蜘蛛の糸

蜘蛛の糸芥川龍之介
発表
1918年(大正7年)
初出
児童向け雑誌『赤い鳥』1918年7月の創刊号に掲載
形式・長さ
小説・短編
手ごわさ
すぐ読める
ある日の事でございます。
書き出し

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ひとことで言うと

地獄の底でもがく大泥棒の犍陀多に、極楽の御釈迦様が一本の蜘蛛の糸を垂らします。生涯にたった一つだけした善い行いへの報いです。糸をのぼれば地獄から抜け出せるかもしれない。子ども向けの雑誌のために書かれた、三つの章からなるごく短い物語です。

こんな人に

  • 数分で読み終わるのに、あとまで考えが残る話を読みたい人に
  • 昔話のような語り口で語られる物語が好きな人に
  • 自分だけ助かりたいという気持ちに覚えがある人に

あらすじ(ネタバレなし)

ある朝、御釈迦様は極楽の蓮池のほとりを歩いていて、ふと水の下をのぞきます。池の下はちょうど地獄の底にあたり、澄んだ水を通して三途の川や針の山が見えるのです。そこで御釈迦様は、ほかの罪人と一緒にうごめく犍陀多という男に目をとめます。

犍陀多は人を殺し、家に火をつけた大泥棒です。けれども一度だけ、林の中で踏み殺しかけた小さな蜘蛛を、命あるものだからと思い直して助けたことがありました。それを思い出した御釈迦様は、蓮の葉にいた極楽の蜘蛛の糸を手に取り、地獄の底へまっすぐに下ろします。

血の池に浮き沈みしていた犍陀多は、暗闇の中を銀色の糸が自分の上へ垂れてくるのを見つけます。これをのぼれば地獄から出られる、うまくいけば極楽へも行けると考えた犍陀多は、糸を両手でつかみ、上へ上へとたぐりはじめます。

主な登場人物

御釈迦様
極楽の蓮池から地獄をのぞき、犍陀多を救おうと蜘蛛の糸を垂らす。
犍陀多(かんだた)
殺人や放火を重ねた大泥棒。地獄の血の池で苦しんでいる。
罪人たち
犍陀多と同じく地獄に落ちた無数の人々。物語の後半で大きな役割を持つ。

見どころ・おもしろいところ

  1. 極楽と地獄を行き来する視点

    第一章は極楽の蓮池、第二章は地獄の底、第三章はまた極楽と、場面が上と下で入れ替わります。白い蓮と金色の蕊の匂う極楽と、静まり返った暗い地獄が、続けて読むことで鮮やかに対比されます。

  2. 「ございます」の語り口

    全体が「ございます」「居ります」という丁寧な語りで書かれ、子どもに読み聞かせるような調子で進みます。おだやかな語り口のまま恐ろしい地獄の様子が語られるので、かえって場面が印象に残ります。

  3. 糸の上で一人きりになる場面

    犍陀多は糸の途中で疲れて一休みし、はるか下を見下ろします。血の池も針の山も足の下になり、もう少しで抜け出せそうだと思う瞬間です。この高さと孤独の感覚が、続く場面の緊張を生んでいます。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

主人公の名前が読みにくい

犍陀多は「かんだた」と読みます。鈴木大拙が英語の名前に当てた漢字を芥川がそのまま使ったもので、「犍」の字の本来の読みは「けん」です。読めなくても気にせず、カンダタと覚えておけば十分です。

極楽にいるのは御釈迦様

仏教の教えでは、極楽浄土は阿弥陀仏の浄土とされ、釈迦がいるのは本来の設定と違うという指摘があります。仏教の説明として読むより、昔話の舞台として受け取ると引っかからずに読めます。

『赤い鳥』創刊号のための一編

この作品は1918年4月に書き上げられ、鈴木三重吉が創刊した児童向け文芸雑誌『赤い鳥』の7月創刊号に載りました。三重吉は芥川にとって夏目漱石門下の先輩にあたります。神奈川近代文学館にある肉筆原稿には、三重吉による朱筆の書き込みが残っています。

材源は、ポール・ケーラスの『カルマ』に収められた「The Spider-Web」で、ケーラス自身の創作とされます。これを鈴木大拙が1898年に『因果の小車』として訳したものを、芥川が下敷きにしました。単行本としては、翌1919年1月に新潮社の『傀儡師』に収められています。

似た話と、その後の広がり

天から下りたものにすがって他人を振り落とす話は、ほかにも見られます。スウェーデンの作家ラーゲルレーヴが1905年に書いた「わが主とペトロ聖者」や、山形・福島・愛媛に伝わる「地獄の人参」がその例です。「地獄の人参」が古い伝承なのか、この作品から生まれた話なのかはわかっていません。

アニメでは『まんが日本昔ばなし』などで取り上げられ、2011年には平幹二朗の主演で映画にもなりました。芥川の息子で作曲家の芥川也寸志が音楽を書いたバレエもあります。小松左京は、犍陀多と御釈迦様の立場を入れ替えたパロディの掌編を書きました。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

糸の途中で下を見ると、数えきれない罪人たちが犍陀多の後を追って、蟻の行列のようにのぼってきます。このままでは糸が切れてしまうと恐れた犍陀多は、この糸は自分のものだ、下りろと大声でわめきます。その途端、糸は犍陀多がぶら下がっている所からぷつりと切れ、犍陀多はまっさかさまに暗闇の底へ落ちていきました。

一部始終を見ていた御釈迦様は、自分だけ助かろうとした犍陀多の無慈悲な心と、その報いを浅ましく思ったのか、悲しそうな顔をしてまた歩きはじめます。極楽の蓮はそんなことには少しも構わず、昼に近い極楽でよい匂いを放ち続けています。

よくある疑問

『蜘蛛の糸』はどんな話?

地獄に落ちた大泥棒の犍陀多が、生前に蜘蛛を助けた報いとして、御釈迦様から一本の蜘蛛の糸を垂らしてもらう話です。三つの短い章でできています。

元になった話はある?

ポール・ケーラスが1894年に書いた『カルマ』の一編を、鈴木大拙が訳した『因果の小車』が材源というのが定説です。それ以前は、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』の「一本の葱」の挿話が着想のもとと考えられていました。

芥川が子ども向けに書いた作品なの?

そうです。鈴木三重吉が創刊した児童向け文芸雑誌『赤い鳥』のために書かれ、芥川が手がけた最初の児童文学作品とされています。

『蜘蛛の糸』は無料で読める?

著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。新字新仮名の版が公開されています。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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