銀行員ヨーゼフ・Kは、30歳の誕生日の朝、理由を知らされないまま逮捕されます。何の罪なのかも、誰が訴えたのかもわからないまま、Kは見えない裁判所を相手に無実を訴えようとします。生前には発表されなかった、カフカの未完の長編です。
こんな人に
- 理由のわからない決まりや手続きに振り回された経験がある人に
- 筋の通らない夢のような世界に浸ってみたい人に
- 短い章ごとに区切って少しずつ読みたい人に
あらすじ(ネタバレなし)
銀行で業務主任を務めるヨーゼフ・Kは、30歳の誕生日の朝、下宿の部屋に現れた見知らぬ二人の男から、あなたは逮捕されていると告げられます。どんな罪なのかと尋ねても、男たちは知らないと言うばかりです。しかも逮捕されたというのに、これまでどおり勤めに出てよいというのです。
やがて電話で呼び出しを受けたKは、日曜日に審理に向かいます。たどり着いたのは役所ではなく、古いアパートの一室でした。Kは集まった人々の前で、手続きのずさんさを堂々と訴えます。その後、裁判所の事務局が安アパートの屋根裏にあることを知り、Kは得体の知れない組織の大きさを感じはじめます。
噂を聞きつけた叔父は、病に伏せる知り合いの弁護士フルトをKに紹介します。Kは自分の訴訟を何とか有利に運ぼうと、弁護士や裁判所に出入りする人々を頼っていきます。
主な登場人物
- ヨーゼフ・K
- 主人公。銀行の業務主任で30歳。姓は最後まで「K」としか書かれない。
- ビュルストナー嬢
- Kと同じ下宿の隣室に住む女性。逮捕の朝、彼女の部屋が勝手に使われる。
- グルーバッハ夫人
- Kが部屋を借りている下宿の家主。
- 叔父カール
- 田舎に住むKの叔父。甥の裁判を心配して、弁護士を紹介する。
- 弁護士フルト
- 叔父の学校仲間で、病床にある弁護士。Kの訴訟を引き受ける。
- レニ
- 弁護士フルトの家の女中。初めて会ったKにすぐ近づいてくる。
- ティトレリ
- 裁判所に出入りする画家。裁判の内情に詳しいとされ、Kが助言を求めに行く。
見どころ・おもしろいところ
屋根裏にある裁判所
Kを裁く裁判所は、立派な建物ではなく、町はずれの安アパートの屋根裏にあります。長い廊下が待合室になっていて、被告たちが黙って座っています。現実の町の中に、異様な裁判の世界が入り込んでいる描き方が独特です。
罪の中身が語られない
Kが何の罪に問われているのかは、本人にも読者にも知らされないまま話が進みます。手がかりを探すKの努力が空回りするたびに、読む側も同じように宙づりにされます。謎解きではなく、その不安そのものを味わう小説です。
作中で語られる「掟の門前」
「大聖堂にて」の章で、Kは教誨師から、掟の門の前で待ち続ける男の短い物語を聞かされます。カフカはこの部分を「掟の門前」の題で生前に発表しました。短いたとえ話が、長編全体を読み解く鍵のように置かれています。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
未完の作品だと知っておく
結末の章は書かれていますが、途中の章は断片のまま残されました。章の並べ方にも諸説があり、版によって順序が違うことがあります。話のつながりが急に途切れても、自分の読み落としだと思わなくて大丈夫です。
理由を探しすぎない
逮捕されたのに勤めに出てよいと言われるなど、筋の通らない出来事が説明のないまま続きます。なぜかを考え込むより、Kと一緒に振り回されるつもりで読み進めると、作品の手触りがつかめます。
章ごとに区切って読む
各章には「逮捕」「最初の審理」「叔父 レニ」のように、カフカが草稿につけた章題があります。一章ごとに一つの出来事が描かれているので、短編を一つずつ読むように進めると長さが気になりません。
婚約解消の直後に書き始めた
カフカは1914年8月に『審判』を書き始め、まず冒頭の「逮捕」と最後の章をほぼ同時に書き上げました。その2週間前、恋人フェリーツェ・バウアーとの婚約を解消しています。ホテルの一室で友人を交えて行われた話し合いを、カフカは日記で「法廷」と表していました。
第一次世界大戦が始まり、昼間の勤めの負担も重くなった時期でした。10月には執筆のために2週間の休暇を取りましたが筆は進まず、その間に短編「流刑地にて」などを書いています。翌1915年1月、『審判』は未完のまま放棄されました。
友人の手で世に出た原稿
カフカが自分の原稿を処分する癖を知っていた友人マックス・ブロートは、原稿を預かって保管していました。残されていたのは、ノートから破り取った161枚の紙の束です。どの章が完成していて、どう並べるのかは知らされていませんでした。
カフカの死後、ブロートは章を組み直し、生前の会話をもとに題をつけて1925年に刊行しました。作品は20世紀を代表する小説の一つとされ、1962年にはオーソン・ウェルズの監督で映画化されています。舞台やオペラにもなり、主人公の名を取ったバンドまで現れました。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
弁護士に任せても裁判は少しも進まず、Kは画家ティトレリから、完全な無罪はまず得られないと聞かされます。Kはついに弁護士を解任しますが、そこで同じ被告の商人ブロックが弁護士に奴隷のように扱われる姿を見せつけられます。大聖堂では教誨師が「掟の門前」の物語を語り、門番がその門は男ひとりのためのものだったと告げて門を閉める話を、二人は長く論じ合います。
31歳の誕生日の前夜、二人組の男がKの部屋を訪れます。Kは郊外の石切り場へ連れて行かれ、心臓を刃物で突かれて殺されます。最期にKは、まるで犬のようだという言葉を残して死んでいきます。
よくある疑問
- 『審判』はどんな話?
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理由を知らされないまま逮捕された銀行員ヨーゼフ・Kが、正体のわからない裁判所を相手に無実を訴えようとする話です。カフカが不条理を描いた代表作として知られています。
- 『審判』は未完の小説?
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未完です。結末の章は書かれていますが、途中の章は断片にとどまっています。カフカは1915年1月に執筆を放棄しました。
- 『訴訟』という本と同じ作品?
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同じ作品です。原題の Der Process は「訴訟」「経緯」という意味で、訳によっては『訴訟』の題で出ています。
- 『審判』は無料で読める?
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青空文庫で、原田義人による訳が無料で読めます。新字新仮名で公開されています。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
