浮雲

浮雲二葉亭四迷
発表
1887年(明治20年)〜(三編に分けて発表)
初出
第1編・第2編は金港堂から刊行、第3編は雑誌『都の花』に連載
形式・長さ
小説・長編
手ごわさ
手ごわい
千早振る神無月ももはや跡二日の余波となッた二十八日の午後三時頃に、神田見附の内より、塗渡る蟻、散る蜘蛛の子とうようよぞよぞよ沸出でて来るのは、孰れも顋を気にし給う方々。
書き出し

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ひとことで言うと

役所を免職になった内海文三が、要領よく出世していく友人と、心が離れていくように見える従妹のお勢とのあいだで、思い悩むばかりで何もできずにいる話です。話し言葉に近い言文一致の文体で書かれ、日本の近代小説の始まりとされています。

こんな人に

  • 考えすぎて動けなくなった経験がある人に
  • 要領のいい同僚にもやもやしたことがある人に
  • 明治の小説がどう話し言葉に近づいたかを知りたい人に

あらすじ(ネタバレなし)

明治の東京。下級役人の内海文三は、とくに何かをしくじったわけでもないのに、役所を突然免職になります。父を亡くしてから叔父の家で育った文三は、叔母のお政と、その娘でいとこのお勢と同じ家に暮らしています。

文三は前からお勢に思いを寄せていて、お勢も親しげにふるまい、両親も二人の結婚をほのめかしていました。けれども免職を打ち明けると、お政は文三の高すぎるプライドを責め、同僚で要領のいい本田昇を見習えと言います。田舎の母からは、身を固めたら呼び寄せてほしいという手紙が届いています。

そこへ本田が、昇進の知らせを持って訪ねてきます。お政は本田を気に入り、お勢と三人で団子坂の菊見に出かける話をまとめます。上司に頭を下げて復職を頼むこともできない文三は、お勢の気持ちがどこにあるのかを一人で思いめぐらすばかりです。

主な登場人物

内海文三
主人公。融通の利かない下級役人で、免職になる。教養はあるがプライドが高く、行動に移せない。
お勢
文三の従妹。叔父夫婦の娘で、結婚の年ごろを迎えている。気分の移りやすい娘として描かれる。
本田昇
文三の同僚で友人。上司に取り入るのがうまく、文三とは対照的に出世していく。
お政
文三の叔母でお勢の母。免職になった文三に冷たくなり、本田を高く買う。
孫兵衛
文三の叔父。仕事で家を空けていることが多く、物語にはあまり出てこない。

見どころ・おもしろいところ

  1. 話し言葉で書いた小説

    それまでの小説は、話し言葉とかけ離れた文章で書かれていました。四迷は三遊亭圓朝の落語の速記本を参考に、話し言葉に近い文体でこの作品を書いたと言われています。いまの小説につながる文章が、ここから始まりました。

  2. 編を追って変わる文体

    第一編には、語り手が読者に呼びかけたり、凝った見立てで人物を描いたりする戯作調が残っています。それが第三編では文三の心の中の独白が大きく増え、語り手は背景に退きます。一つの作品の中で、文章が近代小説へと変わっていく様子が見られます。

  3. 何もできない主人公

    文三は、悩み、考え、相手の気持ちを推しはかりますが、行動には移せません。ロシアの作家ゴンチャロフの『オブローモフ』がモデルと言われ、目立った事件がないぶん、一人の青年の心の揺れが細かく描かれます。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

冒頭の髭の羅列は流してよい

書き出しは、役所から出てくる役人たちを髭の形で書き分けていく、戯作調の凝った文章です。言葉遊びがわかりにくければ、文三が登場するところまで軽く読み流しても筋には困りません。

三編で読み心地が変わる

作品は第一編から第三編までの三つに分かれ、編ごとに文体が変わっていきます。第一編が読みにくく感じても、話が進むにつれて文章は今の小説に近づくので、続けて読むと楽になります。

文三の思い込みに注意

物語の多くは、文三がお勢や本田の気持ちをあれこれ推しはかる場面です。文三の考えは自分勝手な思い込みのことも多いので、実際に起きた出来事と文三の想像とを分けて読むと、話が整理できます。

逍遥の名で世に出た第一作

二葉亭四迷は、坪内逍遥の評論『小説神髄』を読んで満足せず、逍遥の小説『当世書生気質』に対抗してこの作品を書きました。新人の名では出版社が引き受けなかったため、第一編は「坪内雄蔵」(逍遥の本名)の名で刊行されます。逍遥は序文で四迷の作であることを明かし、第二編からは共著の形になりました。

四迷はロシア文学から強い影響を受けていました。同時代のロシア小説をモデルにしながら、日本の下級役人の家庭を舞台に、一人の青年の内面を描こうとしたのです。

作者が満足しなかった名作

『浮雲』は批評家にも読者にも評判になりましたが、四迷自身は出来に満足しませんでした。作家として失敗したと感じた四迷は、その後約20年間、小説から離れ、官報の仕事に就いています。

発表当時は完結した作品として読まれていました。1937年になって、未完ではないかという見方が出され、四迷の死後に見つかった日記からは実現しなかった四つの筋書きも見つかっています。1967年には英訳が出版され、テレビドラマにもなっています。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

菊見の日、本田は出先で上司に巧みに取り入り、家に残った文三は、自分が来ないことをお勢が気にもかけなかったことに落胆します。やがて本田に復職の口添えを申し出られた文三は侮辱と感じて絶交し、お勢に味方してもらおうとしますが、お勢はすでに本田に心を寄せていました。お政は二人の縁談は無いものと言い渡します。

居づらくなった文三は家を出ようと部屋まで探しますが、踏み切れません。本田は上司の妻と義妹に英語を教えるようになり、お勢への関心を失っていきます。ある日、湯屋へ出かけるお勢が文三に優しいまなざしを向けたように見え、文三は、帰ってきたらもう一度話をしよう、聞き入れられなければ家を出ようと決めます。物語はそこで「終」となります。

よくある疑問

『浮雲』はどんな話?

免職になった不器用な青年の文三が、出世していく友人と、心が離れていくいとこのお勢とのあいだで、思い悩むばかりで動けない話です。

なぜ近代小説の始まりと言われるの?

話し言葉に近い言文一致の文体で書かれ、人物の内面を細かく描いたためです。英訳の題も「日本最初の近代小説」とされています。

『浮雲』は未完なの?

第三編の末尾には「終」と書かれています。ただ、続編の構想と思われる作者のメモが見つかったため未完とも言われます。作者が未完のつもりだったかどうかはわかっていません。

『浮雲』は無料で読める?

著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。新字新仮名の版が公開されています。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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