外回りの販売員グレゴール・ザムザが、ある朝目を覚ますと巨大な虫になっていたという出来事から始まる物語です。なぜそうなったのかは最後まで説明されず、変わり果てた息子と向き合う家族の暮らしの変化が、淡々と描かれていきます。不条理文学の代表作として知られる中編です。
こんな人に
- 働いても働いても報われない気分になったことがある人に
- 説明のつかない出来事を、そのまま受け止める話を読みたい人に
- 短い作品で、長く考えさせられる小説を探している人に
あらすじ(ネタバレなし)
布地の販売員をしている青年グレゴール・ザムザは、ある朝、自分の部屋のベッドで目を覚まし、自分が巨大な虫になっていることに気づきます。驚きながらも彼が考えるのは、出張の多いつらい仕事のことや、早起きへの不満でした。両親には商売の失敗による借金があり、それを返し終えるまで仕事は辞められないのです。
ふと時計を見ると、出張に出る時間はとうに過ぎていました。ドアの向こうから家族が心配して声をかけ、やがて様子を見に店の支配人まで家にやって来ます。部屋の中から懸命に弁解するグレゴールですが、自分の言葉がどうやら相手に通じていないようです。
グレゴールは苦労してベッドから這い出し、ドアの鍵を開けて、家族と支配人の前に姿を現そうとします。こうして、一家の働き手だった息子が虫になった家族の日々が始まります。
主な登場人物
- グレゴール・ザムザ
- 主人公。布地の外回り販売員で、両親と妹を養う一家の働き手。
- グレーテ
- グレゴールの妹。ヴァイオリンを弾く。虫になった兄の世話を引き受ける。
- 父親
- グレゴールの父。商売に失敗して借金を抱えている。虫になった息子に厳しく当たる。
- 母親
- グレゴールの母。変わり果てた息子の姿を見て、へたり込んだり気を失ったりする。
- 店の支配人
- グレゴールの勤め先の支配人。出勤しない彼の様子を確かめに家まで来る。
見どころ・おもしろいところ
虫になって心配すること
体が虫になったという大事件のさなかに、グレゴールが真っ先に気にするのは遅刻と仕事のことです。異常な出来事と、あまりに日常的な心配とのずれが、この作品の不気味さとおかしさを生んでいます。
変わっていく家族
物語の中心は、グレゴールそのものより、彼を抱えた家族の変化です。働き手を失った一家がどう暮らしを立て直していくかに目を向けると、三つの章でそれぞれ家族の顔つきが違って見えてきます。
作者は笑いながら朗読した
暗い話と受け取られがちですが、カフカは友人マックス・ブロートらの前でこの原稿を朗読したとき、絶えず笑いながら読んだと伝えられています。深刻さの中にある滑稽さを探しながら読むのも一つの楽しみ方です。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
虫の正体は書かれていない
原文の言葉は害のある生き物全般を指す語で、作中の描写からもどんな種類の虫かはわかりません。姿をはっきり思い描こうとせず、家族にとって「受け入れがたいもの」になったと考えて読むと先へ進みやすくなります。
全体は三つの章だけ
作品は番号のついた三つの章でできた中編です。変身の理由は最後まで明かされないので、謎解きを待たずに、章ごとに家族の様子がどう変わるかを追っていくと読み通しやすくなります。
出張の合間に書かれた中編
『変身』は1912年の10月から11月にかけて書かれました。当時のカフカは労働傷害保険局に勤めており、作中のグレゴールと同じく出張の多い身でした。執筆は出張で中断され、カフカはそのせいで出来が悪くなったと日記に書いています。
このころカフカは、のちに婚約するフェリーツェ・バウアーと文通を始めたばかりで、手紙で執筆の様子を逐一知らせていました。人が虫になるという着想には前例があり、未完の作品「田舎の婚礼準備」にも、ベッドで甲虫になった自分を思い描く場面があります。ザムザという名は、カフカという名と同じ母音と子音の組み合わせを思わせるとも指摘されています。
不条理文学の代表作として
1915年に雑誌に掲載されたあと、同じ年に単行本になりました。カフカは表紙を描く画家について、出版社に虫そのものを描いてはいけないと注文をつけています。実際の表紙には、暗い部屋のドアから顔を覆って離れていく若い男が描かれました。
この作品は、カミュの『ペスト』と並ぶ不条理文学の代表作とされ、実存主義の文学の一つとしても読まれてきました。映画やアニメーション、漫画に何度も翻案され、この作品に触発された作曲家フィリップ・グラスの曲や、主人公の名を取ったバンドなども生まれています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
グレゴールは部屋に閉じこもり、妹グレーテが食べ物を差し入れて世話をします。母と妹が家具を運び出そうとした日、壁の雑誌の切り抜きにへばりつく姿を見た母が気を失い、帰宅した父が投げたリンゴがグレゴールの背中にめりこみます。その傷はいつまでも治りませんでした。一家は切り詰めた暮らしを始め、母も妹も働きに出て、部屋の一つを三人の紳士に貸します。
ある晩、グレーテのヴァイオリンに心を動かされたグレゴールが部屋から這い出し、それを見た紳士たちは怒って出ていきます。グレーテはもう兄を見捨てるべきだと言い、父も同意します。グレゴールは家族への愛情を思い返しながら息絶えました。翌日、片づけが済むと、家族は三人そろって散策に出かけ、将来に希望を見出し、美しく成長した娘の結婚相手を探そうと話し合います。
よくある疑問
- 『変身』はどんな話?
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ある朝突然巨大な虫になってしまった販売員グレゴールと、その家族のその後を描いた話です。
- グレゴールは何の虫になったの?
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作中では種類はわかりません。原文のドイツ語は鳥や小動物まで含む有害な生き物全般を指す言葉です。作家のナボコフは、胴の大きくふくらんだ甲虫だろうと考えました。
- どのくらいの長さ?
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三つの章でできた中編小説です。カフカの作品の中では比較的短く、まとまった一作として読み切れます。
- 仮面ライダーの「変身」と関係がある?
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日本語版の資料によると、特撮番組『仮面ライダー』で主人公が姿を変えることを「変身」と呼ぶのは、この作品の題名に由来するとされています。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
