罪と罰

罪と罰ドストエフスキー
原題
Преступление и наказание
発表
1866年
初出
雑誌『ロシア報知』1866年1月号〜12月号に連載
形式・長さ
小説・大長編
手ごわさ
ふつう

青空文庫で無料で読むAmazon で本を探す

ひとことで言うと

「選ばれた人間は社会のために道徳を踏み越えてよい」と考えた貧しい元大学生が、高利貸しの老婆を斧で殺す話です。物語の大半は、事件のあとの彼の苦しみと、予審判事との息詰まる駆け引きに費やされます。犯罪小説の形をとりながら、人が罪とどう向き合うかを描いた長編です。

こんな人に

  • 自分の理屈と良心がぶつかって眠れなくなった経験がある人に
  • 犯人の側から描かれるミステリーに引き込まれる人に
  • 追い詰められた人間の心の動きを細かく追いたい人に

あらすじ(ネタバレなし)

夏のペテルブルク。学費を払えず大学から除籍されたラスコーリニコフは、狭い下宿部屋で、ある計画のことばかり考えています。選ばれた非凡な人間なら、世の中のために一般の道徳を踏み越えてもよい。その考えから、悪名高い高利貸しの老婆を殺し、その金を役立てようというのです。

居酒屋で知り合った酔いどれの元官吏マルメラードフからは、家族のために身を売った娘ソーニャの話を聞かされます。故郷の母からは、妹ドゥーニャが兄のために、金持ちの弁護士ルージンと婚約したという手紙が届きます。追い詰められた彼は、ついに斧を手に老婆の部屋へ向かい、居合わせた老婆の義妹まで手にかけてしまいます。

その日から、ラスコーリニコフは熱と幻覚、自白したい衝動に苦しめられます。そこへ現れるのが予審判事ポルフィーリーです。確かな証拠を持たないまま、彼は会話だけでじわじわとラスコーリニコフに迫っていきます。

主な登場人物

ラスコーリニコフ
主人公ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフ。家族からは「ロージャ」と呼ばれる。
ソーニャ
マルメラードフの娘。本名はソフィヤ・セミョーノヴナ・マルメラードワ。家族を飢えから救うため娼婦になった。
ポルフィーリー
老婆殺しを調べる予審判事。ポルフィーリー・ペトローヴィチ。心理だけを手がかりに主人公を追う。
ドゥーニャ
主人公の妹。アヴドーチヤ・ロマーノヴナ。「ドゥーネチカ」とも呼ばれる。美しく芯の強い娘。
ラズミーヒン
主人公の大学の友人。正式にはウラズミーヒン。変わり者だが誠実で、寝込んだ主人公の世話を焼く。
スヴィドリガイロフ
ドゥーニャを家庭教師に雇っていた家の主人。彼女に執着し、途中からペテルブルクに現れる。
マルメラードフ
酒に溺れる元九等官で、ソーニャの父。居酒屋で主人公に身の上を語る。

見どころ・おもしろいところ

  1. 予審判事との三度の対決

    ポルフィーリーは雑談のような調子で、主人公が雑誌に書いた論文の話を持ち出し、少しずつ核心に近づきます。犯人が誰かを読者は最初から知っているので、追う側と追われる側の心理戦そのものが読みどころです。脚本家ウィリアム・リンクは、刑事コロンボのモデルがポルフィーリーだと語っています。

  2. 二人の「踏み越えた」者

    主人公が罪を打ち明ける相手は、家族のために身を売ったソーニャです。聖書の朗読を頼む場面など、殺人者と娼婦が向き合う場面は作品の中心にあります。二人がなぜ自分たちを同類と感じるのかを考えながら読むと、題名の重さが見えてきます。

  3. 主人公の頭の中を歩く

    物語は三人称で語られますが、多くの場面が主人公の意識に寄り添って進みます。熱に浮かされた思考、ふいに湧く衝動、つじつまの合わない行動が、ほとんど内側から描かれるので、読者も彼の不安に巻き込まれていきます。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

一人に呼び名がいくつもある

ロシア語の名前は「名・父称・姓」の三つからなり、場面によって呼び方が変わります。主人公は「ラスコーリニコフ」「ロージャ」「ロジオン・ロマーヌイチ」と呼ばれますが、すべて同じ一人の人物です。親しい人は愛称、改まった相手は名と父称で呼ぶと覚えておくと、話し手との距離もわかります。

六部とエピローグの構成

作品は第1部から第6部と、エピローグからなります。事件は第1部の終わりに起き、第2部以降は事件後の日々が続きます。部ごとに区切って読むと、長さに押しつぶされずに済みます。

居酒屋の長話で止まらない

第1部では、酔ったマルメラードフが主人公に家族の不幸を延々と語ります。ここで疲れて投げ出す人もいますが、ソーニャと主人公をつなぐ大事な場面です。人物の紹介だと思って、筋を追う程度に読み進めてかまいません。

借金と賭博のなかで書かれた

シベリア流刑から戻ったドストエフスキーは、妻と兄を相次いで亡くし、兄の雑誌も廃刊して莫大な借金を抱えていました。出版業者ステロフスキーと無謀な契約を結んで前借りし、その金でヴィースバーデンへ向かいますが、ルーレットで大負けします。この苦境の中で『罪と罰』の初稿が書き始められました。

初稿は「ある犯罪の心理報告書」として構想された一人称の物語でした。別に温めていた中編『酔いどれ』の構想が合流して、マルメラードフ一家やスヴィドリガイロフが加わります。連載開始の直前に、ドストエフスキーは草稿を捨てて三人称の語りに書き改めました。

1866年の評判とその後

連載は1866年1月から12月まで続き、同じ雑誌にはトルストイの『戦争と平和』も載っていました。批評家ストラーホフは、本作がその年のロシア文学界で最大の話題作だったと回想しています。一方で、学生を殺人者として描いたことに反発する批評家もいました。

20世紀には精神分析や実存主義の文脈でも読まれ、サルトルやカミュがドストエフスキーの影響を認めています。映画化も多く、1935年のスタンバーグ版、1970年のソ連のクリジャーノフ版、1983年のカウリスマキ版などがあります。日本では手塚治虫が漫画にしています。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

ルージンは葬儀の会食でソーニャに盗みの濡れ衣を着せようとしますが、企みは見破られ、ドゥーニャとの婚約も壊れます。ラスコーリニコフはソーニャの部屋で殺人を打ち明けますが、その告白を隣室のスヴィドリガイロフが立ち聞きしていました。ポルフィーリーは三度目の対面で、犯人は彼だと告げ、自首を勧めます。スヴィドリガイロフは秘密をたてにドゥーニャに迫りますが拒まれ、身辺の金を人に配ったあと自殺します。

ラスコーリニコフは母に別れを告げ、ソーニャに背中を押されて自首します。自首したことなどが考慮され、刑はシベリア流刑8年と比較的軽いものでした。ソーニャはシベリアまで彼についていきます。初めは心を閉ざしていた彼も、やがて彼女への愛に気づき、新しい生き方へ踏み出そうとするところで物語は終わります。

よくある疑問

『罪と罰』はどんな話?

独自の理屈で高利貸しの老婆を殺した青年が、罪の意識に苦しみ、予審判事に追い詰められていく話です。娼婦ソーニャとの出会いが、彼の行く末を左右します。

実際の事件がもとになっている?

1865年1月にモスクワの商人の息子ゲラシム・チストフが、金品目当てに二人の老婆を殺した事件が、執筆のきっかけになったとされています。ドストエフスキーは滞在先のヴィースバーデンで、新聞の記事を通じてこの事件を知りました。

どのくらいの長さ?

長編小説で、第1部から第6部とエピローグからなります。雑誌『ロシア報知』に1866年の1年間にわたって連載されました。

刑事コロンボと関係があるって本当?

刑事コロンボの脚本を担当したウィリアム・リンクが、コロンボの人物像は予審判事ポルフィーリーがモデルだと語っています。犯人が先にわかっていて、捜査する側が会話で追い詰めていく形が共通しています。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

Let's share this post !