細雪

細雪谷崎潤一郎
発表
1943年(昭和18年)〜1948年(昭和23年)
初出
上巻の一部を『中央公論』1943年1月号・3月号に掲載、下巻を『婦人公論』1947年3月号〜1948年10月号に連載
形式・長さ
小説・大長編
手ごわさ
ふつう

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ひとことで言うと

大阪・船場の旧家、蒔岡家の四人姉妹の日々を、昭和11年の秋から5年ほどにわたって描く長編です。三十歳を過ぎても嫁ぎ先の決まらない三女雪子の見合いが物語の軸になり、季節の行事や家族の悩みが、少しずつ傾いていく家の姿とともに綴られます。

こんな人に

  • 姉妹や家族のあいだの細やかな気づかいに覚えがある人に
  • 大きな事件より、季節の移ろいや日々の暮らしを味わいたい人に
  • 関西の言葉や戦前の阪神間の暮らしに惹かれる人に

あらすじ(ネタバレなし)

蒔岡家は、旧幕時代から木綿問屋を営んできた大阪・船場の家です。父の代には指折りの裕福な家でしたが、いまでは財産も減り、店も人手に渡っています。大阪の本家は長女の鶴子と婿養子の辰雄が継ぎ、次女の幸子は夫の貞之助、娘の悦子と芦屋の分家で暮らしています。

未婚の三女雪子と四女妙子は、堅物の辰雄と折り合いが悪く、ほとんど芦屋の家で過ごしています。雪子はおとなしく引っ込み思案な性格で、家の格を気にして縁談を断り続けるうちに話が減り、三十歳になっても独身のままです。かつて妙子の起こした騒ぎが新聞に載り、雪子の名が誤って出てしまったことも影を落としていました。

そんなとき、幸子たち行きつけの美容院の女主人井谷が、雪子に新しい縁談を持ってきます。乗り気になった一家は相手の身辺を調べ始めますが、調べるほどに迷いも出てくるのでした。

主な登場人物

鶴子
長女。大阪の本家の奥様で、婿養子の辰雄との間に子どもが六人いる。
辰雄
鶴子の夫で銀行員。婿養子として蒔岡の名を継いだ。堅実一方な性格。
幸子
次女で、芦屋の分家の奥様。妹たちの世話を焼く。船場言葉で「ごりょうんさん」と呼ばれる。
貞之助
幸子の夫で計理士。婿養子。義妹たちの縁談や面倒ごとにも奔走する。
雪子
三女。おとなしく引っ込み思案な性格。家族からは「きやんちゃん」と呼ばれる。
妙子
四女で末娘。人形作りや洋裁に打ち込む行動派。「こいさん」と呼ばれる。
井谷
姉妹が通う美容院の女主人。世話好きで、雪子の縁談を次々に持ち込む。

見どころ・おもしろいところ

  1. 見合いが続く物語

    物語は雪子の縁談ごとに区切られ、相手の家柄や身辺を調べ、会い、断るか断られるかが繰り返されます。縁談のたびに浮かび上がる一家の誇りと焦りが、少しずつ様子を変えていくところに読みごたえがあります。

  2. 阪神間の四季と暮らし

    作中には年号が出てきませんが、四季の移り変わりや行事が丁寧に描かれ、舞のお浚い会や蛍狩りの場面もあります。戦前の阪神間の上流の暮らしを、日記をめくるように味わえます。

  3. 克明に描かれた大水害

    中巻では、関西を襲った大水害が詳しく描かれます。のちに作中の時期を特定する手がかりにもなったほどの描写で、穏やかな日常が一気に揺さぶられる場面です。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

上中下の三巻がある大作

上・中・下の三巻からなる長い作品で、大きな事件は多くありません。一巻ずつ区切って、季節を追うつもりで読むと、長さが負担になりにくくなります。

呼び名と言葉に慣れる

会話はすべて船場言葉で、姉妹は「ごりょうんさん」「きやんちゃん」「こいさん」などと呼ばれます。誰がどの呼び名かを最初に押さえておくと、会話の場面で迷いません。

戦時中に止められた連載

1943年、『細雪』は『中央公論』の1月号と3月号に掲載されましたが、軍部から時局をわきまえないとされ、6月号の掲載を止められました。谷崎はそれでも書き続け、翌年には私家版の上巻を作って知人に配りますが、それも印刷と配布を禁じられます。

疎開を経て、戦後は京都の鴨川べりに住まいを移し、1948年に全巻を完成させました。戦後は今度はGHQの検閲を受け、戦争を肯定するように見える箇所などを改めることになります。題材は妻の松子と、その姉妹たちの生活でした。

近代文学を代表する一作

作品はベストセラーになり、谷崎は毎日出版文化賞と朝日文化賞を受けました。三島由紀夫をはじめ多くの作家や評論家が高く評価し、昭和天皇も献本された全巻を読み終えたと谷崎は聞いたといいます。

1950年代に英訳『The Makioka Sisters』がアメリカで出たのを皮切りに、十数か国語に翻訳されています。映画は3度作られ、舞台は1966年の初演以来、通算1500回を超えて上演されてきました。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

雪子の縁談は、相手の母の病気がわかって断ったり、相手の無神経さに雪子が嫌気がさしたりして、次々にまとまりません。中巻では妙子が大水害から救ってくれた写真師の板倉に惹かれますが、板倉は手術の合併症で亡くなります。下巻で妙子は元の恋人の奥畑とよりを戻して本家から絶縁され、赤痢で倒れたうえ、バーテンダーの三好の子を身ごもります。子は死産となり、妙子は三好と所帯を持ちます。

一方の雪子は、井谷が渡米前に持ってきた縁談で、子爵家の庶子である四十五歳の御牧と会い、ついに結婚を受け入れます。婚礼の日取りも新居も決まりますが、雪子は婚礼衣装が届いても楽しげではなく、東京へ向かう汽車の中でも下痢が止まらないまま、物語は終わります。

よくある疑問

『細雪』はどんな話?

大阪・船場の旧家の四人姉妹の日々を、三女雪子の見合いを軸に描いた話です。昭和11年秋から昭和16年春までの、戦争直前の暮らしが舞台です。

『細雪』にモデルはいる?

谷崎の妻・松子と、その姉妹たちの生活を題材にしています。次女の幸子は松子がモデルとされています。

戦時中に発表が止められたのはなぜ?

優美な世界を描いた内容が戦時にそぐわないとして、軍部に雑誌掲載を止められたためです。私家版の上巻も印刷と配布を禁じられ、作品が全巻出版されたのは戦後でした。

どのくらいの長さ?

上・中・下の三巻からなる長編です。1943年から1948年にかけて書き継がれ、下巻の単行本は1948年12月に出ています。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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