透明人間

透明人間ウェルズ
原題
The Invisible Man
発表
1897年
初出
週刊誌『ピアソンズ・ウィークリー』に連載後、同じ年に単行本
形式・長さ
小説・中編
手ごわさ
すぐ読める

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ひとことで言うと

吹雪の日、イギリスの小さな村の宿屋に、全身を包帯で覆った奇妙な男がやって来ます。体を見えなくする薬を作った科学者が、元の体に戻れずに追いつめられていく中編SFです。フィクションの「透明人間」という題材を生んだ作品とされています。

こんな人に

  • 短い時間で読み切れる古典のSFを探している人に
  • 正体不明の人物をめぐる噂話や騒動が好きな人に
  • 罰を受けない力を持った人間がどうなるか考えたい人に

あらすじ(ネタバレなし)

イギリス南部、ウェスト・サセックスのアイピング村。ある吹雪の日、ホール夫妻が営む宿屋に、一人の男が長く泊まりたいとやって来ます。つば広の帽子に外套、手袋をはめ、顔は付け鼻のほかは包帯で覆われていました。

男は短気で人を寄せつけず、部屋にこもって薬品や実験器具を相手に過ごし、外に出るのは夜だけです。宿にはガラス瓶が何百本も届き、実験の事故で部屋を汚しても、男は損害を勘定につけておけと言い放ちます。

奇妙な客の話はたちまち村じゅうに広がり、人々はその正体をあれこれ噂し合います。そんななか、村の牧師館に泥棒が入る事件が起きますが、犯人は見つかりません。やがて男の手持ちの金が尽きかけ、宿代の支払いをめぐって、宿の女主人との間に衝突が起きようとしています。

主な登場人物

グリフィン
包帯で顔を隠して宿屋に現れる男。光学を研究する科学者で、短気で人を寄せつけない。
ホール夫人
アイピング村の宿屋の女主人。夫とともに、奇妙な客の世話に手を焼く。
トーマス・マーベル
丘陵地帯をさまよう浮浪者。思いがけず事件に巻き込まれていく。
ケンプ博士
海辺の町ポート・バードックに住む学者。物語の後半で大きな役割を担う。
アディ大佐
ポート・バードックの警察の長。部下を率いて事件にあたる。

見どころ・おもしろいところ

  1. 外側から描かれる謎の客

    それまでの『タイム・マシン』などと違い、本作は三人称の客観的な視点で書かれています。前半は、宿の夫婦や村人の目に映る男の姿だけが描かれ、読者も村人と同じように正体を推し量りながら読むことになります。

  2. ホラーの原型になった人物

    姿が見えず、罰も受けない力を手にしたとき、人はどうふるまうのか。グリフィンは無差別で無責任な暴力をふるう人物として、のちのホラー小説を代表する存在にもなりました。

  3. 科学の理屈をつけた透明化

    ウェルズは魔法ではなく、体の屈折率を空気と同じにすることで光を吸収も反射もしなくなる、という科学の理屈で透明人間を描きました。あり得るかどうかを考えながら読むのも、この作品の楽しみ方の一つです。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

男の過去は後半で語られる

冒頭では、男が何者で何をしているのかはほとんど説明されません。男の過去は後半に本人の口から語られるので、前半は村の騒ぎを追うつもりで読むと、謎が解けたときの手応えが増します。

場所と中心人物が移る

舞台はアイピング村から近くの丘陵地帯、海辺の町ポート・バードックへと移ります。場所が変わると視点の中心になる人物も宿の夫婦、浮浪者、学者と変わるので、今だれの周りの話かを意識すると迷いません。

短編から書き足された一作

本作の初稿は1896年の3月から6月に書かれた、2万5000語の短編でした。題は「御者と馬宿の男」といい、満足できなかったウェルズが書き足して、いまの長さにしています。

『タイム・マシン』『モロー博士の島』に続く時期の作品です。研究者ジョン・サザーランドは、ウェルズやコナン・ドイル、スティーヴンソンらが大人向けの少年小説を書いていたと指摘し、本作もその一つに数えています。

「透明人間」の始まり

本作は、ウェルズが「SFの父」と呼ばれるようになる助けになった作品とされています。ぼかした結末は多くの作家や映画の作り手に続編を作る機会を与え、映画やテレビシリーズは十数本以上にのぼります。

1933年にはジェイムズ・ホエール監督が映画にし、1984年にはBBCがテレビシリーズにしました。コミックやラジオドラマにもなり、アニメ『トムとジェリー』やクイーンの曲にまで透明人間は顔を出しています。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

宿代を求められて激怒した男は、自分が透明人間であることを明かし、服を脱ぎ捨てて警官から逃げます。男は浮浪者マーベルを脅して手下にし、宿に残した3冊の研究ノートを取り戻させますが、マーベルは裏切って逃げ出します。追ってきた男は撃たれ、逃げ込んだ家は医学部時代の知人ケンプの家でした。

男はグリフィンと名乗り、薬を発明して猫と自分で試したこと、元に戻る研究がうまくいかないことを打ち明け、国じゅうを恐怖に陥れる計画に協力を求めます。しかしケンプはすでに警察に知らせていました。逃げたグリフィンはケンプを最初の犠牲者にすると予告し、通りがかった人を殺し、アディを撃ちます。ケンプを追いつめたところで群衆に取り押さえられて打ちのめされ、死ぬと同時に姿が見えるようになります。ノートを隠し持ったマーベルは「透明人間」という宿を開き、解読を試み続けます。

よくある疑問

『透明人間』はどんな話?

体を見えなくする薬を作った科学者が、元に戻れないまま村や町で騒ぎを起こし、追いつめられていく話です。

なぜ「透明人間」という題なの?

原題のThe Invisible Manは、直訳すると「目に見えない人間」です。日本語の題は、1933年のアメリカ映画が翌年に日本で公開されたときに使われて定着したと考えられています。物理学者の寺田寅彦は、透明でも見えることはあるので「不可視人間」とすべきだと主張しました。

何から着想を得た?

ウェルズは、詩人W・S・ギルバートの詩「透明であることの危険」に着想を得たと語っています。姿を消せる人間を論じたプラトンの『国家』の「ギュゲスの指輪」の話も影響したとされます。

透明人間は科学的にあり得る?

ウェルズの方法で透明になると、目が光を吸収できず、何も見えなくなるはずだと多くの人が指摘しています。ウェルズ自身もこの問題に気づいていたといいます。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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