- 原題
- Brave New World
- 発表
- 1932年
- 初出
- 1932年2月、イギリスで単行本として刊行
- 形式・長さ
- 小説・長編
- 手ごわさ
- ふつう
- 書棚
- SF・幻想文学
人間が瓶の中で製造され、生まれる前から階級を決められる未来の世界国家。病気も家族もなく、嫌な気分は薬で消せるその社会に、外の世界で育った青年が連れてこられます。誰もが満足している社会のどこがおかしいのかを、皮肉の効いた筆で描いた物語です。
こんな人に
- 便利で快適な暮らしに、ふと息苦しさを感じたことがある人に
- 『1984年』とは別の形の管理社会も知りたい人に
- まじめな問いを皮肉と笑いで包んだ小説が好きな人に
あらすじ(ネタバレなし)
舞台はフォード紀元632年のロンドン。人々は人工の子宮で育てられ、アルファからエプシロンまでの階級に振り分けられています。眠っている間に教え込まれた考えのおかげで、誰もが自分の暮らしに満足し、嫌な気分になれば「ソーマ」という薬を飲みます。
孵化場で睡眠学習を研究するバーナード・マルクスは、上の階級なのに背が低く、この社会になじめずにいます。批判を口にする彼を、上司の所長はアイスランドへ飛ばそうと考えています。
バーナードは同僚のレーニナを誘い、世界国家の外にあるニューメキシコの「蛮人保存地区」へ休暇旅行に出かけます。そこで二人は、保存地区で育った青年ジョンと、その母リンダに出会います。リンダはもともと世界国家の人間でした。ジョンは、母が繰り返し語ってきた「すばらしい新世界」をその目で見たいと望みます。
主な登場人物
- バーナード・マルクス
- 睡眠学習の専門家。上の階級アルファ・プラスだが、社会になじめず劣等感を抱えている。
- レーニナ・クラウン
- 孵化場で働くベータ階級の女性。この社会の価値観に満足して暮らしている。
- ヘルムホルツ・ワトソン
- バーナードの友人で、宣伝文を書く講師。自分の才能の使い道に不満を抱いている。
- ジョン
- 保存地区で育った青年。シェイクスピア全集で言葉を覚え、「野蛮人」と呼ばれる。
- リンダ
- ジョンの母。もとは世界国家の住人で、旅行中に保存地区に取り残された。
- 所長
- 中央ロンドン孵化・条件づけセンターの所長で、バーナードの上司。
- ムスタファ・モンド
- 西ヨーロッパを治める世界統制官。この社会が何を手放したかを知る数少ない人物。
見どころ・おもしろいところ
痛みでなく快楽で治める社会
この世界国家には、人を力で脅す場面がほとんどありません。人々は睡眠中の教育と薬によって、自分から進んで今の暮らしを好むように仕向けられています。誰も不満を言わない社会がなぜ不気味なのかを考えながら読むと、一つひとつの場面の皮肉が見えてきます。
シェイクスピアで話す青年
ジョンは保存地区で、シェイクスピアの全集を頼りに言葉と考え方を身につけました。題名の「すばらしい新世界」も、『テンペスト』の台詞から取られた言葉で、ジョンが口にします。物語が進むにつれて、同じ言葉の響きが変わっていくところに注目すると読みごたえが増します。
名前に込めた当てこすり
登場人物の名前には、マルクスやレーニン、フォードなど、当時の政治や経済、技術を動かした人物の名がもじって使われています。モンドの名は、ハクスリーが執筆直前に見学した工場の経営者アルフレッド・モンドから取られました。名前の元ネタを知ると、作者の皮肉がよりはっきり伝わります。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
最初は社会の説明が続く
物語は孵化場の場面から始まり、人が瓶の中で育てられる仕組みが先に描かれます。ここは世界の設定を覚える部分と割り切って読むと、保存地区への旅から物語が大きく動き出します。
中心人物が途中で替わる
前半はバーナードを中心に進みますが、保存地区でジョンが登場すると、物語の重心は少しずつ彼に移っていきます。主人公が一人に決まっていないと知っておくと、視点の移り変わりに戸惑いません。
見慣れない用語の読み方
ソーマは嫌な気分を消す薬、フォード紀元はT型フォードが発売された1908年を元年とする暦です。階級は上からアルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、エプシロンで、それぞれ着る服の色も違います。この三つを押さえておけば、ほかの用語は読みながら自然にわかります。
不況のさなかに書かれた未来
ハクスリーはこの作品を、1931年5月から8月までの4か月間、南フランスのサナリー=シュル=メールで書き上げました。当時の彼は風刺小説で知られる作家で、本作は5作目の長編にあたります。H・G・ウェルズの楽観的なユートピア小説をからかうつもりで書き始めたと、本人が手紙に書いています。
執筆の年、イギリスは大量の失業と金本位制の放棄に揺れていました。ハクスリーは、文明が生き残るには安定こそが第一に必要だと考えるようになります。アメリカ旅行で触れた消費文化や、船の上で読んだヘンリー・フォードの自伝も、世界国家の姿に大きく影響したとされています。
『1984年』と並べて読まれる本
刊行時、レベッカ・ウェストやバートランド・ラッセルが称賛した一方で、否定的な批評もありました。のちに評価は定まり、モダン・ライブラリーは20世紀の英語小説ベスト100の5位に選んでいます。刊行の年にはアイルランドで、1967年にはインドで発禁になったこともあります。
この作品はよく、オーウェルの『1984年』と比べられます。批評家ニール・ポストマンは、オーウェルが恐れたのは憎むものに滅ぼされること、ハクスリーが恐れたのは愛するものに滅ぼされることだと対比しました。ハクスリーは1958年に評論『すばらしい新世界再訪』を書き、世界が自分の予想より速くこの小説に近づいていると述べています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
ロンドンに来たジョンは所長を「お父さん」と呼び、所長は恥じて職を辞します。ジョンは珍しい「野蛮人」として注目を集めますが、この社会を空っぽだと感じて嫌悪します。惹かれ合ったレーニナとも、恋愛の考え方が合わずに衝突します。母リンダがソーマに溺れて亡くなったあと、ジョンは下層の人々へのソーマの配給を妨げて騒ぎを起こします。
統制官モンドはバーナードとヘルムホルツを島へ追放すると告げ、ジョンには社会の成り立ちを説きます。ジョンは「不幸になる権利」を求めますが、島へ行くことは許されません。郊外の灯台で自分を鞭打つ禁欲生活を始めたジョンは、撮影されて見物人に囲まれ、群衆の乱痴気騒ぎに加わってしまいます。翌日、ジョンは首を吊って死んでいるのが見つかります。
よくある疑問
- 『すばらしい新世界』はどんな話?
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人々が薬と教育によって幸福に管理された未来社会に、外の世界で育った青年がやって来る話です。満ち足りた社会と、そこになじめない人々とのずれが描かれます。
- タイトルの意味は?
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シェイクスピアの『テンペスト』第5幕で、ミランダが口にする台詞から取られています。ここでの「brave」は「勇敢な」ではなく「すばらしい」という意味です。
- 物語の舞台はいつ?
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作中の暦でフォード紀元632年、西暦に直すと2540年です。1931年に書かれた作品なので、600年以上先の未来を描いています。
- 『1984年』とはどう違う?
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『1984年』の社会が苦痛と恐怖で人を支配するのに対し、この作品の社会は快楽と満足で人を従わせます。ハクスリー自身も、オーウェルに宛てた手紙でこの違いに触れています。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
