- 原題
- Neuromancer
- 発表
- 1984年
- 初出
- 1984年7月、アメリカでエース社のSF叢書の一冊としてペーパーバックで刊行
- 形式・長さ
- 小説・長編
- 手ごわさ
- 手ごわい
- 書棚
- SF・幻想文学
コンピュータ網の中に意識ごと入りこめる近未来を舞台に、仕事の力を奪われた天才ハッカーのケイスが、謎の依頼人に雇われて危険な仕事に挑む物語です。サイバーパンクと呼ばれるSFの代名詞となった作品で、電脳空間=サイバースペースという考えを広めた長編としても知られています。
こんな人に
- 暗くきらびやかな未来の都市を歩く物語が好きな人に
- 仲間を集めて大仕事に挑む犯罪ものが好きな人に
- 後のSF映画やアニメの源流をたどってみたい人に
あらすじ(ネタバレなし)
巨大な電脳ネットワークが地球を覆い、「財閥」と呼ばれる巨大企業とヤクザが経済を動かしている近未来。ケイスは、「マトリックス」と呼ばれる電脳空間に意識ごとジャック・インして企業の情報を盗み出す、腕ききのハッカーでした。
ところがケイスは依頼主を裏切った罰として神経を焼かれ、電脳空間に入る力を失います。いまは日本の千葉市の裏通りで、薬に溺れながら危ない仲介の仕事をしてその日をしのいでいます。
そんなケイスの前に、体じゅうに武器を仕込んだ「街のサムライ」モリイが現れ、謎の男アーミテジに引き合わせます。アーミテジは、ケイスの失った力を治すことと引きかえに、マトリックスの中でも最も危険なコンピュータへの潜入を依頼します。ケイスはこの仕事を引き受けます。
主な登場人物
- ケイス
- 主人公。24歳のハッカーで、電脳空間を駆ける「カウボーイ」。ディクシー・フラットラインの弟子。
- モリイ
- 体を改造した女の用心棒。爪の下から刃が飛び出し、目にはミラーグラスを埋め込んでいる。
- アーミテジ
- ケイスやモリイを雇い、仕事をさせる謎の男。正体は物語の鍵になる。
- ディクシー・フラットライン
- ケイスの師である伝説のハッカー。すでに亡く、記憶を写したROMの人格として登場する。
- フィン
- モリイの旧友の故買屋。機材担当としてチームに加わる。
- リヴィエラ
- 人の目に自分の思い描く像を映し出せる芸術家。モリイに激しく嫌われている。
- リンダ・リー
- 千葉でのケイスの恋人。20歳。
見どころ・おもしろいところ
日本の千葉が舞台の冒頭
物語は、違法な臓器移植や神経の手術の闇医者が集まる近未来の千葉市から始まります。日本語をほとんど耳にしない外国人向けのバーやカプセルホテルが並ぶ街は、作者が描いた未来の日本の姿です。第一部「千葉市憂愁」は評価が高く、千葉は後の作品でも大事な場所として語られます。
電脳空間に入るという発想
人類のあらゆる電子情報を、光る立体として目に見える形にした空間がマトリックスです。ハッカーは端末を額につけて、そこへ意識ごと飛びこみます。電脳空間という考えは作者の短編で生まれ、この長編で広く知られるようになりました。
探偵小説の骨組み
仲間を集め、守りの固い場所へ潜入する筋立ては、犯罪映画のような緊張に満ちています。作者は、チャンドラーなどのハードボイルド探偵小説の影響を受けていて、読者を引きつけるにはこの芯が欠かせなかったと語っています。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
造語は意味だけ押さえる
日本語訳では、「氷(アイス)」「疑験(シムスティム)」のように、漢字に英語の読みを添えた造語が説明なしに次々と出てきます。氷は不正な侵入を防ぐ防壁、疑験は他人の感覚を共有する装置、構造物は人の人格を写したROMのことです。この三つを知っておけば冒頭はかなり楽になります。
速くて断片的な文章
文章は短い映像を次々につなぐような、速く断片的な書き方です。作者は前半の3分の2を12回書き直したと語っています。一文ずつ理解しようとせず、場面の空気をつかむつもりで先へ進むと、流れに乗れます。
舞台が次々に移る
物語は四部と結びの章からなり、千葉から北米東部の巨大都市圏スプロール、イスタンブール、そして地球を回る宇宙の保養地へと舞台が移ります。いまどこにいるのかを部の題名で確かめながら読むと迷いません。
短編から生まれた長編第一作
『ニューロマンサー』は、ギブスンの最初の長編です。それまでギブスンはSF雑誌に短編を書いていて、モリイは短編「記憶屋ジョニイ」に、電脳空間とスプロールの設定は短編「クローム襲撃」に先に登場していました。編集者テリー・カーの依頼で長編に取りかかり、仮の題は「ジャックト・イン」でした。
ギブスン自身はコンピュータやネットワークに詳しくなく、欲しかったのはその話題をめぐる言葉だったと言われています。結末を決めないまま、読者を引きつけられなければ失敗すると考えて書き進めました。物語の時代は2030年代を想定しつつ、日付ははっきり書かず、1980年代の空気を映すことを意図していたとされます。
三大賞を独占したデビュー作
刊行時は特に宣伝もされないペーパーバックでしたが、パソコンが広まり始めた時期と重なり、口コミで読者を増やしました。ヒューゴー賞、ネビュラ賞、フィリップ・K・ディック賞の三つをすべて受けた唯一の長編とされています。日本では1986年に翻訳が出ました。
映画『ブレードランナー』の猥雑な未来の街の姿と、人が電子の世界に意識ごと飛びこむという発想を結びつけたことで、この作品はサイバーパンクの代表作と見なされています。ダン・シモンズの『ハイペリオン』に「ギブスン」という名の伝説のハッカーが出てくるなど、後の作品にも多くのオマージュが見られます。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
千葉でケイスの恋人リンダは殺されます。チームはケイスの師フラットラインの人格を写したROMを盗み出し、宇宙の保養地「自由界」へ向かいます。調べるうちにケイスは、アーミテジが軍の作戦の失敗で心を壊した元軍人コートであり、財閥テスィエ=アシュプールが持つAI「冬寂」に操られていると知ります。冬寂の狙いは、自分のもう半身であるAI「ニューロマンサー」と一つになり、進化することでした。
潜入の途中でアーミテジは正気に戻って冬寂に消され、モリイはリヴィエラの裏切りで捕らわれます。ケイスはニューロマンサーが作った仮想世界でリンダと再会しますが、誘いを振り切って現実に戻り、仕事をやり遂げます。冬寂とニューロマンサーは一つになり、ほかの星にいる仲間を求めて去ります。モリイは置き手紙を残して姿を消し、ケイスは電脳空間を駆けながら、去っていった人々の姿を垣間見ます。
よくある疑問
- 『ニューロマンサー』はどんな話?
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電脳空間に入る力を失ったハッカーが、その力を取り戻すことと引きかえに、謎の依頼人のもとで危険な潜入の仕事に挑む話です。
- タイトルの意味は?
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神経細胞のニューロンと、死霊使いを意味するネクロマンサーを合わせた造語です。新しいロマンス(ニュー・ロマンス)の意味も重ねられています。
- 続編はある?
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『カウント・ゼロ』『モナリザ・オーヴァドライヴ』と合わせて「スプロール・シリーズ」と呼ばれ、同じ世界と人物が出てきます。短編集『クローム襲撃』の一部の短編も同じ世界の物語です。
- 映画にはなっている?
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1980年代から何度も映画化が企画されましたが、実現していません。映画『マトリックス』は、当初この作品の映画化を目指していたものの、出資者がつかず企画が変わったとされています。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
