- 原題
- The Martian Chronicles
- 発表
- 1950年
- 初出
- 1940年代に複数の雑誌に発表した短編に書き下ろしを加え、1950年にダブルデイ社から刊行
- 形式・長さ
- 短編集・長編
- 手ごわさ
- ふつう
- 書棚
- SF・幻想文学
地球から火星へ探検隊が送られ、やがて大勢の人々が移り住んでいく。そのおよそ四半世紀の出来事を、日付のついた短い物語を順に並べてたどる連作です。火星人と地球人の出会い、植民地の暮らし、遠い地球の戦争が、26の話を通して少しずつ語られていきます。
こんな人に
- 短い話を一つずつ味わいながら、大きな流れも追いたい人に
- 科学の説明より、詩のような情景の描写に惹かれる人に
- 開拓や移民の物語に、時代への皮肉を読み取るのが好きな人に
あらすじ(ネタバレなし)
この本は、1999年1月から2026年10月までの日付がついた26の章でできています。短編として書かれた話と、それらをつなぐ短い文章が年代記のように時間順に並んでいます。章ごとに登場人物も舞台も変わります。
最初の章「ロケットの夏」は、オハイオの寒い冬の日に、火星へ向かう最初の探検隊のロケットが打ち上げられる場面を描いた、ごく短いスケッチです。続く「イラ」では、視点が火星の側に移ります。
火星に住むイラは、夫との暮らしに満たされない日々を送る女性です。火星人はみな心で互いの思いを感じ取ることができ、イラもまた、近づいてくる地球の宇宙飛行士の姿を心の中に受け取ります。そして聞いたこともない英語の歌を口ずさみ、彼に連れられて地球へ行く夢を見るようになります。その様子に、夫は嫉妬をつのらせていきます。
主な登場人物
- イラ
- 最初のほうの話に出てくる火星人の女性。地球から来る人間の姿を心で感じ取る。
- ワイルダー
- 第四探検隊の隊長。前半の探検の話と、終わり近くの話の両方に登場する。
- ジェフ・スペンダー
- 第四探検隊の隊員。火星の古い都市を前に、仲間の態度に反発を覚える。
- ハサウェイ
- 第四探検隊の医師で地質学者。物語の終わり近くで、もう一度中心になる。
- ベンジャミン・ドリスコル
- 火星に移り住んだ男性。薄い空気に苦しみ、木を植えて空気を変えようとする。
- トマス・ゴメス
- 火星で働く若い建設作業員。夜の道で、幻のような火星人と出会う。
見どころ・おもしろいところ
物語をつなぐ短い章
長めの物語の間に、ごく短い章がはさまっています。移民の到着や植民地の様子を、スケッチのような短い文章で描き、次の話への橋渡しをしています。ブラッドベリはこの形を、スタインベックの『怒りの葡萄』から無意識に借りたと語っています。
火星人の側から見る地球人
前半では、地球からの探検隊がたびたび火星人の目を通して描かれます。火星の大人や子どもが、意味のわからない地球の詩や童謡を突然口ずさみ始める話もあります。迎える側の戸惑いや恐れから見ることで、探検という出来事が違って見えてきます。
火星に映る当時のアメリカ
火星を舞台にしていますが、描かれているのは第二次世界大戦直後のアメリカ社会です。軍事化、核戦争への不安、人種差別、本の検閲などが、火星への移民の姿に重ねられています。話ごとにどんな問題が映されているかを考えると、短い話にも奥行きが出ます。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
主人公は話ごとに替わる
一冊を通して同じ主人公を追う小説ではありません。章ごとに人物が入れ替わりますが、第四探検隊の隊員の何人かは後の章にも顔を出します。前に出てきた名前を見かけたら、少し前の章を見返すと話がつながります。
版によって年代が違う
1999年が近づいたため、1997年の改訂版ではすべての年代が31年繰り下げられ、2030年から2057年の話になりました。改訂版では収録作も一部入れ替わっています。手元の本の年代が違っても、中身の流れは同じだと思って読めば大丈夫です。
科学の正しさは気にしない
作中の火星には空気があり、運河には水が流れています。実際の火星の姿とは大きく違いますが、ブラッドベリ自身は、読者が惹かれるのは科学ではなく神話や寓話としての物語だからだと語っています。設定の正確さより、情景と人間の姿を味わうつもりで読むのがおすすめです。
戦後のアメリカから見た火星
収録された話の多くは、1940年代にさまざまな雑誌に発表されたものです。1949年、ダブルデイ社の編集者が、それらを一冊の長編のようにまとめることを提案しました。当時29歳のブラッドベリは、24歳で読んだ『ワインズバーグ・オハイオ』のような本を火星を舞台に書きたいと思っていたことを思い出したといいます。
ブラッドベリの火星への関心は子どものころに始まり、エドガー・ライス・バローズの火星シリーズを暗記するほど読み込んでいました。書かれたのは第二次世界大戦の直後で、物語の始まりは半世紀ほど先の1999年に置かれています。戦争で繁栄した当時のアメリカを未来に押し広げた姿が、火星の植民地として描かれています。
詩人の書いた未来史として
刊行されると、この作品はSFの読者だけでなく文芸批評家にも受け入れられました。作家クリストファー・イシャウッドは、ブラッドベリをエドガー・アラン・ポーと並べて称えています。一方で、機械の時代に良いところを見ない反SFの作家だという批判もありました。
1979年9月までに300万部以上が売れています。2012年には、NASAの探査車キュリオシティの火星着陸地点が、ブラッドベリをたたえて「ブラッドベリ・ランディング」と名づけられました。1979年にはアメリカとイギリスの共同でテレビのミニシリーズにもなっています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
第一次から第三次までの探検隊は、火星人によって次々に命を落とします。ところが第四探検隊が着いたとき、火星人は先の探検隊が持ち込んだ水ぼうそうで、ほとんど死に絶えていました。隊員スペンダーは仲間の振る舞いに耐えられず、火星を守ろうとして仲間を撃ち始めます。やがて地球から大勢の移民が押し寄せ、火星にアメリカと同じような町を作っていきます。
地球で全面戦争が始まると、移民の多くは地球へ帰り、核戦争で地球の文明は滅びます。地球では、核爆弾で壊滅した町に自動で動く家だけが残ります。火星に残ったハサウェイは、亡くした家族に似せたロボットと暮らしていました。最後の章では、地球を逃れた一家が火星に降り立ちます。父親は地球の書類を燃やし、運河の水面に映る家族の顔を指して、これが火星人だと子どもたちに教えます。
よくある疑問
- 『火星年代記』はどんな話?
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人類が火星を探検し、移り住み、やがて地球が戦争で滅びるまでを、日付つきの短い物語の連なりで描いた作品です。火星人と地球人の出会いと別れが中心にあります。
- 長編小説?それとも短編集?
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雑誌に発表した短編に、それらをつなぐ書き下ろしの章を加えて一冊にまとめた作品です。ブラッドベリ自身は「長編のふりをした短編集」と呼んでいます。
- なぜ版によって年代が違うの?
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最初の版は1999年から2026年の出来事として書かれていました。現実の1999年が近づいたため、1997年の改訂版で全体が31年先にずらされました。
- 本当の火星とは違うの?
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大きく違います。1964年に探査機マリナー4号が撮影した火星の地表は、作中の描写とはまったく別のものでした。それでもこの作品は、神話のような物語として読まれ続けています。
