人と違う性の傾向に気づいた「私」が、幼いころから23歳までの自分を振り返り、自分で自分を解剖するように語っていく告白の物語です。後半では、友人の妹・園子への恋と、その恋を前にした迷いが描かれます。発表当時24歳だった三島を一躍有名にした自伝的長編です。
こんな人に
- 人に見せている自分と本当の自分のずれに悩んだことがある人に
- 自分の心をとことん分析していく文章が好きな人に
- 戦中から戦後へ移る時代の空気を、一人の青年の目で知りたい人に
あらすじ(ネタバレなし)
「私」は、自分が生まれたときの光景を覚えていると言います。生まれてまもなく若い母から引き離され、病床の祖母に溺愛されて育ちました。外で走り回ることも男の子の玩具も禁じられ、遊び相手は女中や看護婦、祖母が選んだ女の子だけでした。
幼い「私」の心を捉えたのは、坂を下りてくる若者や、行進する兵士たちの姿でした。13歳のとき、グイド・レーニの描いた「聖セバスチャン」の絵に強く惹きつけられ、やがて逞しい級友の近江に恋をします。そして自分の好みが、女性に関心を寄せる友人たちとは違うことに気づき、苦しみ始めます。
大学生になった「私」は、友人・草野の妹である園子と親しくなります。空襲と学徒動員の続く戦時下、二人は本を貸し借りし、手紙を交わすようになります。園子を大切に思う気持ちに偽りはないのに、「私」は自分が普通の恋人を演じているのではないかという思いから逃れられません。
主な登場人物
- 私
- 語り手。作者自身を思わせる人物で、生まれてから23歳までを振り返って語る。
- 祖母
- 病気がちの祖母。生まれたばかりの私を母から引き取り、閉め切った部屋で育てた。
- 近江
- 私の級友。粗野で逞しい少年で、私が初めて恋心を抱く相手。
- 草野
- 私の友人。のちに入隊し、私は彼の家族とともに面会に出かける。
- 園子
- 草野の妹。ピアノを弾く少女で、後半の物語の中心になる。
見どころ・おもしろいところ
自分を解剖する文体
三島はこの作品を、他人に向けてきた心理分析の刃を自分に向ける試みだと編集者に書き送っています。幼い日の記憶の一つひとつを理屈で掘り下げていく文章は、告白というより観察記録のようです。理知的で詩的な言葉づかいそのものが、この作品の読みどころです。
一枚の絵が変える少年
13歳の私を強く揺さぶるのは、矢に射られた殉教者を描いたグイド・レーニの「聖セバスチャン」です。発表当時、評論家の神西清はこの場面を世界文学でも珍しいものだと評しました。一枚の絵が少年の自覚の出発点になる場面として、記憶に残ります。
戦時下の園子との日々
第3章は、ほかの章と違って日付や曜日まで記され、時間と場所の輪郭がはっきりしています。研究者の杉本和弘は、この章を戦時下の幸福だった私の物語とも読めると論じています。死が身近にある時代だからこそ、二人の関係が張りつめた熱を帯びていきます。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
前半は分析が続く
第1章・第2章は、幼年期から少年期の記憶と、それを分析する言葉が続き、出来事はあまり起きません。全4章のうち後半に園子との恋が置かれていると知っておくと、前半を準備の時間として読めます。
「私」と作者を分けて読む
作者自身の体験が多く使われていますが、三島は人物を一人にまとめるなどの手を加えたと手紙に書いています。題名のとおり仮面をかぶった告白なので、どこまでが事実かを決めつけず、一つの小説として読むほうが入りやすくなります。
冒頭の引用は読み流してよい
本文の前に、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』からの長い引用が置かれています。作品の主題に関わる言葉ですが、読み終えてから戻ってくると意味がつかみやすくなります。
大蔵省を辞めて書いた一作
三島は1948年9月に大蔵省を辞め、河出書房の依頼で長編に取りかかりました。1948年11月25日に書き始め、翌年4月27日に書き終えています。出版社の「書き下ろし長篇小説」の企画の一冊で、担当編集者は坂本一亀でした。
執筆の前に三島は心理学者を訪ね、同性愛について話を聞いたり、海外の医師の著作を読んだりしています。また、初恋の相手が別の男性と結婚したことが、自伝的な小説を書く決意につながったとされています。三島はこの作品を書くことで、自分の生を取り戻そうとしたと語っています。
24歳の作家を生んだ告白
刊行の年の暮れ、『仮面の告白』は読売新聞の「1949年読売ベスト・スリー」に選ばれ、選考員10人のうち川端康成ら6人が推しました。同性愛という主題を正面から書いたことが話題となり、三島はこの作品で一躍注目される作家になりました。評論家の花田清輝は、ここから日本の文学の二十世紀が始まるとまで評しています。
1958年にはメレディス・ウェザビーによる英訳が出て、その後イタリア語やフランス語など各国語に訳されました。担当編集者・坂本一亀の息子である坂本龍一は、この題名をヒントにYMOの「BEHIND THE MASK」を作曲しています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
軽井沢の疎開先に招かれた私は、園子と高原を歩くなかで口づけを試みますが、何も感じません。草野の家から結婚の申し出が届くと、私は遠回しに断り、そのまま終戦を迎えます。まもなく園子はほかの男性と結婚しました。友人に誘われて娼家へ行った私は、自分が女性を愛せないことを思い知らされ、絶望します。
ある日、人妻となった園子に偶然出会い、二人は再び人目を避けて会うようになります。肉体の欲望はないのに会いたいという気持ちを、私は自分でも説明できません。最後の場面、真昼のダンスホールの中庭で、私は刺青のある若者の姿に見入って園子の存在を忘れます。別れの時間を告げる園子の声を聞いたとき、私は自分の内側が引き裂かれるのを感じます。
よくある疑問
- 『仮面の告白』はどんな話?
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同性に惹かれる自分に気づいた青年が、幼いころからの記憶と、友人の妹・園子との恋を一人称で告白する話です。前半は性の目覚めの分析、後半は園子との関係が中心になります。
- 実話がもとになっている?
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三島自身の体験をもとにした自伝的作品です。園子のモデルは友人の妹で、三島の初恋の相手とされる女性です。近江にも、学校で同じクラスにいた年上の少年というモデルがいました。
- タイトルの意味は?
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三島は、人は本当の告白をなしえないもので、肉に食い込んだ仮面だけがそれを成し遂げられるという逆説から題をつけたと述べています。一見矛盾した「仮面」と「告白」の組み合わせに、作品の考え方が込められています。
- どのくらいの長さ?
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三島の2作目の長編小説で、長い4つの章で構成されています。語り手の「私」が、生まれてから23歳までを順を追って振り返ります。
