政府高官の妻アンナが、青年将校ヴロンスキーと恋に落ち、社交界の掟と自分の気持ちの間で追い詰められていく話です。その裏で、田舎の地主リョーヴィンが愛と生きる意味を探すもう一つの物語が並んで進みます。二組の人生を見比べながら、結婚と幸福とは何かを問う長編です。
こんな人に
- 許されない恋に引き裂かれる人の気持ちを追いたい人に
- 結婚や家庭とは何かを考え込んだことがある人に
- 都会の社交界と田舎の暮らしを見比べてみたい人に
あらすじ(ネタバレなし)
1870年代のモスクワ。オブロンスキー家では、夫スティヴァの浮気が妻ドリーに知れて、家の中が大混乱に陥っています。そこへ兄夫婦の仲を取りもつために、ペテルブルクから妹のアンナがやって来ます。アンナは政府高官カレーニンの妻で、八歳の息子を持つ美しく聡明な女性です。
モスクワの駅でアンナは、母を迎えに来ていた若い騎兵将校ヴロンスキーと出会います。そのころ、ドリーの妹で18歳のキティは、ヴロンスキーから求婚されるものと期待していました。舞踏会の夜、ヴロンスキーがキティではなくアンナと踊ったことで、三人の運命が動き出します。
キティに求婚して断られた地主リョーヴィンは、失意のうちに田舎の領地へ帰り、農地の経営に打ち込みます。一方、ペテルブルクに戻るアンナを、ヴロンスキーは同じ列車で追いかけます。夫と息子の待つ家に帰ったアンナの暮らしは、ヴロンスキーの存在によって揺らぎ始めます。
主な登場人物
- アンナ
- 主人公。アンナ・アルカージエヴナ・カレーニナ。スティヴァの妹で、カレーニンの妻。
- ヴロンスキー
- アレクセイ・キリロヴィチ・ヴロンスキー伯爵。騎兵将校で独身。アンナと恋に落ちる。
- カレーニン
- アンナの夫アレクセイ・アレクサンドロヴィチ。20歳年上の政府高官で、世間体を重んじる。
- リョーヴィン
- コンスタンティン・ドミートリチ・リョーヴィン。愛称コスチャ。田舎に住む地主で、トルストイの分身とされる。
- キティ
- ドリーの妹エカテリーナ・アレクサンドロヴナ・シチェルバツカヤ。18歳で社交界に出たばかり。
- スティヴァ
- アンナの兄ステパン・アルカージェヴィチ・オブロンスキー。陽気で浮気者の役人。リョーヴィンの幼なじみ。
- ドリー
- スティヴァの妻ダリヤ・アレクサンドロヴナ。キティの姉。夫の浮気に苦しむ。
見どころ・おもしろいところ
二つの物語が並んで進む
アンナとヴロンスキーの恋と、リョーヴィンとキティの物語が、章ごとに入れ替わりながら進みます。都会の社交界と田舎の領地での農地経営が交互に描かれ、二組の人生が鏡のように照らし合います。どちらか一方だけでなく、両方を見比べるところに作品の仕掛けがあります。
名高い書き出しの一文
小説は、幸福な家庭と不幸な家庭を対比する短い一文で始まります。この一文は世界文学の書き出しの中でもとりわけよく知られ、続く場面ではすぐにオブロンスキー家の騒動が描かれます。最初のページから作品の主題に触れられます。
細部で心を描く
トルストイは、人物の体つきや仕草、周りの風景を細かく描くことで、心の動きを表します。言葉にされない感情が細部から伝わるので、舞踏会や障害競馬の場面では、誰が何に動揺しているかに目を留めると読みごたえが増します。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
八部構成の長さに備える
作品は全8部、239章からなる長編です。リョーヴィンの農業経営や議論の場面が長く続くこともあり、アンナの話を待っていると中だるみに感じます。部ごとに一区切りとして読むと、ペースをつかみやすくなります。
呼び名を整理しておく
スティヴァは「ステパン・アルカージェヴィチ」、ドリーは「ダリヤ・アレクサンドロヴナ」とも呼ばれます。アンナの夫と恋人がどちらもアレクセイなので、名前ではなく「カレーニン」「ヴロンスキー」と姓で覚えると混乱しません。
改革期のロシアを背景に
トルストイは1873年に執筆を始め、1875年から雑誌に連載しました。作者は原稿の出来に満足できず、1876年の日記には、刷り上がった校正刷りを直す気になれないと書いています。それでも書き継ぎ、『戦争と平和』と並ぶ代表作に仕上げました。
物語の背景には、皇帝アレクサンドル2世が進めた1861年の農奴解放などの改革があります。鉄道や銀行の発展、地方自治会の設置、女性問題やセルビア支援の義勇兵など、当時の新しい動きを登場人物たちが熱心に論じ合います。
「完璧な芸術」という評価
本作は雑誌に発表された当初から称賛を受けました。ドストエフスキーは1877年の評論で、芸術作品として完璧であり、同時代のヨーロッパ文学に比べられるものはないと書いています。トーマス・マンも、全体の構造も細部も非の打ちどころがない作品だと評しました。
2007年に刊行された作家たちの愛読書の投票をまとめた本では、あらゆる文学作品の首位に選ばれています。映画化も多く、グレタ・ガルボ主演の1935年版、ヴィヴィアン・リー主演の1948年版などが作られ、バレエやミュージカルにもなっています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
アンナはヴロンスキーの子を産んだあと重い病に陥り、駆けつけたカレーニンは彼女を許します。絶望したヴロンスキーはピストル自殺を図りますが未遂に終わり、回復したアンナを連れて外国へ旅立ちます。リョーヴィンは病の癒えたキティと結婚し、兄ニコライの死を看取ったことから人生の意味に悩み始めます。
帰国したアンナとヴロンスキーは社交界から締め出され、離婚も息子を手放す恐れから進みません。不満を募らせたアンナは、ヴロンスキーの愛が他の女性に移ったのではと疑うようになり、ついに列車に身を投げます。ヴロンスキーは私費で義勇軍を編成して戦地へ向かいます。リョーヴィンはキティとの間に子をもうけ、人は他人や神のために生きるべきだという思いに至ります。
よくある疑問
- 『アンナ・カレーニナ』はどんな話?
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人妻アンナと青年将校ヴロンスキーの恋が、社交界の中で悲劇へ向かう話です。並行して、地主リョーヴィンが結婚と信仰を通して生きる意味を見つける物語が描かれます。
- どのくらいの長さ?
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全8部、239章からなる長編小説です。雑誌『ロシア報知』に1875年から連載され、1877年に単行本の初版が出ました。
- リョーヴィンにはモデルがいる?
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リョーヴィンはトルストイ自身の考えや経験を反映した人物とされています。トルストイの名「レフ」とリョーヴィンの名が通じていることや、求婚の仕方が作者の結婚のときと同じであることが指摘されています。
- 書き出しの一文はなぜ有名なの?
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幸福な家庭はどこも似ていて、不幸な家庭はそれぞれに違うという趣旨の一文で、作品の主題を短く言い当てているためです。訳者ごとに訳し方が異なり、訳文を比べる試みも行われています。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
