- 原題
- A Clockwork Orange
- 発表
- 1962年
- 初出
- 1962年3月、イギリスのハイネマン社から単行本として刊行
- 形式・長さ
- 小説・長編
- 手ごわさ
- 手ごわい
- 書棚
- SF・幻想文学
暴力に明け暮れる15歳の少年アレックスが、逮捕ののちに暴力を受けつけない体へ作り変える治療を受けることになります。物語はすべてアレックス自身の口から、ロシア語をもとにした若者言葉を交えて語られます。悪をしない人間と、悪を選べない人間は同じなのかを問いかける物語です。
こんな人に
- 人を「矯正」することの是非を考えてみたい人に
- 造語や言葉遊びを読み解くのが好きな人に
- 映画を観て、原作の小説がどう終わるのか気になった人に
あらすじ(ネタバレなし)
舞台は近未来の都市。15歳のアレックスは、ディム、ジョージー、ピートの3人の仲間を率いる不良少年です。彼らは行きつけのコロヴァ・ミルクバーで薬物入りのミルクを飲み、夜の街に出ては「超暴力」と呼ぶ無差別な暴力をふるっています。
その一方で、アレックスはクラシック音楽をこよなく愛し、とりわけベートーヴェンを崇拝しています。頭の回転も速く、仲間を力で従わせてきましたが、副リーダー格のジョージーは、もっと金になる強盗をしようとリーダーの座に挑んできます。仲間内の不満が高まるなか、ある夜の押し込みで、アレックスは仲間に置き去りにされて警察に捕まります。
殺人罪で懲役14年の判決を受けたアレックス。服役して2年がたったころ、残りの刑期を免除するのと引き換えに、「ルドヴィコ療法」と呼ばれる実験的な矯正治療の被験者に選ばれます。
主な登場人物
- アレックス
- 語り手の15歳の少年。不良グループのリーダーで、ベートーヴェンを「愛しのルートヴィヒ」と呼ぶ。
- ディム
- 仲間の一人。頭の回転は鈍いが腕力が強く、喧嘩では頼りにされている。
- ジョージー
- 野心的な副リーダー格。アレックスからリーダーの座を奪おうとする。
- ピート
- 仲間の一人。仲間どうしのもめごとでは、どちらの側にもつかない。
- P・R・デルトイド
- アレックスを担当する更生指導員。若者の扱い方を心得ていない人物として描かれる。
- 刑務所の牧師
- 刑務所付きの牧師。アレックスの身を本気で案じる、ほとんど唯一の人物。
- F・アレグザンダー
- 郊外の一軒家に住む作家。『時計じかけのオレンジ』という題の原稿を書いている。
見どころ・おもしろいところ
造語まじりの一人称の語り
物語はアレックスの一人称で語られ、作者が作った若者言葉「ナッドサット」が混ざります。名前はロシア語で「十代」にあたる接尾辞から取られ、語根の多くはスラブ語です。仲間を「ドルーグ」と呼ぶような言い回しに慣れてくると、乱暴で軽快な語り口そのものが楽しめます。
暴力とベートーヴェン
アレックスは無差別な暴力を楽しむ一方で、クラシック音楽を何よりの喜びにしています。自宅で大音量でベートーヴェンを流す場面をはじめ、音楽は物語の大事な場面に何度も関わってきます。作者自身が作曲家でもあったことを知っておくと、音楽の扱いにも目が向きます。
作中に現れる同じ題の原稿
第1部で少年たちが押し入る家の主は作家で、『時計じかけのオレンジ』という題の原稿を書いています。アレックスは作品の主題を示す一節を嘲りながら読み上げ、原稿を破り捨てます。小説の題名が物語の中にも現れるこの仕掛けは、題の意味を考える手がかりになります。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
見慣れない造語が続く
冒頭から造語が次々に出てきて、最初は意味がつかみにくい作りです。初版には用語の解説がなく、前後の文脈から意味がわかるように書かれています。日本語訳ではルビで意味が示されているので、わからない語があっても止まらずに読み進めると慣れてきます。
第1部は暴力の場面が多い
第1部はアレックスたちの暴力の場面が続き、読むのがつらく感じるかもしれません。作者は、造語が暴力の生々しさを和らげる役目を持つと説明しています。物語は3部構成で、各部が7章なので、第2部の刑務所の場面に入ると舞台が大きく変わります。
版によって最終章がない
この小説は全21章ですが、1986年より前のアメリカ版では最終章の第21章が削られていました。日本語訳では、2008年に早川書房から第21章を含む「完全版」が出ています。手に取る本に第21章が入っているかを確かめておくと、作者の考えた終わり方まで読めます。
戦後の若者文化と三週間の執筆
バージェスは海外での暮らしを終えてイギリスに戻ったとき、国の様子が大きく変わっていることに気づきました。コーヒーバーやポップ音楽、十代のギャングを中心とした若者文化が生まれ、少年犯罪への不安が社会を覆っていました。作者によれば、第二次世界大戦中に妻が米軍の脱走兵たちに襲われた事件も、この小説のきっかけの一つです。
作品は海辺の町ホヴで書かれ、作者はわずか3週間で書き上げたと語っています。造語のナッドサットは、1961年のレニングラードへの船旅のころにロシア語を学び直したことから着想を得たと、作者は自伝に書いています。自由意志を問うこの小説の表向きの標的は、B・F・スキナーらの行動主義だったとされています。
高い評価と作者自身の距離
発表当時の書評では、造語を駆使した言葉の工夫を多くの評者が称えた一方、暴力的な題材に戸惑う声も上がりました。キングズリー・エイミスやロアルド・ダールは好意的に評しています。2005年には『タイム』誌の「1923年以降に書かれた英語の小説ベスト100」に選ばれ、アメリカでは学校や図書館から何度も排除の対象にされてきました。
1971年にスタンリー・キューブリックが映画化しましたが、映画は第21章のないアメリカ版をもとにしています。バージェスは後年、映画のせいで小説が性と暴力を賛美するものと誤解されたと嘆き、この作品を教訓的すぎるとも評しました。過剰な暴力を指す「超暴力(ultra-violence)」という言葉は、作者がこの小説で作ったものです。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
ルドヴィコ療法は、吐き気を起こす薬を注射したうえで暴力の映像を見せ続ける治療でした。アレックスは暴力を思い浮かべるだけで苦しむようになり、映像に使われたベートーヴェンの交響曲第5番にまで吐き気を覚えます。牧師は自由意志を奪うものだと非難しますが、彼は釈放されます。家に居場所はなく、かつて襲った老人や、警官になったディムたちに痛めつけられ、たどり着いたのは第1部で襲った作家の家でした。作家は彼を政府批判に利用しようとしますが、正体に気づくと音楽を流し続けて追い詰め、アレックスは窓から飛び降ります。
病院で目覚めると条件づけは解けていました。アメリカ版はここで終わります。最終章では、18歳になったアレックスが結婚して落ち着いたピートと再会し、暴力に喜びを感じなくなった自分に気づいて、家庭を持つことを考え始めます。
よくある疑問
- 『時計じかけのオレンジ』はどんな話?
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暴力に明け暮れる少年が、国家の行う矯正治療を受けさせられる話です。人を強制的に善くすることは許されるのか、という自由意志の問題が中心にあります。
- タイトルの意味は?
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作者は、1945年にロンドンのパブで「時計じかけのオレンジのように奇妙な」という言い回しを耳にし、それを題に使ったと説明しています。あわせて、果汁と甘さを持つ生き物が機械に変えられることのたとえだとも述べています。草稿の段階では「ルドヴィコ療法」という仮題でした。
- 映画と小説は何が違う?
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1971年のスタンリー・キューブリック監督の映画は、最終章を削ったアメリカ版をもとに作られています。そのため、映画は作者が考えたものとは違う終わり方をしています。作者は後年、映画によって小説の中身が誤解されやすくなったと述べました。
- どのくらいの長さ?
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長編小説で、3部構成です。各部が7章ずつで、全部で21章あります。作者は、21歳が大人になる節目とされていたことに合わせて21章にしたと語っています。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
