- 原題
- The Merchant of Venice
- 発表
- 1590年代後半(執筆は1594年〜1598年頃と推定)
- 初出
- 1600年に第1四折版が刊行
- 形式・長さ
- 戯曲・中編
- 手ごわさ
- すぐ読める
- 書棚
- ヨーロッパの文学
友人の恋を助けるため、ヴェニスの貿易商アントーニオは、返せなければ自分の肉1ポンドを差し出すという証文で金を借ります。命がけの借金をめぐる裁判と、富豪の娘の婿選びが並んで進む喜劇です。金貸しシャイロックの悲劇としても読まれてきました。
こんな人に
- 契約や約束の言葉の抜け道を探る話が好きな人に
- 悪役とされる人物の言い分にも耳を傾けたい人に
- 恋の駆け引きと手に汗握る法廷劇を一度に楽しみたい人に
あらすじ(ネタバレなし)
舞台は貿易で栄えるヴェニスと、架空の町ベルモントです。若い貴族のバサーニオは財産を使い果たしており、ベルモントの富豪の娘ポーシャに求婚するための資金が必要でした。そこで親友の貿易商アントーニオに頼みますが、アントーニオの財産はすべて航海中の船にあり、手元に現金がありません。
アントーニオは自分が保証人になると約束し、二人はユダヤ人の金貸しシャイロックのもとを訪れます。シャイロックは、日頃から自分を罵ってきたアントーニオを恨んでいました。それでも利子は取らないと言い、ただし期日までに返せなければアントーニオの肉1ポンドをもらうという条件を出します。アントーニオは心配するバサーニオをよそに、証文に署名します。
一方ベルモントでは、ポーシャのもとに求婚者が次々に訪れています。亡き父の遺言で、ポーシャの夫は金・銀・鉛の三つの小箱から正しい箱を選んだ者と決められていました。金を手にしたバサーニオも、友人グラシアーノを連れてベルモントへ向かいます。
主な登場人物
- アントーニオ
- ヴェニスの貿易商。題名の「商人」はこの人物で、親友のために借金の保証人になる。
- バサーニオ
- アントーニオの親友の若い貴族。財産を使い果たし、ポーシャに求婚しようとする。
- ポーシャ
- ベルモントに住む富豪の娘。父の遺言で、箱選びによって夫が決まる。
- シャイロック
- ユダヤ人の金貸し。アントーニオに恨みを持ち、肉1ポンドの証文を交わす。
- ジェシカ
- シャイロックの娘。キリスト教徒のロレンゾと恋仲になる。
- グラシアーノ
- アントーニオとバサーニオの友人。陽気だが口数が多く、軽はずみなところがある。
- ネリッサ
- ポーシャの侍女。女主人の企てに付き合う。
見どころ・おもしろいところ
三つの小箱の謎かけ
ポーシャの求婚者たちは、金・銀・鉛の箱に刻まれた言葉を読み、どれが正しいかを推理します。見た目の豪華さと中身の価値をめぐる謎かけで、求婚者たちの性格がそのまま選び方に表れます。結果を知る前に、自分ならどれを選ぶか考えながら読むと楽しめます。
証文をめぐる法廷劇
物語の山場は、ヴェニスの公爵が裁く法廷です。元首でさえ一度交わした契約を無効にはできず、証文の文言そのものをめぐって攻防が繰り広げられます。法学者イェーリングが『権利のための闘争』で論じたように、法の題材としても読まれてきた場面です。
シャイロックの言い分
シャイロックは強欲な悪役として描かれる一方、ユダヤ人に向けられた偏見への憤りを激しく語る場面があります。詩人ハイネはこの劇を「シャイロックの悲劇」と呼びました。彼がなぜ金を受け取らず肉にこだわるのかを考えると、喜劇の印象が大きく変わります。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
二つの町を行き来する
場面は、商人たちのいるヴェニスと、ポーシャの住むベルモントを交互に移ります。ヴェニスは借金と裁判、ベルモントは恋と婿選びと覚えておくと、いまどちらの筋が進んでいるのかがすぐにわかります。
名前の似た脇役は気にしない
アントーニオの仲間として、サラリーノやソラーニオなど似た名前の人物が出てきますが、版によって名前の表記も異なります。筋を動かすのは主要な数人なので、脇役の区別にこだわらずに読み進めてかまいません。
喜劇か悲劇かを決めずに読む
書かれた当時は喜劇として受け取られていましたが、日本ではシャイロックを主人公とした悲劇として上演されることが多い作品です。どちらの読み方も成り立つと知っておくと、結末の受け止め方が楽になります。
貿易都市を舞台にした喜劇
『ヴェニスの商人』は1590年代後半に書かれ、1598年にはすでに舞台でよく知られていたことが記録からわかります。1600年に出た初版の題扉には、それまでに何度も上演されたと記されています。作中の船の名前は、1596年にイングランドがスペインから奪った船を指すと考えられています。
友人の借金の保証人となった商人が命がけの証文に苦しむ話は、16世紀末のイングランドでよく知られていました。シャイロックというユダヤ人の金貸しの造形には、当時の偏見が色濃く表れています。
喜劇から悲劇への読み替え
18世紀初めには改作版が好評を博し、シャイロックは道化役者によって喜劇的に演じられていました。1741年にはチャールズ・マックリンが原作どおりの台本に戻した上演で大きな成功を収め、のちの名優たちの舞台へ道を開きました。日本でも平幹二朗や市川猿之助らがシャイロックを演じています。
一方で、20世紀には反ユダヤ主義を助長するとして、学校教材や上演に反対する運動も起こりました。アメリカでは1947年に、図書館から本を除くかどうかをめぐる裁判まで開かれています。2004年にはアル・パチーノがシャイロックを演じた映画も作られました。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
アントーニオの船が難破したという知らせが届き、借金は返せなくなります。シャイロックは娘ジェシカが財産を持ってロレンゾと駆け落ちしたこともあって、ますます復讐に燃え、倍の額を差し出されても受け取りません。法廷に現れた若い法学者は、実は男装したポーシャでした。彼女は肉を切り取ってよいと認めたうえで、証文にない血を一滴でも流せば全財産を没収すると告げます。
シャイロックは金で済ませようとしますが認められず、市民の命を狙った罪で財産を失い、命と引き換えにキリスト教への改宗を強いられます。正体に気づかないバサーニオは、礼として妻から贈られた指輪を法学者に渡してしまいます。ベルモントに戻ったポーシャは夫を責めたあと種明かしをし、アントーニオの船も無事だったとわかって幕となります。
よくある疑問
- 『ヴェニスの商人』はどんな話?
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友人のために、返せなければ肉1ポンドを差し出すという証文で借金をした商人アントーニオをめぐる喜劇です。裁判の筋と、富豪の娘ポーシャの婿選びの筋が絡み合います。
- 「ヴェニスの商人」とは誰のこと?
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金貸しのシャイロックではなく、貿易商のアントーニオを指します。英語の merchant は小売の商人ではなく貿易商のことで、貿易で栄えたヴェニスが舞台になっています。
- 元になった話はある?
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肉の証文の裁判と指輪の話は、14世紀イタリアの物語集『イル・ペコローネ』に原話があります。箱選びの話は、ラテン語の説話集『ゲスタ・ローマーノールム』に見られます。
- どのくらいの長さ?
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全5幕の戯曲です。借金と裁判、婿選び、ジェシカの駆け落ち、指輪をめぐる話が組み合わされています。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
