- 原題
- Fahrenheit 451
- 発表
- 1953年
- 初出
- 1953年10月、アメリカのバランタイン・ブックスから刊行
- 形式・長さ
- 小説・中編
- 手ごわさ
- すぐ読める
- 書棚
- SF・幻想文学
本を持つことが禁じられ、見つかった本は「ファイアマン」が焼き払う未来のアメリカ。本を燃やす仕事に誇りを持っていた男が、ひとりの少女との出会いをきっかけに、自分の暮らしを疑い始めます。題名の華氏451度は、紙が燃え始める温度を指しています。
こんな人に
- 画面を眺めているうちに一日が終わってしまう、と感じたことがある人に
- 本を読むことそのものの意味を考えてみたい人に
- 管理された社会から抜け出そうとする主人公の物語が好きな人に
あらすじ(ネタバレなし)
遠い未来のアメリカでは、本を持つことが法律で禁じられています。家はすべて燃えない素材で建てられ、消防士にあたる「ファイアマン」の仕事は、火を消すことではなく、隠された本を家ごと焼き払うことになっています。
ファイアマンのガイ・モンターグは、その仕事に満足して暮らしていました。ある秋の夜、帰り道で彼は、隣に越してきた17歳近い少女クラリスに出会います。自然や人の話に興味を持ち、「どうして」と問いかけるクラリスと話すうちに、モンターグは自分が本当に幸せなのかを考え始めます。
家に帰ると、妻のミルドレッドが睡眠薬を飲みすぎて倒れていました。彼女は居間の壁一面を埋めるテレビの番組に夢中で、夫とまともに話すこともありません。そしてある日の出動で、モンターグは燃やすはずの本を一冊こっそり持ち帰ってしまいます。
主な登場人物
- ガイ・モンターグ
- 主人公のファイアマン。訳によって「昇火士」「焚書官」などと訳される。
- クラリス・マクレラン
- 隣に越してきた少女。同世代になじめず、モンターグに疑問を抱かせる。
- ミルドレッド
- モンターグの妻。壁一面のテレビに夢中で、夫からは「ミリー」と呼ばれる。
- ビーティー
- モンターグの上司の隊長。本に詳しいのに本を否定する。訳によって表記が違う。
- フェイバー
- 元英文学教授の老人。本が禁じられたとき何もしなかったことを悔やんでいる。
- ボウルズ夫人とフェルプス夫人
- ミルドレッドの友人たち。迫る戦争にも家族にも関心が薄い。
見どころ・おもしろいところ
火をつける側が主人公
物語は、本を焼く仕事を誇りにしている男の目から始まります。モンターグは、この社会に忠実な働き手から、迷う人へ、そして自由になろうとする人へと変わっていきます。燃やす側の心の動きを追う構成なので、彼の変化そのものが読みどころです。
壁一面のテレビと耳の中のラジオ
ミルドレッドは居間の壁を埋める巨大な画面と、耳に入れる小さなラジオの中で暮らしています。研究者サム・ウェラーは、この作品が薄型テレビやイヤホン、24時間のATMまで予見していたと書いています。1953年の作品だと意識しながら、身の回りの道具と見比べて読むのも一つの楽しみ方です。
隊長が語る、本が消えた理由
第一部で、隊長ビーティーはモンターグに、本がどのように価値を失っていったかを語ります。そこでは、本を消したのは政府の命令ではなく、速い娯楽を好む人々自身だったと説明されます。検閲だけの話ではないことがわかる、物語の鍵になる場面です。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
三部構成で読み進める
物語は「炉床と火トカゲ」「ふるいと砂」「火はあかるく燃えて」の三部に分かれています。第一部で社会の仕組みとモンターグの迷いが示され、第二部から彼が本を読もうと動き出します。一部ずつを一区切りにすると流れがつかみやすくなります。
言葉を重ねた文章
ブラッドベリの文章は言葉数が多く、刊行当時も言葉の奔流に頼りすぎだという批判がありました。一文ずつ意味を取ろうとせず、場面の情景をつかむつもりで流して読むと先へ進めます。
呼び名が訳で違う
原文の「fireman」は本来「消防士」のことで、日本語訳では「昇火士」「焚書官」などさまざまに訳されています。隊長も「ビーティー」「ベイティー」、元教授も「フェイバー」「ファーバー」と訳によって表記が違うので、同じ人物だと思って読めば迷いません。
焚書と赤狩りの時代に書かれた物語
ブラッドベリは15歳のとき、ナチス・ドイツが街頭で本を焼いたことに強い恐怖を覚えたと語っています。執筆当時のアメリカは赤狩りの時代で、1947年にはハリウッドの共産主義の影響を調べる公聴会が開かれていました。夜の散歩中に警官に呼び止められた体験から生まれた短編「歩行者」も、この小説のもとになっています。
前身となる中編「ファイアマン」は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の図書館の地下で書かれました。ブラッドベリは30分10セントで貸し出されるタイプライターを使い、9日間で初稿を仕上げています。大学に進めなかった彼は、ロサンゼルスの公共図書館に通って独学した人でもありました。
本を焼く物語が受けた検閲
刊行の翌年には、アメリカ芸術文学アカデミーの文学賞を受けています。批評家グロフ・コンクリンは、過去10年以上の英語の想像力の作品の中でも偉大なものの一つと評しました。一方でニューヨーク・タイムズは、ラジオやテレビ、スポーツまで嫌う作者の姿勢を冷ややかに批判しています。
皮肉なことに、この作品自体も検閲を受けてきました。出版社は1967年から高校生向けの版で75か所の文章をこっそり書き換え、ブラッドベリが気づいて抗議したのは1979年のことです。自らを「未来を予測する者ではなく、未来を防ぐ者」と呼んだ彼の言葉どおり、この作品は警告の書として読まれ続けています。1966年にはフランソワ・トリュフォー監督が映画にしました。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
モンターグは一年前から本を集めて家に隠していたことを妻に打ち明け、元教授フェイバーの助けを借りて本を理解しようとします。しかしミルドレッドとその友人たちの密告で、出動先は自分の家になりました。隊長ビーティーに家を焼くよう命じられたモンターグは、火炎放射器でビーティーを焼き殺し、機械の猟犬に追われながら川に飛び込んで街を逃れます。
たどり着いた郊外には、本を一冊ずつ暗記して守り続ける知識人たちが暮らしていました。モンターグも、覚えていた『伝道の書』の一節を自分の役目として受け入れます。その直後、爆撃機が街を核攻撃し、戦争は一夜で始まって終わります。生き延びた人々は、文明を立て直すために廃墟となった街へ戻っていきます。
よくある疑問
- タイトルの「華氏451度」とは?
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本の紙が燃え始める温度で、摂氏ではおよそ233度です。ブラッドベリが問い合わせて教わった数字で、実際の紙の発火点は種類によって違うことがわかっています。
- 『華氏451度』は何を描いた作品?
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本が焼かれる社会を描いた作品で、検閲への警告として読まれてきました。ただしブラッドベリ自身は、テレビのようなメディアが文学を読む関心を失わせることを描いた作品だと述べています。
- 物語の舞台はいつ?
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はっきりした年や都市は示されていませんが、遠い未来の出来事として描かれています。初期の版には2022年に起きた核戦争への言及があり、それ以降の時代とわかります。
- どのくらいの長さ?
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三部構成の小説です。もとは1951年に雑誌に載った中編「ファイアマン」で、出版社の勧めでおよそ倍の長さに書き広げられました。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
