人の通訳
- 遭難した漁夫たちを助けた人々。漁夫たちの考えを変えるきっかけになる。
見どころ・おもしろいところ
主人公のいない物語
この小説には特定の主人公がいません。船で酷使される労働者たちの群れそのものが描かれ、名前のない漁夫や雑夫の声が次々に入れ替わります。一人の目ではなく、船全体の空気として出来事が伝わってきます。
船長の判断を止める監督
並んで航行していた船から救難信号が届いたとき、助けに向かおうとする船長を浅川が押しとどめます。人の命より操業の日程が優先される場面で、この船で何が一番強いのかが早い段階ではっきり示されます。
異国の人との出会い
遭難してロシア人に助けられた漁夫たちは、言葉の通じない相手を自分たちと同じ人間だと感じます。中国人の通訳がたどたどしい日本語で語る言葉が、漁夫たちの胸に残り、物語の流れを変えていきます。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
主人公を探さずに読む
特定の主人公がいないので、誰の話なのかわからなくなりがちです。「漁夫たち」「雑夫たち」という集団を主人公だと思って読むと、場面が切り替わっても流れを見失いません。
方言と荒い言葉に慣れる
漁夫たちの会話は、東北や北海道の言葉と荒っぽい口調で書かれています。意味がとれない言い回しがあっても、前後の場面から気持ちを読み取れば十分です。全十章と附記から成る中編なので、勢いで読み進められます。
発禁と伏字のなかで
『蟹工船』は1929年、雑誌『戦旗』の5月号と6月号に発表されました。検閲に配慮して全体に伏字が入れられていましたが、6月号は発売頒布禁止の処分を受けました。
翌1930年には、献上品の蟹缶詰をめぐる作中の記述が問題とされ、小林多喜二は不敬罪で追起訴されました。ほぼ完全な内容を収めた本文が全集として刊行されたのは、1968年になってからです。
再び読まれた古典
発表の年には劇団によって舞台化され、1953年には山村聡の監督・主演で、2009年にはSABUの監督で映画になりました。いくつもの言語に翻訳され、国際的にも評価されています。
作者の没後75年にあたる2008年には、新聞の対談をきっかけに若い読者を中心に読まれ、文庫が半年で40万部増刷されました。この年の新語・流行語大賞では「蟹工船(ブーム)」がトップ10に選ばれています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
労働者たちは代表を選んでストライキに踏み切ります。しかし浅川たちは無線で海軍に鎮圧を求め、横づけした駆逐艦から乗りこんできた水兵に代表たちは逮捕され、最初のストライキは失敗に終わります。労働者たちは作戦を練り直し、もう一度立ち上がります。
作品の最後に置かれた附記は、その後のことを短く記しています。二度目のサボタージュは成功し、ストライキが起きた船は博光丸だけではありませんでした。漁期のあと、浅川は会社に責任を問われて解雇されます。漁夫や雑夫たちは、初めて知った組織と闘争の経験を抱えて、さまざまな労働の場へ入っていきました。
よくある疑問
- 『蟹工船』はどんな話?
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北の海で蟹を缶詰にする工船の中で、酷使される労働者たちが団結し、ストライキに立ち上がるまでを描いた小説です。
- 実話がもとになっている?
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作中の博光丸には、実際に北洋の蟹漁に使われていた元病院船の博愛丸というモデルがあります。
- どのくらいの長さ?
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全十章に短い附記がついた中編です。雑誌『戦旗』に2号に分けて発表されました。
- 『蟹工船』は無料で読める?
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著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
