- 原題
- Вишнёвый сад
- 発表
- 1904年
- 初出
- 1904年1月17日、モスクワ芸術座で初演
- 形式・長さ
- 戯曲・中編
- 手ごわさ
- すぐ読める
- 書棚
- ロシア文学
借金で没落しかけた貴族の一家が、先祖代々の領地と名高い桜の園を競売で失いそうになる話です。救う手立ては示されているのに、一家は現実から目をそらし、思い出話や夢を語り続けます。作者が「喜劇」と呼んだ最後の戯曲で、時代の移り変わりを一つの屋敷の中に描いています。
こんな人に
- 思い出の場所を手放した経験がある人に
- 笑っていいのか泣いていいのか迷う物語が好きな人に
- 短い時間で読める戯曲から古典に入ってみたい人に
あらすじ(ネタバレなし)
五月、桜の花が咲く夜明け。女地主ラネーフスカヤが、娘アーニャに付き添われて、5年暮らしたパリから領地の屋敷へ帰ってきます。兄ガーエフや養女ワーリャ、老僕フィールスたちは、久しぶりの帰郷を喜んで迎えます。
しかし一家にはもう昔のような財産はありません。桜の園は借金のかたとして競売にかけられ、その日は八月二十二日と決まっています。商人ロパーヒンは、土地を区切って別荘地として貸し出せば領地は救えると何度も勧めます。けれどもラネーフスカヤは浪費の癖が抜けず、危機を真剣に受け止めようとしません。
ロパーヒンは、かつてこの領地で働いた農奴の息子です。その彼が熱心に助言し、一家はそれを聞き流します。召使いたちの恋のもつれや、大学生トロフィーモフの語る新しい生活の夢を交えながら、競売の日は少しずつ近づいてきます。
主な登場人物
- ラネーフスカヤ
- 女地主。名と父称はリュボーフィ・アンドレーエヴナ、愛称はリューバ。パリから5年ぶりに帰郷する。
- ガーエフ
- ラネーフスカヤの兄。レオニード・アンドレーエヴィチ、愛称リョーニャ。人はいいが頼りにならない。
- ロパーヒン
- 商人エルモライ・アレクセーエヴィチ。農奴の家の出で、いまは金持ち。領地を救う案を説く。
- アーニャ
- ラネーフスカヤの娘で17歳。大学生トロフィーモフに憧れ、新しい生き方を考え始める。
- ワーリャ
- ラネーフスカヤの養女で24歳。屋敷を切り盛りする。ロパーヒンと想い合っているが進展しない。
- トロフィーモフ
- 大学生ピョートル・セルゲーエヴィチ、愛称ペーチャ。亡くなった息子グリーシャの家庭教師だった。
- フィールス
- 87歳の老僕。長年この屋敷に仕え、主人たちの世話を焼き続ける。
見どころ・おもしろいところ
ちぐはぐな会話のおかしさ
登場人物たちは、相手の話をよく聞かずに自分の思い出や悩みを語ります。目の前の危機をよそに、誰の言葉も微妙にかみ合わないところに、笑いともの悲しさが同時に生まれます。台詞の間を想像しながら読むと、舞台の空気が伝わってきます。
ロパーヒンという人物
幼いころ父に殴られて鼻血を出した彼を、若いラネーフスカヤが慰めてくれた思い出が、冒頭で語られます。農奴の子から金持ちになった男が、かつての主人一家をどう見ているのか。その複雑な気持ちが、物語の大きな軸になります。
喜劇か悲劇か
チェーホフはこの作品を喜劇と呼びましたが、初演を演出したスタニスラフスキーは悲劇として舞台を作りました。作者と演出家の解釈が食い違ったことはよく知られ、どちらとして読むかで印象が大きく変わります。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
戯曲として読む
本文は人物名と台詞、ト書きだけで書かれています。最初に冒頭の登場人物の一覧を確かめ、誰が話しているかを意識しながら読めば、小説より短い時間で読み通せます。全4幕で、第1幕は五月の夜明けの子供部屋から始まります。
名と父称で呼ばれる場面
ラネーフスカヤは「リュボーフィ・アンドレーエヴナ」、ガーエフは「レオニード・アンドレーエヴィチ」と、名と父称で呼ばれることが多くあります。登場人物の一覧に姓と名と愛称が並んでいるので、迷ったらそこに戻ると安心です。
最晩年に書かれた四大戯曲の最後
『桜の園』は、チェーホフが42歳だった1902年の夏に着想し、1903年秋に書き上げた戯曲です。『かもめ』『ワーニャ伯父さん』『三人姉妹』とともに、チェーホフ四大戯曲と呼ばれます。執筆中の妻あての手紙で、作者は今度の戯曲は滑稽なものになると書いていました。
背景には、1861年の農奴解放から約40年後のロシアがあります。かつての農奴が富を得て地位を上げる一方、安い労働力を失った貴族は領地を維持できずに没落していきました。ロパーヒンとラネーフスカヤ一家の関係は、こうした社会の変化をそのまま映しています。
初演の成功と作者の死
1904年1月17日、モスクワ芸術座で初演され、ラネーフスカヤはチェーホフの妻オリガ・クニッペルが演じました。批評は分かれたものの舞台は大成功を収め、各地で上演が続きます。しかしチェーホフは体調を崩してドイツへ移り、初演の約半年後に亡くなりました。
20世紀演劇の古典とされ、ピーター・ブルックら多くの演出家が手がけてきました。日本では1915年に帝国劇場で初演され、第二次世界大戦後の新劇の復活公演にも選ばれています。吉田秋生の漫画『櫻の園』は、この戯曲を上演する女子高校の演劇部を描いています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
競売の日、屋敷では舞踏会が開かれています。ラネーフスカヤは不安を抱えながら、パリの恋人とよりを戻すことまで考えています。やがてガーエフが泣きながら帰宅し、ロパーヒンが自分が桜の園を買ったと告げます。貧しい農夫の子が主人の領地を手に入れたことに、彼は興奮を隠せません。アーニャは泣き崩れる母を、新しい人生を生きようと慰めます。
ラネーフスカヤはパリへ戻り、ガーエフたちは町へ移ることになります。ロパーヒンはワーリャへの求婚を決意しながら、土壇場でやめてしまいます。一行が去ったあと、病院へ行ったと思われていたフィールスがひとり屋敷に取り残され、横たわったまま動かなくなります。外からは、桜の木に斧を打ち込む音が響いてきます。
よくある疑問
- 『桜の園』はどんな話?
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借金で領地と桜の園を失いかける貴族の一家と、その土地を手に入れようとする商人を描いた四幕の戯曲です。古い貴族の時代が終わり、新しい階級が台頭する時代の変わり目が背景にあります。
- 喜劇なの?悲劇なの?
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作者のチェーホフは喜劇と呼び、作品の扉にもそう記しています。一方で初演の演出家スタニスラフスキーは悲劇だと考えて舞台を作り、作者はその上演を嫌いました。以来、演出家たちはこの二つの面の扱いに取り組んできました。
- 太宰治の『斜陽』と関係がある?
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太宰治は、終戦直後の自分の生家の状況が『桜の園』に似ていたことから発想を得て『斜陽』を書いたとされています。
- 『桜の園』は無料で読める?
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神西清による日本語訳が青空文庫で公開されており、無料で読めます。新字新仮名の版です。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
