走れメロス

走れメロス太宰治
作者
太宰治
発表
1940年(昭和15年)
初出
雑誌『新潮』1940年5月号に掲載
形式・長さ
小説・短編
手ごわさ
すぐ読める
メロスは激怒した。
書き出し

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ひとことで言うと

人を信じられない王に捕まった若者メロスが、親友を人質に残して妹の結婚式へ向かい、三日目の日没までに戻ろうと走る話です。信じることと裏切ることの間で揺れる心が、濁流や山賊を越える道のりとともに描かれます。

こんな人に

  • 約束を守れるかどうか、自分を試された経験がある人に
  • 短くても勢いのある話を一気に読みたい人に
  • 教科書で読んだきりで、大人になって読み直したい人に

あらすじ(ネタバレなし)

羊飼いの青年メロスは、十六歳の妹と二人で村に暮らしています。妹の結婚式の品々を買いに、十里離れたシラクスの市へ出てきたメロスは、町がひっそりと静まり返っていることに気づきます。老爺に問いただすと、王ディオニスが人を信じられず、身内や家臣を次々に殺しているというのでした。

怒ったメロスは王城に乗り込み、たちまち捕らえられます。死ぬ覚悟はあるが、妹に結婚式を挙げさせるため三日だけ猶予がほしいと願うメロスを、王は信じません。そこでメロスは、町で石工をしている竹馬の友セリヌンティウスを人質に置いていくと申し出ます。

王はメロスが戻るはずはないと考え、願いを受け入れます。三日目の日没までに戻らなければ、身代わりの友が磔にされる。一睡もせず村へ走ったメロスは、妹の結婚式を急がせ、ふたたびシラクスへ向かう日の朝を迎えます。

主な登場人物

メロス
村の羊飼いの青年。政治はわからないが、邪悪には人一倍敏感。両親はいない。
セリヌンティウス
メロスの竹馬の友で、シラクスの石工。メロスの身代わりとして人質になる。
ディオニス
シラクスの王。人の心を信じられず、罪のない人々を処刑している。
妹
十六歳で、メロスのたった一人の家族。村の牧人との結婚を控えている。
花婿
妹の結婚相手。急に式を挙げてくれと頼まれ、支度ができていないと困る。
フィロストラトス
セリヌンティウスの弟子。物語の終わり近く、走るメロスの前に現れる。

見どころ・おもしろいところ

  1. 次々に現れる道の障害

    シラクスへ戻る道では、前日の豪雨で橋が流され、峠では山賊が行く手をふさぎます。三日目の日没という締め切りが常にあるので、短い作品なのに最後まで緊張が途切れません。太陽の傾きが、残り時間を知らせる時計の役をしています。

  2. 勇者が弱音を吐く場面

    疲れ切ったメロスは草原に倒れ、もうどうでもいいという気持ちに取りつかれます。正義の人が自分を責め、言い訳をする長い心の声は、伝説や詩にはなかった太宰の付け足しとされる部分です。強いだけではない主人公だからこそ、その後の姿が胸に迫ります。

  3. 人を信じられない王

    王ディオニスは、人の心はあてにならないと信じ込んでいます。メロスの申し出を受けたのも、戻らない男を見せしめにするためでした。王とメロスのどちらの考えが正しいのかという賭けが、物語の芯になっています。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

芝居がかった言い回し

神々への呼びかけや大げさなたとえが多く、現代の小説より古風に感じるかもしれません。声に出すような勢いで読むと、文のリズムが走る足の調子と重なって入りやすくなります。

語りが「私」に変わる

地の文は「メロスは」で語られますが、倒れて悩む場面では途中からメロス自身の「私」の独白に切り替わります。誰の言葉かわからなくなったら、メロスの頭の中の声だと思って読めば迷いません。

中期の太宰と熱海の一件

『走れメロス』は1940年5月号の『新潮』に発表され、同じ年の6月に短編集『女の決闘』に収められました。太宰の作品は前期・中期・後期に分けられることが多く、本作は『富嶽百景』と同じく、生活が比較的落ち着いていた中期の作品です。

調査によって、シラーの詩を小栗孝則が訳した『人質』を下敷きにし、訳文をほぼそのまま取り込んだ箇所もあることがわかっています。友人の檀一雄は、太宰と出かけた熱海で、檀を待たせたまま太宰がなかなか戻らなかった出来事が発想のもとではないかと書きました。ただし、それを確かめる方法はないとも指摘されています。

教科書の定番と、読み直す声

本作は戦後ほぼずっと中学校の国語教科書に載り、50年以上にわたる定番教材になっています。テンポよく読み終えられる力強い文体と主題が評価され、短編ながら太宰の代表作の一つに数えられます。

一方で、徳目をほめたたえる教材らしさを白々しく感じる声もあります。劇作家の寺山修司は「歩け、メロス」で、メロスを自己中心的な道化として批判しました。中学生がメロスの移動速度を計算し、ほとんど歩く速さだったと結論づけた研究が賞を受けたこともあり、さまざまな読み方をされてきた作品です。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

泉の水で力を取り戻したメロスは、ほとんど裸になりながら走り続けます。町の近くで弟子のフィロストラトスに、もう間に合わないから走るのはやめるよう言われますが、メロスは信じられているから走るのだと答えます。日が沈みきる直前、メロスは刑場に飛び込み、磔にされかけていた友を救います。

メロスは一度だけ裏切ろうとしたことを告白して友に殴らせ、セリヌンティウスも一度だけメロスを疑ったと打ち明けて殴らせます。抱き合う二人を見た王は、信実は妄想ではなかったと認め、自分も仲間に加えてほしいと願います。最後に一人の少女が緋のマントを差し出し、裸だったメロスは赤面します。

よくある疑問

『走れメロス』はどんな話?

親友を人質にして妹の結婚式へ戻った青年が、約束の日没までに王城へ帰ろうと走る話です。信じることがテーマになっています。

『走れメロス』は太宰治の創作?元ネタはある?

作品の最後に、古伝説とシラーの詩をもとにしたと書かれています。古伝説は古代ギリシアの「ダモンとピュティアス」の話で、シラーの詩は小栗孝則の訳で読まれた『人質』と考えられています。太宰はそこに、メロスの迷いや弱さ、ユーモアを加えました。

どのくらいの長さ?

短編小説で、章分けのない一続きの物語です。一度に読み切れる短さです。

『走れメロス』は無料で読める?

著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。新字新仮名の版が公開されています。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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