年中借金取が出はいりした。
大正から昭和の大阪で、しっかり者の芸者・蝶子と、頼りない妻子持ちの若旦那・柳吉が駆け落ちし、商売を始めては失敗しながら、喧嘩しても別れずに生きていく話です。安くてうまい店や細かな金額があふれる文章で、大阪の暮らしが描かれます。織田作之助が世に出るきっかけになった作品です。
こんな人に
- だめな相手だとわかっていても、離れられなかった経験がある人に
- 大阪の食べ物や町の名前が出てくる話を味わいたい人に
- 働いても働いてもお金が残らない話に、つい共感してしまう人に
あらすじ(ネタバレなし)
大阪の路地で一銭天婦羅を揚げる種吉の家には、一年中借金取りが出入りしています。娘の蝶子は小学校を出ると女中奉公に出され、やがて自分から望んで北新地の芸者になります。持ち前の明るさで、蝶子は陽気な座敷に欠かせない人気者になりました。
そんな蝶子が、安化粧問屋の若旦那・維康柳吉といい仲になります。柳吉には妻と幼い娘がいましたが、二人は柳吉が東京へ集金に行くのを機に駆け落ちします。ところが熱海で関東大震災に遭い、大阪へ舞い戻ることになりました。
黒門市場の路地裏に間借りした二人ですが、柳吉は働かず、蝶子が宴会に出張するヤトナ芸者で稼いだ金で遊び歩きます。実家から勘当された柳吉を一人前にしようと、蝶子は金を貯めては新しい商売を始めます。
主な登場人物
- 蝶子
- 北新地の元人気芸者。明るくお転婆で、しっかり者。柳吉と駆け落ちしたあと、懸命に働く。
- 維康柳吉
- 梅田新道の安化粧品問屋の若旦那。妻子がいる。うまい物に目がなく、浄瑠璃好きの浪費家。
- 種吉
- 蝶子の父。天婦羅屋を営むが、炭代や醤油代を勘定に入れず、いつも貧乏している。
- お辰
- 蝶子の母。借金取りとの応対を受け持つ。セルロイド人形の内職をしている。
- 筆子
- 柳吉の妹。兄の娘を母親代わりに育てる。蝶子を「姉はん」と呼ぶようになる。
- おきん
- 北新地の元芸者で、ヤトナの周旋屋。遊んでばかりの柳吉に意見をする。
- 金八
- 蝶子の芸者時代の朋輩。互いに出世を誓い合った仲で、のちに裕福な身の上になる。
見どころ・おもしろいところ
安くてうまい大阪の味
柳吉は一流の店を嫌い、安くてうまい店ばかりを巡る食いしん坊です。ドテ焼きや自由軒のライスカレーなど、大阪の食べ物が次々に出てきて、二人の暮らしの手触りを伝えてくれます。
あふれる金額の数字
作中には、借金や売り上げ、日当などの金額が具体的な数字でたくさん書き込まれています。これは井原西鶴の影響とされ、織田の作品に共通する特色です。数字を追うと、二人の家計の苦しさが手に取るようにわかります。
怒っても戻ってしまう蝶子
蝶子は浪費する柳吉をなじり、突き倒しもしますが、家を飛び出してしばらくすると、すぐ柳吉が恋しくなります。別れそうで別れない二人のやりとりが、可笑しくも切なく描かれます。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
会話は大阪弁
登場人物の台詞はほとんどが大阪弁です。声に出して読むと調子がつかみやすく、意味のわからない言葉があっても前後の流れで見当がつきます。
段落が長く出来事が多い
改行が少ない地の文の中で、引っ越しや商売替え、家族の出来事が次々に起こります。蝶子と柳吉が今どこで何の商売をしているかを目印にすると、話の流れを見失いません。
推薦作品として世に出る
『夫婦善哉』は1940年、雑誌『海風』4月号に発表された、織田作之助の5作目の小説です。改造社の第一回文芸推薦作品に選ばれて同年の『文藝』7月号に再掲載され、8月には創元社から単行本が出ました。この作品が、織田が本格的に世に出るきっかけになりました。
戯作調の文体や、作中に具体的な金額があふれているのは、織田が傾倒していた井原西鶴から受けた影響とされています。織田は別の作品の中で、地名や職業や数字をたくさん書き込むのは、あいまいな思想の代わりに信じられる具体性だからだと語らせています。
映画になった大阪の夫婦
戦後の1947年にも再刊されて広く読まれ、織田を戦後の流行作家の第一号ともいうべき位置に押し上げました。作家の青山光二は、若書きゆえの未熟さを認めつつ、斬新な文体と高い緊張感が作品を支えていると評しています。
1955年には豊田四郎監督で映画化され、森繁久彌と淡島千景が出演しました。1963年には同じ監督と主演で『新・夫婦善哉』も作られ、テレビドラマや舞台にも繰り返しなっています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
剃刀屋、関東煮屋、果物屋と商売は続かず、柳吉は腎臓を患い、蝶子の母も亡くなります。やがて蝶子は昔の朋輩・金八から無利子で金を借り、二人はカフェ「サロン蝶柳」を開いて繁盛させます。柳吉の父が危篤になると、蝶子は正式な夫婦と認めてもらえるよう柳吉に頼みますが、電話で来ないほうがいいと言われ、発作的にガス自殺を図って一命を取りとめます。
柳吉は葬式を口実に一月ほど姿を消しますが、やがて戻ってきて、蝶子と別れたように見せかけるためだったと言います。柳吉は蝶子を法善寺境内の「めをとぜんざい」へ誘い、二人は仲よくぜんざいをすすります。その後、二人は浄瑠璃に凝り、柳吉が素人義太夫の大会で二等賞を取ると、景品の大きな座布団は蝶子が毎日使いました。
よくある疑問
- タイトルの「夫婦善哉」とは?
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大阪・法善寺横丁にあるぜんざいの店「めをとぜんざい」の名から取られています。ぜんざいが二杯で一組になって運ばれてくることから、夫婦と名づけられた店です。
- モデルはいる?
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蝶子と柳吉のモデルは、織田作之助の次姉・千代とその夫です。蝶子の弟の信一は、織田自身がモデルだという見方もあります。
- 続編はある?
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2007年に続編の原稿が見つかり、正編と合わせた完全版が刊行されました。続編は別府を舞台にしています。
- 『夫婦善哉』は無料で読める?
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著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。新字新仮名の版が公開されています。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
