かもめ

かもめチェーホフ
原題
Чайка
発表
1896年(初演)
初出
1896年秋、ペテルブルクのアレクサンドリンスキイ劇場で初演
形式・長さ
戯曲・中編
手ごわさ
すぐ読める

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ひとことで言うと

湖のほとりの田舎屋敷に、大女優とその愛人の流行作家が滞在しています。女優の息子で作家を夢見る青年と、女優を夢見る娘を中心に、報われない恋と芸術への憧れが交差していく劇です。チェーホフの四大戯曲の最初の作品にあたります。

こんな人に

  • 夢をかなえたい気持ちと、才能への不安の両方を知っている人に
  • 片思いがすれ違い続ける群像劇が好きな人に
  • 大きな事件より、会話の間ににじむ感情を味わいたい人に

あらすじ(ネタバレなし)

湖のほとりにある、退役した官吏ソーリンの領地。ある晩、ソーリンの妹で大女優のアルカージナが、愛人の流行作家トリゴーリンを連れて滞在しています。アルカージナの息子で作家志望の青年コスチャは、恋人のニーナを主役にした自作の劇を、湖を背にした仮設の舞台で上演しようとしています。

コスチャは古い演劇を嫌い、新しい形式が必要だと信じています。ところが幕が開くと、母のアルカージナは息子の試みを真面目に受け取らず、からかいの言葉を投げ続けます。たまりかねたコスチャは芝居を途中で打ち切り、姿を消してしまいます。一方で、女優を夢見るニーナは一同の喝采を受け、あこがれの作家トリゴーリンに引き合わされます。

屋敷では、支配人の娘マーシャがコスチャをひそかに想い、教師のメドヴェージェンコはそのマーシャに言い寄っています。数日後、コスチャは撃ち落とした一羽のかもめを、冷たくなったニーナの足もとに置きます。

主な登場人物

コスチャ
コンスタンチン・ガヴリーロヴィチ・トレープレフ。作家志望の青年。コスチャは愛称で、トレープレフとも呼ばれる。
ニーナ
ニーナ・ミハイロヴナ・ザレーチナヤ。近くに住む裕福な地主の娘で、女優を夢見ている。
アルカージナ
イリーナ・ニコラーエヴナ・アルカージナ。コスチャの母で、名の知れた大女優。
トリゴーリン
ボリス・アレクセーエヴィチ・トリゴーリン。アルカージナの愛人の流行作家。
ソーリン
ピョートル・ニコラーエヴィチ・ソーリン。アルカージナの兄で、湖畔の領地の主。
マーシャ
マリヤ・イリイニチナ・シャムラーエワ。屋敷の支配人の娘で、いつも黒い服を着ている。
ドールン
エヴゲーニイ・セルゲーエヴィチ・ドールン。医師。コスチャの劇に可能性を見いだす。
メドヴェージェンコ
セミョーン・セミョーノヴィチ・メドヴェージェンコ。教師で、マーシャに言い寄っている。

見どころ・おもしろいところ

  1. 笑われる劇中劇

    第1幕でコスチャが上演する劇は、生命が消え果てた何十万年後の大地を語る、奇妙な独白劇です。これは当時流行したデカダン芸術のパロディといわれています。芸術を真剣に信じる息子と、それを冷笑する母の対立が、この場面から始まります。

  2. 片思いがつながる「5プードの恋」

    教師はマーシャを、マーシャはコスチャを、コスチャはニーナを想い、その気持ちはなかなか相手に届きません。チェーホフ自身、この劇を「5プードの恋」と呼びました。誰が誰を想っているのかを追うだけでも、人物の関係が見えてきます。

  3. 流行作家が語る書く苦しみ

    第2幕で、名声にあこがれるニーナに、トリゴーリンは作家として生きるつらさを打ち明けます。そこにはチェーホフ自身の作家生活が投影されているとされます。有名になることへの夢と、その内側の疲れが、二人の会話で鮮やかに対比されます。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

第3幕と第4幕の間に2年

劇は全4幕で、第3幕と第4幕の間に2年の時間が流れます。幕間に起きたことは、第4幕の会話の中で少しずつ明かされます。誰がどう変わったのかを、台詞から拾うつもりで読むと流れを見失いません。

呼び名を一覧で確かめる

ロシア語の名前は名・父称・姓からなり、愛称でも呼ばれます。たとえばトレープレフとコスチャは同じ人物で、マーシャの正式な名はマリヤです。読み始める前に登場人物の一覧を確かめておくと迷いません。

作者は「喜劇」と呼んだ

結末を知ると悲劇のように思えますが、この作品には「喜劇 四幕」という副題がついています。人物たちの思い込みやすれ違いを、少し離れた目で眺めるつもりで読むと、作品のおかしみも見えてきます。

大失敗に終わった初演

『かもめ』は1895年の晩秋に書かれ、翌1896年秋にペテルブルクで初演されました。しかし舞台は、ロシア演劇史上に例がないといわれるほどの失敗に終わります。名優中心の当時の演劇界では、作品の真価が理解されなかったともいわれています。

失笑に包まれた劇場を抜け出したチェーホフは、夜のペテルブルクをさまよい、二度と戯曲は書かないと誓ったといいます。妹のマリヤは、このときの彷徨がのちに兄の結核を悪化させたと考えていました。

モスクワ芸術座の再演と成功

2年後の1898年、設立されたばかりのモスクワ芸術座が、ためらう作者を説き伏せて再演しました。俳優が役柄を生きる新しい演出が作品の真価を明らかにし、今度は大成功を収めます。芸術座はこれを記念して、飛ぶかもめの意匠をシンボルマークにしました。

この成功で、チェーホフの劇作家としての名声は揺るぎないものになりました。のちの『ワーニャ伯父さん』『三人姉妹』『桜の園』とあわせて、チェーホフの四大戯曲と呼ばれています。日本では1922年に初演され、ニーナ役は初代水谷八重子が務めました。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

コスチャは自殺未遂を起こし、ニーナはトリゴーリンを追ってモスクワで女優になる決心をします。2年後、コスチャは作家として名が出はじめましたが、ニーナはトリゴーリンと一緒になって子どもを生んだあと捨てられ、子どもにも死なれ、地方を巡業する売れない女優になっていました。マーシャは想いを捨てきれないまま、メドヴェージェンコと結婚しています。

ある夜、ニーナがコスチャを訪ねてきます。彼女は自分をかもめになぞらえながら、大切なのは名声ではなく耐え忍ぶ力だと語り、去っていきます。信じるものを見つけられないコスチャは原稿を引き裂いて部屋を出ます。やがて銃声が響き、ドールンはトリゴーリンに、コスチャが自分を撃ったと小声で告げます。

よくある疑問

『かもめ』はどんな話?

湖畔の屋敷を舞台に、作家志望の青年コスチャと女優志望の娘ニーナを中心に、芸術家たちの恋と挫折を描いた劇です。人生と芸術をめぐる群像劇になっています。

初演は失敗だった?

1896年のペテルブルクでの初演は、ロシア演劇史上でも例がないほどの失敗に終わりました。2年後の1898年、モスクワ芸術座による再演で大きな成功を収めています。

モデルになった人はいる?

ニーナには、チェーホフの妹マリヤの友人リジヤ・ミジーノワというモデルがいます。ほかにも作者の身辺の出来事が多く取り入れられ、チェーホフの最も私的な作品とも呼ばれます。

『かもめ』は無料で読める?

青空文庫で、神西清による訳が無料で読めます。新字新仮名で公開されています。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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