- 原題
- The Man in the High Castle
- 発表
- 1962年
- 初出
- 1962年10月、パトナム社から刊行
- 形式・長さ
- 小説・長編
- 手ごわさ
- 手ごわい
- 書棚
- SF・幻想文学
第二次世界大戦で枢軸国が勝ち、アメリカが日本とドイツに分割統治されている1962年の世界を描いた歴史改変SFです。占領下で暮らす人々のあいだでは、連合国が勝っていたらという禁じられた小説がひそかに読まれています。
こんな人に
- もしも歴史が違っていたらと想像するのが好きな人に
- 一人の主人公ではなく多くの人物の群像劇を読みたい人に
- いま自分がいる世界は本物なのかと考えたことがある人に
あらすじ(ネタバレなし)
1947年、第二次世界大戦は枢軸国の勝利に終わりました。それから15年後の1962年、かつてのアメリカは、西海岸を日本が、東部をドイツが支配し、そのあいだに緩衝地帯のロッキー山脈連邦が置かれています。人々のあいだでは、謎の作家「高い城の男」が書いた、連合国が戦争に勝っていたらという小説『イナゴ身重く横たわる』が流行しています。ドイツの支配地域では禁書です。
日本の支配下にあるサンフランシスコで、ロバート・チルダンは日本人の客にアメリカの古い品を売る美術商を営んでいます。工場をクビになった職人フランク・フリンクは、これからの身の振り方を中国の占いの書『易経』に尋ねます。日本の通商代表部の田上は、取引相手の実業家バイネスの正体を探るよう本国から命じられて悩んでいます。
一方、ロッキー山脈連邦の町で柔道を教えるフランクの別れた妻ジュリアナは、イタリア人のトラック運転手ジョーと出会います。ジョーが持っていた禁書に惹かれたジュリアナは、作者に会いに行こうと考え始めます。
主な登場人物
- ロバート・チルダン
- サンフランシスコの美術商。日本人相手に、100年ほど前のアメリカの日用品などを売っている。
- フランク・フリンク
- 腕のいい工芸職人。ユダヤ系であることを隠して暮らしている。妻とともに易経に凝っている。
- ジュリアナ・フリンク
- フランクの妻で、別居してロッキー山脈連邦で柔道を教えている。禁書の熱心な読者。
- ジョー・チナデーラ
- イタリア出身の元兵士。トラックの用心棒としてロッキー山脈連邦を訪れ、ジュリアナと出会う。
- 田上信輔
- 日本の通商代表部の代表。原文での名はタゴミで、訳によって表記が違う。易経を心の支えにする。
- バイネス
- スウェーデン人の実業家と名乗ってサンフランシスコに来た男。田上が会うことになる相手。
- ホーソーン・アベンゼン
- 禁書『イナゴ身重く横たわる』の作者で、通称「高い城の男」。山奥の要塞のような家に住むという。
見どころ・おもしろいところ
小説の中の小説
作中では、連合国が勝った世界を描く仮想の小説が読まれています。ただしその中身も私たちの現実とは違う歴史です。占領下の人々がもう一つの歴史をどう読むかが、物語の大きな軸になっています。
易経に従って動く人々
何人もの人物が、迷ったときに『易経』の卦を行動の指針にします。ディック自身も、この小説の筋や主題を組み立てるときに易経を使ったとされ、占いが物語の進み方そのものに関わっています。
交わる群像劇
物語には一人の主人公がいません。美術商、職人、官僚、柔道の教師と、立場の違う人々の視点が入れ替わりながら進み、ばらばらに見えた筋が少しずつ触れ合っていきます。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
誰がどの国にいるか
サンフランシスコのある太平洋岸連邦、緩衝地帯のロッキー山脈連邦と、人物たちのいる国がそれぞれ違います。最初に誰がどこにいるかを押さえておくと、場面が切り替わっても迷いません。
日本人の名前の表記
日本人の登場人物の名前は、原文では日本語として不自然な綴りで書かれていて、訳によって表記が違います。別の訳や英語の解説も読むときは、同じ人物でも名前が違うことがあると知っておくと混乱しません。
後半は思索の色が濃い
後半になるほど、何が本物なのかを問う哲学的な思索が前に出てきます。筋の決着だけを追うより、人物たちがそれぞれ何に気づくかに目を向けて読むと、作品の手触りがつかめます。
易経で筋を組み立てた小説
ディックは、南北戦争で南部が勝った世界を描いたウォード・ムーアの歴史改変小説を読んで、この物語を思い描いたと語っています。ナチス・ドイツの歴史書やヒトラーの伝記、ゲッベルスの日記なども参考にし、謝辞に名前を挙げました。
登場人物だけでなく、作者自身も易経を使って筋や主題を組み立てています。作中の禁書の題は、旧約聖書の「伝道の書」の一節から来ていると作中の読者たちは考えています。
ヒューゴー賞とその評価
1963年にヒューゴー賞の長編小説部門を受けました。作家アーシュラ・K・ル=グウィンは、SFがアメリカ文学にもたらした最初の大きな、長く残る貢献かもしれないと書いています。英語圏ではディックの代表作に挙げられることも多い作品です。
日本では1965年に翻訳が出ました。作中の日本人が比較的人間的に描かれていることから、おおむね好意的に受け入れられましたが、アメリカ人の目から見た型どおりの日本人像には批判の声もあります。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
フランクは偽の提督の使いを装って元の雇い主から金を巻き上げ、友人と装身具の工房を始めます。その品を手にしたチルダンは、アメリカ人としての誇りを取り戻します。バイネスの正体はドイツ国防軍情報部のヴェゲナー大尉で、ゲッベルス政権が日本への核攻撃を計画していると田上に伝えます。そこへドイツ保安警察の工作員が襲いかかり、田上は彼らを撃ち殺します。ユダヤ系だと知られて捕まったフランクは、ドイツへの引き渡しを拒んだ田上によって釈放されます。
ジュリアナは、ジョーが「高い城の男」を暗殺するために送られたナチスの工作員だと気づき、彼を殺して作者のもとへ急ぎます。アベンゼンは、禁書は易経に従って書いたと打ち明けます。ジュリアナが易経に尋ねると、答えは「内なる真実」でした。彼女は、禁書に描かれた世界こそが本当の世界なのだと知ります。
よくある疑問
- 『高い城の男』はどんな話?
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第二次世界大戦で枢軸国が勝った世界のアメリカで、立場の違う人々が、連合国が勝った世界を描いた禁書と易経に導かれながら生きる群像劇です。
- 「高い城の男」とは誰のこと?
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作中で流行している禁書『イナゴ身重く横たわる』の作者、ホーソーン・アベンゼンの通称です。山奥の要塞のような家に住んでいることから、そう呼ばれています。
- 続編はある?
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ディックは結末を開かれたものと考え、続編を何度か書き始めましたが、ナチスについての資料を読み返すことに耐えられず進みませんでした。書かれた2章はのちに公開され、構想は別の作品へと形を変えています。
- ドラマ版との違いは?
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アメリカで連続ドラマになっていて、人物や世界の設定は原作を踏まえています。ただし禁書が本ではなく映画フィルムになっているなど、独自の脚色が加えられています。
