少年ジェロームは、2歳年上の従姉アリサを一途に愛し続けます。アリサも彼を想っていますが、神の国への強い憧れと妹への遠慮から、結婚をためらい続けます。題名は新約聖書の「狭き門」の一節から取られ、信仰と地上の恋のあいだで引き裂かれる二人が描かれます。
こんな人に
- 好きな人のために自分の気持ちを抑えてしまった人に
- 信仰や理想と目の前の恋のあいだで迷ったことがある人に
- 手紙や日記から人の本心を読み解く話が好きな人に
あらすじ(ネタバレなし)
舞台はフランス北部の海辺の町です。語り手のジェロームは少年のころ、2歳年上の従姉アリサに恋をします。まだ10歳か11歳だった二人は、言葉にはしないまま、いつまでも互いを想い続けると約束したような間柄になります。
ある日、アリサの母が別の男性と家を出ていきます。その次の日曜日、教会の説教で読まれたのが、狭い門から入るよう努めなさいという聖書の一節でした。ジェロームはこのとき、アリサにふさわしい人間になろうと心に決めます。
やがて成長したジェロームは、アリサといずれ結婚するものと信じ、二人は数多くの手紙を交わし続けます。けれどもアリサは、ジェロームを愛していながら、なかなか結婚に踏み切ろうとしません。そこには、アリサの妹ジュリエットがジェロームに寄せるひそかな好意もからんでいました。
主な登場人物
- ジェローム
- 物語の語り手。少年のころから従姉のアリサを愛し、彼女にふさわしい人になろうとする。
- アリサ
- ジェロームより2歳年上の従姉。彼を愛しながら、神の国に強く憧れている。
- ジュリエット
- アリサの妹。姉とジェロームの仲を知りながら、ジェロームにひそかな好意を抱く。
- アリサの母
- アリサとジュリエットの母。夫を裏切る振る舞いが、物語の初めで娘たちに影を落とす。
見どころ・おもしろいところ
題名になった聖書の一節
「狭き門」は、神の救いを得るには困難な道を歩まなければならない、という意味の聖句です。この言葉は第1章の終わりで教会の説教として読まれ、ジェロームの心に深く残ります。同じ一節をアリサがどう受け止めていくのかが、物語の芯になっていきます。
手紙と日記で見える二つの心
語り手はジェロームですが、作中には二人の手紙が数多く引かれます。さらに終盤にはアリサ自身の日記が置かれ、それまでの出来事を彼女の側から読み直すことになります。ジェロームの語りだけでは見えなかったものが、そこで浮かび上がります。
『背徳者』と対になる物語
ジッドは日記の中で、この作品を『背徳者』の双子のような作品だと述べています。快楽に目覚めて道徳に背を向ける男を描いた『背徳者』とは逆向きに、こちらは徳を求めて自分を追い詰めていく女性を描きます。二冊を並べて読むと、作者が両方の行き過ぎを見つめていたことがわかります。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
手紙のやりとりが長く続く
物語のかなりの部分が、ジェロームとアリサの手紙のやりとりで書かれています。誰が誰に宛てた手紙かを意識しながら読むと、言葉の行き違いや、書かれなかった本心に気づきやすくなります。
信仰の言葉に戸惑う
アリサの思いには、キリスト教の信仰や神の国への憧れが深く結びついています。なじみのない言葉が出てきても、題名の聖句の意味を一つ押さえておけば、アリサがなぜためらうのかを追いやすくなります。
従姉妹と姉妹の関係
ジェロームにとってアリサとジュリエットはどちらも従姉妹で、二人は姉妹どうしです。アリサが姉、ジュリエットが妹と覚えておくと、三人の気持ちの向きが入り組む場面でも迷いません。
従姉への思いから生まれた物語
この作品の土台には、ジッドが1888年から1891年にかけて従姉に求愛し、思いが届かなかった記憶があります。その従姉マドレーヌとは1895年に結婚しましたが、二人のあいだに夫婦の交わりはありませんでした。アリサをはじめ、ジッドの作品には彼女の面影を持つ女性がたびたび登場します。
1907年の夏、ジッドは友人たちと過ごしたジャージー島で第2章を書き進めています。1908年に仲間と創刊した文芸誌『新フランス評論』は1号で途切れ、翌1909年に再刊されました。『狭き門』はその再刊号から連載されています。
自己犠牲は美しいのか
連載された『狭き門』は、一般の読者からも評価を得ました。アリサの自己犠牲は作中で美しく描かれています。けれどもジッド自身は、この作品を通してそうした自己犠牲への批判を行ったとされています。
ジッドは日記や手紙の中でもこの作品に触れています。フランスでは批評家のジャック・リヴィエールが論じ、日本では遠藤周作が「『狭き門』はキリスト教小説か」と題した文章を書いています。日本語訳は1923年に刊行されたものをはじめ、十種類を超えて出ています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
ジュリエットは、姉とジェロームの愛のために身を引くようにして、テシエールという男性とあまり幸せとは言えない結婚をします。それでもアリサは結婚を受け入れず、信仰への思いを深めるほどにジェロームを遠ざけ、会うことさえ拒む期間が長くなっていきます。やがてアリサは、ほとんど自ら招いたような原因のわからない病に倒れ、パリで亡くなります。
残されたジェロームは、アリサの日記を読み、そこに自分への激しい思いが綴られていたことを知ります。アリサの死から10年後、ジェロームはジュリエットと再会します。夫と5人の子どもに囲まれて暮らすジュリエットもまた、ジェロームへの思いを抱えているようでした。アリサを愛し続けるジェロームは、すべてを忘れてしまうまで一人で生きていくことを決めます。
よくある疑問
- 『狭き門』はどんな話?
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従姉のアリサを愛するジェロームと、彼を愛しながら結婚をためらい続けるアリサの物語です。神の国に憧れるアリサの信仰と、地上の恋とのへだたりが中心にあります。
- タイトルの意味は?
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新約聖書の福音書にある「狭き門より入れ」という一節から取られています。神の救いを得るには、それ相応の困難な道を歩まなければならないという意味の言葉です。作中では、教会の説教の題として出てきます。
- モデルはいる?
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ジッドが1888年から1891年にかけて母方の従姉マドレーヌに求愛し、うまくいかなかった体験がもとになっているとされます。マドレーヌはのちにジッドの妻となり、アリサには彼女の影があると言われています。
- どのくらいの長さ?
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中編ほどの長さの小説です。ジェロームの一人称で語られ、二人の手紙が数多く挟まれ、終盤にはアリサの日記が置かれています。
