ナポレオンがロシアに攻め込んだ時代を背景に、三つの貴族の家の人々が恋をし、戦場へ行き、迷いながら生きていく話です。1805年から1813年までの出来事を、社交界の客間からボロジノの戦場まで行き来して描きます。歴史小説と恋愛小説と思索の書を一冊にまとめた大長編です。
こんな人に
- 大勢の人生が絡み合う群像劇をじっくり追いたい人に
- 歴史の大事件を一人ひとりの暮らしの側から見たい人に
- 迷って遠回りしながら大人になっていく人物に惹かれる人に
あらすじ(ネタバレなし)
1805年7月、ペテルブルクの社交界は、迫り来るナポレオンとの戦争の話題でもちきりです。フランス帰りの青年ピエールは、悪友と騒ぎを起こして首都を追われます。ところが父ベズーホフ伯爵が亡くなると、私生児だった彼が遺言によって莫大な財産を受け継ぎ、一夜にして社交界の注目の的になります。
ピエールの親友アンドレイ・ボルコンスキーは、身重の妻リーザを領地に残して戦地へ向かいます。モスクワのロストフ伯爵家では、長男ニコライが愛国心に燃えて出征し、家には妹で快活な少女ナターシャが残ります。
物語はこの三つの家を軸に、オーストリアでの戦い、平和な数年間、そして1812年のナポレオン軍のロシア侵攻へと進みます。財産を得たピエールは何を信じて生きればよいのか迷い、アンドレイは名誉と生きる意味を探し、ナターシャは恋に揺れます。戦争と平和が交互に訪れるなかで、彼らの運命が少しずつ交わっていきます。
主な登場人物
- ピエール
- 主人公。ピョートル・キリーロヴィチ・ベズーホフ。ロシア名ピョートルをフランス風にピエールと呼ばれる。眼鏡の大男。
- アンドレイ
- ピエールの親友。アンドレイ・ニコラーエヴィチ・ボルコンスキィ。公爵家の長男で、クトゥーゾフの副官を務める。
- ナターシャ
- ロストフ伯爵家の娘。本名ナターリア・イリーニチナ・ロストワ。物語の始まりでは12歳の天真爛漫な少女。
- ニコライ・ロストフ
- ナターシャの兄。ニコライ・イリーイチ・ロストフ。軽騎兵として従軍し、戦場で成長していく。
- マリヤ
- アンドレイの妹。マリヤ・ニコラーエヴナ・ボルコンスカヤ。信心深く、厳しい父と領地で暮らす。
- エレン
- クラーギン公爵家の娘で社交界の花形。エレーナとも呼ばれる。財産目当てにピエールの妻になる。
- ソーニャ
- ロストフ家に身を寄せる娘で、ニコライの又従兄妹。幼いころからニコライを想っている。
見どころ・おもしろいところ
客間と戦場を行き来する
夜会の噂話の次の章で、兵士たちが砲火の中を進みます。アウステルリッツやボロジノの会戦が、将軍ではなく一人の士官や民間人の目を通して描かれるので、戦争がどう見え、どう感じられたかが伝わってきます。
ナターシャという人物
12歳の少女として登場したナターシャは、恋をし、過ちを犯し、悲しみを知りながら大人になっていきます。猟師の音楽に合わせて農民の踊りを踊る場面は、ロシア文化史の本の題名にもなりました。彼女の成長を追うだけでも、この長さを読む甲斐があります。
実在の人物が登場する
作中には約160人の実在の人物が名前で登場し、ナポレオンや皇帝アレクサンドル1世、クトゥーゾフ元帥も姿を見せます。トルストイはナポレオンを英雄としてではなく、大きな歴史の歯車の前では無力な一人として描いています。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
四巻とエピローグの構成
作品は第一巻から第四巻と、二部からなるエピローグでできています。第一巻は1805年、第二巻は1806年から1811年の平和な時期、第三巻と第四巻が1812年の戦争です。いまどの年にいるのかを意識すると、迷子になりにくくなります。
名前と家を先に覚える
登場人物は559人に上るとも言われます。まずベズーホフ、ボルコンスキー、ロストフの三家と、クラーギン家の兄妹を押さえておくと楽です。同じ人が愛称や名と父称で呼ばれるので、主要人物の対照表を手元に置いて読む人もいます。
歴史論の章は後回しでよい
物語の途中や第二エピローグには、トルストイが戦争と歴史について論じる章が挟まります。361章のうち24章がこうした論考です。筋を追いたいときは先に物語の章を読み、論考はあとで戻って読んでもかまいません。
55年前の戦争を書く
トルストイは結婚して領地に落ち着いた1863年に執筆を始めました。前半は『1805年』の題で1865年から雑誌に載りましたが、作者は満足せず、1866年から1869年にかけて全体を大きく書き直しています。妻ソフィヤは、完成までに完全な原稿を7回も清書したと伝えられます。
物語の時代は、執筆の55年前にあたる1812年前後です。トルストイは1812年の戦争を経験した人々から話を聞き、ロシア語とフランス語の歴史書、手紙や日記を読み込みました。自身がクリミア戦争に従軍した経験も、軍隊の描写に生かされています。
分類できない大作として
完結版は刊行されるとすぐに売り切れ、作家ゴンチャロフはトルストイをロシア文学の真の獅子と呼びました。一方で批評家たちは、年代記とも歴史小説ともつかないこの作品をどう分類するか迷いました。ツルゲーネフは、国民全体の暮らしを描いた叙事詩であり歴史小説だと評しています。
イギリスの作家サマセット・モームは『世界の十大小説』で、あらゆる小説の中で最も偉大な作品と評しました。1956年にキング・ヴィダー監督、オードリー・ヘプバーン出演で映画になり、ソ連ではセルゲイ・ボンダルチュクが全4部作の映画を作っています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
1812年、ナポレオン軍が侵攻し、アンドレイの父は亡くなり、ボロジノの戦いでアンドレイは重傷を負います。ナターシャはアナトーリ・クラーギンの誘惑で婚約を壊していましたが、モスクワから疎開する途中で負傷したアンドレイと再会し、許されます。アンドレイは妹マリヤとナターシャに看取られて亡くなります。ピエールはモスクワでフランス軍に捕らえられ、捕虜の農民兵プラトン・カラターエフとの出会いを通じて心の平安を得ます。エレンは急死し、ナターシャの弟ペーチャは戦死します。
1813年、解放されたピエールはモスクワでナターシャと再会し、二人は互いの愛に気づきます。エピローグでは、ピエールとナターシャ、そして家を立て直したニコライとマリヤの二組の夫婦のその後が描かれ、最後にトルストイ自身による歴史論が置かれています。
よくある疑問
- 『戦争と平和』はどんな話?
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ナポレオン戦争の時代に、ロシア貴族の三つの家の人々がどう生きたかを描く群像小説です。中心にいるのは、ピエールとアンドレイ、そしてナターシャです。
- どのくらいの長さ?
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大長編で、全四巻と二部のエピローグからなり、章の数は361にのぼります。トルストイの作品の中で最も長い小説です。
- なぜ会話にフランス語が出てくるの?
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当時のロシア貴族は、教養としてフランス語を日常的に使っていました。作中でも貴族の会話にフランス語が交じり、ピョートルをピエールと呼ぶなど、フランス文化の影響が描かれています。
- 最初からこの題名だった?
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連載の始まりの部分は『1805年』という題で発表されました。なぜ『戦争と平和』に変えたのかはわかっていません。
