- 原題
- L’Étranger
- 発表
- 1942年
- 初出
- 1942年5月19日、ガリマール社から刊行
- 形式・長さ
- 小説・中編
- 手ごわさ
- すぐ読める
- 書棚
- ヨーロッパの文学
アルジェに暮らす会社員ムルソーが、母の葬式で涙を見せず、その翌日から恋人と海や映画を楽しむところから始まる話です。やがて浜辺で起きる一つの事件が、彼の淡々とした日々を一変させます。世間の「当たり前」に合わせない男を通して、人間社会の不条理を描いた中編です。
こんな人に
- 周りが期待する感情をうまく表せず戸惑った経験がある人に
- 短くても長く考えさせられる小説を探している人に
- 「普通」とは何かを疑ってみたくなった人に
あらすじ(ネタバレなし)
フランス領アルジェリアの町アルジェ。会社勤めのムルソーのもとに、郊外の養老院から母が亡くなったという電報が届きます。彼は休みを取って葬式に出かけますが、母の亡骸を見ようとはせず、通夜では煙草を吸い、ミルク入りのコーヒーを飲みます。悲しんでいる様子を周りの誰にも見せません。
葬式の翌日、アルジェに戻ったムルソーは、海水浴場で以前の同僚マリイと再会し、一緒に泳ぎ、喜劇映画を見て、親しい関係になります。隣人のレエモンからは女性とのもめごとの相談を受け、頼まれるまま手紙を書いてやります。上司からパリ行きを持ちかけられても、マリイに結婚を望まれても、彼はどちらでもかまわないと答えます。
ある週末、レエモンに誘われて、ムルソーはマリイと海辺の別荘へ出かけます。そこにはレエモンにつきまとうアラビア人たちが姿を見せていました。照りつける強い日差しの中、浜辺で起きた出来事が、物語を後半の第二部へと運んでいきます。
主な登場人物
- ムルソー
- 主人公で語り手。アルジェの会社員。正直で、思ってもいないことは口にしない。
- ママン
- ムルソーの母。物語の冒頭で亡くなる。3年前から養老院で暮らしていた。
- マリイ
- 以前ムルソーと同じ職場のタイピストだった女性。母の葬式の翌日に再会し、恋人になる。
- レエモン
- ムルソーの隣人。情婦やその兄とのもめごとにムルソーを巻き込んでいく。
- サラマノ
- 同じ建物に住む老人。病気の犬をいつも罵りながら散歩させている。
- セレスト
- ムルソーがよく通うレストランの店主。
見どころ・おもしろいところ
感情を語らない語り口
物語はムルソー自身の一人称で語られますが、彼は自分の気持ちをほとんど説明しません。短い文で出来事だけを並べていく独特の文体が、読者に彼の内面を推し量らせます。草稿を読んだ作家マルローは、その簡潔な文の繰り返しに意見を述べたと伝えられています。
前半と後半の対比
作品は事件の前と後で第一部と第二部に分かれています。第一部の何気ない日々の出来事が、第二部ではまったく違う意味を帯びて語り直されます。読み終えたあと、第一部をもう一度めくりたくなる仕掛けです。
名前のないアラビア人
作中のアラビア人たちには、一人も名前が与えられていません。これはフランス人入植者と現地の人々との距離を映したものと指摘されています。後にアルジェリアの作家カメル・ダウドは、殺されたアラビア人の弟の側から語り直した小説を書きました。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
主人公に共感しなくてよい
ムルソーは母の死にも恋人の求婚にも、はっきりした感情を見せません。冷たい人物に見えて戸惑うかもしれませんが、共感できないこと自体が作品の問いになっています。彼を裁くつもりで読むと、第二部で自分がどちらの側にいるかが見えてきます。
短いので一気に読む
作品は二部構成の中編で、長くはありません。第一部の淡々とした日常に退屈しかけても、終わりまで読むと全体の構図が見えてきます。できれば間をあけずに通して読むと、前半と後半の響き合いがよくわかります。
ドイツ占領下のパリで刊行
カミュは1941年5月までに最初の原稿を書き上げ、作家マルローや編集者ポーランらの助言を取り入れて仕上げました。小説は1942年5月19日にガリマール社から刊行されます。当時のフランスはドイツの占領下にありましたが、検閲による削除は受けませんでした。
初版の部数はわずか4400部で、ベストセラーになりようのない数でした。そのころカミュは結核の再発に苦しんでアルジェリアのオランにいて、パリでの刊行を見届けることもできませんでした。自分の手に一冊が届いたのは6月17日になってからです。
20世紀を代表する一冊へ
1947年にサルトルが論文「『異邦人』解説」で取り上げると、作品は反ナチスの人々の間で広く読まれるようになりました。フランスの新聞ル・モンドが選んだ「20世紀の100冊」では第1位に挙げられています。不条理や実存主義の文学として論じられてきましたが、カミュ自身は実存主義という呼び方を拒んでいました。
1967年にはルキノ・ヴィスコンティ監督、マルチェロ・マストロヤンニ主演で映画化されています。カメル・ダウドの『ムルソー再捜査』は、2014年にゴンクール賞の処女小説賞を受けました。イギリスの作家コリン・ウィルソンは評論『アウトサイダー』でこの作品を論じています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
浜辺で、ムルソーはレエモンから預かった拳銃を持ち、ひとりで歩いていました。そこでレエモンの情婦の兄であるアラビア人がナイフをかざし、照りつける日差しにくらんだムルソーは引き金を引きます。さらに間をおいて、倒れた男に四発を撃ち込みました。
逮捕されたムルソーは殺人を否定しませんが、裁判では殺人そのものより、母の葬式で泣かなかったことや翌日の行動が問題にされます。殺人の動機を問われた彼は太陽のせいだと答え、死刑を宣告されます。独房を訪れた司祭の説得を拒み、怒りをぶつけたあと、ムルソーは世界の無関心に心を開き、自分は幸福だったし今も幸福だと感じます。そして処刑の日に大勢の見物人が憎しみの声で迎えてくれることを最後の望みとします。
よくある疑問
- 『異邦人』はどんな話?
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母の葬式で涙を見せなかった男が、浜辺での殺人をきっかけに裁かれる話です。社会の決まりごとに合わせない人間が、世の中からどう扱われるかが描かれます。
- どのくらいの長さ?
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第一部と第二部からなる、比較的短い小説です。カミュが最初に刊行した小説でもあります。
- 「異邦人」という題の意味は?
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原題のL’Étrangerは「よそ者」「外国人」という意味の言葉です。社会の中で周囲から浮いてしまうムルソーの立場を表していると読まれています。英国では『アウトサイダー』の題で訳されました。
- カミュのノーベル賞と関係がある?
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カミュは1957年に43歳でノーベル文学賞を受賞しました。その受賞は、この作品によるところが大きいと言われています。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
