あさ、眼をさますときの気持は、面白い。
14歳の女生徒が、朝目を覚ましてから夜眠るまでの一日を、自分の言葉で語り続ける話です。鏡の前での自己嫌悪、通学の電車で見かける人々、母への思いや亡き父の記憶が、思いつくままに流れていきます。ある女性読者から届いた日記を題材にして書かれました。
こんな人に
- 自分のことが好きになれず、もやもやしていた時期を覚えている人に
- 気分が一日のうちにころころ変わる自分に、覚えがある人に
- 誰かの頭の中をそのままのぞくような文章を読んでみたい人に
あらすじ(ネタバレなし)
五月のある朝、「私」は寝床の中で目を覚まします。朝はいつも灰色で、後悔ばかりが胸に押し寄せてきます。鏡の前に座れば、いちばん嫌いな自分の眼鏡が目に入り、ため息が出ます。
父はすでに亡くなり、姉はお嫁に行って、家には「私」と母の二人だけです。庭に出ると、白くてきれいな犬のジャピイと、足の悪い犬のカアが走ってきます。「私」はジャピイだけをかわいがり、カアにはわざと意地悪をしてしまいます。
支度をして家を出た「私」は、電車に乗り、学校へ向かいます。車内の人々、教室の先生や友だち、帰り道の田舎道。目に入るものすべてに心が動き、好きになったり嫌いになったりを繰り返しながら、「私」の長い一日が過ぎていきます。
主な登場人物
- 私
- 語り手の女生徒。眼鏡をかけている。思ったことを次々に打ち明けるように語る。
- お母さん
- 夫を亡くし、「私」と二人で暮らしている。「私」は母を思いやりながらも、もどかしさを感じる。
- お父さん
- すでに亡くなっている父。「私」は立派な人だったと思い、たびたび思い出す。
- ジャピイとカア
- 家の二匹の犬。白く美しいジャピイと、足が悪く見た目のよくないカア。
- 小杉先生
- 学校の先生。青い服の似合う人で、「私」は気取りすぎだと思いつつも惹かれている。
- 今井田さん
- 夜、妻と七歳の息子を連れて家を訪ねてくる客。「私」はこの一家が好きになれない。
見どころ・おもしろいところ
朝から夜までの一日
物語は目覚めから始まり、登校、授業、帰り道、夕食、入浴を経て、眠りにつくところで終わります。特別な事件の起きない、ごく普通の一日ですが、その中で「私」の気持ちは休むことなく揺れ動きます。
流れるような独白
「私」の語りは、ひとつの考えから次の考えへ、つながるように移っていきます。川端康成は、「意識の流れ」風の手法がほどよく使われ、音楽のような効果を上げていると評しました。句読点の多い文の調子に乗ると、自然に読み進められます。
意地悪とやさしさの間
「私」はかわいそうな犬のカアに、かわいそうだからこそわざと意地悪をすると語ります。自分のいやなところまで正直に打ち明ける語りなので、読む人は笑ったり、どきりとしたりします。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
改行が少なく段落が長い
独白が切れ目なく続くため、ページが文字でびっしり埋まって見えます。一日の時間の流れを目印にして、朝、学校、帰り道、夜と区切りながら読むと迷いません。
話があちこちへ飛ぶ
眼鏡の話から父の思い出へ、新聞の広告から旅行への憧れへと、話題は予告なく移ります。筋を追うより、そのときの気分を味わうつもりで読むと、この作品の面白さがつかめます。
読者の日記から生まれた短編
『女生徒』は『文學界』1939年4月号に発表されました。題材になったのは、1938年9月に女性読者の有明淑から太宰のもとに送られてきた日記です。1939年2月下旬までに書き上げられたとされています。
同じ年の7月には、短編集『女生徒』の表題作として砂子屋書房から刊行されました。題名は、そのころ太宰の机辺にあったレオン・フラピエの小説の翻訳書から取られています。
川端康成が認めた代表作
発表当時の文芸時評で、川端康成らから高く評価され、太宰の代表作の一つとなりました。1940年には、北村透谷記念文学賞の次席に選ばれています。
2014年には、主人公の独白を朗読だけで伝える約14分のアニメーションが作られ、短編映画祭で賞を受けました。また、九段理江の小説『Schoolgirl』は、この作品を本歌取りした小説です。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
夜、家に今井田さん夫婦が子どもを連れて訪ねてきます。客の機嫌をとる母の姿を見て、「私」は父がいないからといってこんなに卑屈になるのかと悔しく思いながらも、愛想よく給仕を続けます。客が帰ったあと、母の肩をもみ、『クオレ』を読んで聞かせると、母はうつむいて泣いていました。
洗濯と風呂場の掃除をすませて床に入ろうとすると、眠っていると思っていた母が、夏の靴を見てきたと声をかけます。明日もまた同じ日が来るのだろうと思いながら、「私」は庭を歩くカアの足音を聞き、明日はかわいがってあげようと心に決めて、顔を両手で覆って眠りにつきます。
よくある疑問
- 『女生徒』はどんな話?
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14歳の少女が、朝起きてから夜眠るまでの一日を、ひとり語りでつづる話です。思春期の揺れ動く自意識が描かれています。
- 実話がもとになっている?
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1938年9月に、当時19歳の女性読者である有明淑から太宰のもとに送られた日記を題材にしています。
- タイトルの由来は?
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当時太宰の机のそばにあった、レオン・フラピエ作の翻訳書『女生徒 他八篇』から取られたとされています。
- 『女生徒』は無料で読める?
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著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。新字新仮名の版が公開されています。
