ペスト

ペストカミュ
原題
La Peste
発表
1947年
初出
1947年6月、パリのガリマール社から刊行
形式・長さ
小説・長編
手ごわさ
ふつう

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ひとことで言うと

アルジェリアの港町オランで、ペストが発生して町ごと封鎖されます。外へ出られなくなった町で、医師リウーと仲間たちは、終わりの見えない病との闘いを続けます。逃げ出したい人、祈る人、もうけようとする人。不条理が集団を襲ったときの人々の姿を描いた長編です。

こんな人に

  • 思いがけない災いの中で、人がどう振る舞うかに関心がある人に
  • 派手な英雄より、黙々と仕事を続ける人の話に心を動かされる人に
  • 閉ざされた町を舞台にした群像劇が好きな人に

あらすじ(ネタバレなし)

1940年代、フランス領アルジェリアの港町オラン。ある朝、医師ベルナール・リウーは、建物の階段で一匹の死んだ鼠につまずきます。やがて町じゅうで鼠が死にはじめ、ついには人が高熱を出して死んでいきます。リウーは同僚と話し合い、それがペストだと気づきます。

市当局は事態を軽く見て、なかなか手を打とうとしません。死者が増え続けたすえに、ようやく流行が宣言され、町は外の世界から完全に遮断されます。物価は上がり、市民は疲れ果てていきますが、裕福な家はほとんど不自由をしません。

パリにいる妻のもとへ帰りたい新聞記者ランベールは、密輸業者を頼って脱出の手立てを探します。イエズス会のパヌルー神父は、ペストは罪への当然の報いだと説教します。その一方で、リウーと、町に滞在していたよそ者のタルー、下級役人のグランは、患者の治療に走り回ります。

主な登場人物

リウー
ベルナール・リウー。オランの医師。妻は病気の療養のため町の外にいる。
タルー
ジャン・タルー。町に滞在していたよそ者。彼の手帳の記録も物語のもう一つの語りになる。
グラン
ジョセフ・グラン。作家を志している下級役人。リウーたちの仕事を手伝う。
ランベール
レイモン・ランベール。町に取材に来ていた新聞記者。パリに妻を残し、封鎖で町から出られなくなる。
パヌルー神父
博識で戦闘的なイエズス会の神父。大聖堂でペストについて説教する。
コタール
以前に自殺を図った男。罪を犯して追われる身で、封鎖の中で密輸に手を染める。
オトン氏
町の予審判事。「ふくろう男」とあだ名される堅物。

見どころ・おもしろいところ

  1. 名乗らない語り手

    物語は、ある人物が残した記録のような淡々とした語りで進みます。語り手が誰なのかは長く伏せられ、ときどきタルーの手帳からの抜き書きもはさまれます。誰がこの記録を書いているのかを気にしながら読むと、最後にもう一つの発見があります。

  2. 町を出たい記者の迷い

    封鎖された町で、たまたま居合わせただけのよそ者の記者ランベールは、何としても妻のもとへ帰ろうとします。彼の願いは身勝手なのか、それとも当然なのか。医師たちとの会話を通して、ランベールの気持ちが揺れていく過程が丁寧に描かれます。

  3. 説教する神父と働く医師

    パヌルー神父は、ペストを罪への当然の報いだと説いて市民に悔い改めを迫ります。一方でリウーは、目の前の患者を治すことだけを考えて働きます。信仰と医療という二つの向き合い方が、物語の中で何度もぶつかります。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

封鎖までの前半はゆっくり

最初は鼠が死んでいく様子や、当局の話し合いが続き、なかなか大きく動きません。町が封鎖されるまでを物語の準備と考えて読むと、そこから先の緊張がよく伝わります。

人物は役割で覚える

登場人物は多いですが、医師・よそ者・役人・記者・神父と、それぞれ立場がはっきりしています。名前より役割で覚えておくと、誰がどの考えを代表しているのかがつかみやすくなります。

疫病の話の裏にあるもの

記録文学のように書かれていますが、作中の大流行は実際には起きていない架空の出来事です。ナチス・ドイツをはじめとするファシズムの寓意とする解釈が一般的なので、戦争の時代の話として読み直すこともできます。

戦争のさなかに構想された

カミュは1941年4月にはすでにこの小説に取りかかっており、日記に「贖いのペスト」についての考えを書きとめています。翌1942年には作家アンドレ・マルローに宛てて、ペストについての小説を書いていると伝えました。第二次世界大戦のさなかのことです。

材料になったのは、1849年にオランの人口の多くを奪ったコレラの大流行でした。カミュは舞台を1940年代に移し、自分が生まれ育った北アフリカのフランス領を描きました。巻頭には、ダニエル・デフォーの言葉がエピグラフとして掲げられています。

不条理が集団を襲う物語

カフカの『変身』が個人を襲う不条理を描いたのに対し、『ペスト』は集団を襲う不条理を描いたと言われます。カミュ自身は「実存主義」という呼び名を嫌いましたが、本作は実存主義文学の古典とされています。カミュは1957年、40代前半でノーベル文学賞を受けました。

戦後は、ナチスの占領に対するフランスのレジスタンスを描いた寓話としても読まれてきました。2020年の新型コロナウイルスの世界的な流行では、町の封鎖が現実と重なって読まれ、イタリアでは売り上げが3倍になりました。1992年にはルイス・プエンソの監督で映画化されています。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

ランベールは脱出の手はずが整ったにもかかわらず、リウーの妻も町の外にいると知って、ひとりで幸福になることを恥じ、町に残って働きます。オトン判事の幼い息子は、新しい血清を打たれながら苦しんで死に、パヌルー神父も病に倒れて、医師の診察を拒んだまま信仰とともに亡くなります。グランは奇跡的に回復し、ペストは潮が引くように終息へ向かいます。

しかし最後の時期に、タルーが病に倒れて死に、その直後、リウーは療養中の妻の死を知らされます。封鎖が解かれて人々が喜びに沸くなか、コタールは錯乱して銃を乱射し、逮捕されます。語り手がリウー自身だったことが明かされ、彼はペスト菌が決して消えることなく、いつかまたどこかの町に現れることを知っている、と記して物語を結びます。

よくある疑問

『ペスト』はどんな話?

ペストの流行で封鎖されたアルジェリアの町オランで、医師リウーたちが病と闘い続ける話です。災いに直面した人々のさまざまな態度が描かれます。

実際にあった出来事がもとになっている?

作中の大流行は架空の出来事です。カミュは1849年にオランで多くの死者を出したコレラの流行を材料にし、舞台を1940年代に移して書きました。

カフカの『審判』と関係がある?

一つの文に複数の意味が込められた語り口が、カフカの『審判』に通じると言われています。作中でも、コタールが『審判』について触れる場面があります。

どのくらいの長さ?

長編小説です。ペストの最初の兆しから、町の封鎖が解かれるまでの出来事が、時間の流れに沿って描かれます。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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