日はまた昇る

日はまた昇るヘミングウェイ
原題
The Sun Also Rises
発表
1926年
初出
1926年10月にスクリブナー社から単行本として刊行。翌年ロンドンでは『フィエスタ』の題で出版
形式・長さ
小説・長編
手ごわさ
ふつう

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ひとことで言うと

戦争で傷を負ったアメリカ人記者ジェイクと、彼が愛する奔放なイギリス人女性ブレットを中心に、パリに暮らす若者たちがスペインのパンプローナの祭りへ出かける物語です。牛追いと闘牛に沸く一週間のなかで、ブレットをめぐる男たちの緊張が高まっていきます。

こんな人に

  • 旅先で仲間との関係がこじれていく話に惹かれる人に
  • 気持ちを説明しない、会話の多い小説を読んでみたい人に
  • 手の届かない相手を思い続けた経験がある人に

あらすじ(ネタバレなし)

1920年代半ばのパリ。アメリカ人の新聞特派員ジェイク・バーンズは、国外で暮らす若者たちとカフェやナイトクラブを渡り歩く日々を送っています。仲間の一人ロバート・コーンは、大学時代にボクシングの王者だったアメリカ人です。

ジェイクはイギリス人女性のブレット・アシュリーを愛しており、ブレットもジェイクを愛しています。けれどもジェイクは戦争で負った傷のために性的に不能で、二人は結ばれることがありません。ブレットには婚約者のマイクがいながら、ほかの男たちとも恋を重ねています。

7月、ジェイクは友人のビルとスペインへ向かい、山あいの川で釣りを楽しんだあと、パンプローナのサン・フェルミン祭で仲間と合流します。そこにはブレットとマイク、そしてブレットに執着するコーンも集まっていました。酒に浸りながら祭りに沸く一行の前に、19歳の闘牛士ペドロ・ロメロが現れます。

主な登場人物

ジェイク・バーンズ
語り手の「ぼく」。パリで働くアメリカ人の新聞特派員。戦争の傷を抱え、ブレットを愛している。
ブレット・アシュリー
イギリス人女性。二度の離婚歴があり、短い髪で恋多き生き方をする。戦争で恋人を失っている。
ロバート・コーン
プリンストン大学でボクシングのミドル級王者だったアメリカ人。作中ではよく姓で「コーン」と呼ばれる。
マイク・キャンベル
ブレットの婚約者のスコットランド人。破産した退役軍人で、酒癖が悪く浪費家。
ビル・ゴートン
ニューヨークから来たアメリカ人の作家で、ジェイクの友人。スペインで一緒に釣りに行く。
ペドロ・ロメロ
19歳のスペイン人闘牛士。名前は18世紀に実在した名闘牛士から取られている。
モントーヤ
パンプローナでジェイクが定宿にしている宿の主人。大の闘牛好き。

見どころ・おもしろいところ

  1. パンプローナの祭りと闘牛

    物語の山場は、パンプローナのサン・フェルミン祭です。一行は酒を飲み、牛追いを見物し、闘牛場へ通いながら言い争いを重ねます。闘牛の場面は、伝記作家ジェイムズ・メロウがニュース映画のような鮮明さと評したほど、くっきりと描かれています。

  2. 川での釣りの静かな幕あい

    祭りの前、ジェイクとビルはピレネーの山あいの川で5日間の釣りをします。批評家ハロルド・ブルームは、この場面をパリとパンプローナの間の幕あいとして読んでいます。静かな自然の場面が、祭りの熱狂を引き立てます。

  3. 説明しない会話の文体

    ヘミングウェイは人物の気持ちをほとんど説明せず、短い文と会話で場面を進めます。詩人のコンラッド・エイケンは書評で、これ以上の会話がいま書けるとは思えないと述べました。何気ないやりとりの下に何が沈んでいるかを探しながら読むと、場面の緊張が伝わってきます。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

三部構成で舞台が変わる

小説は三つの部に分かれています。第一部はパリ、第二部はスペインへの旅と祭り、第三部は祭りのあとです。部の区切りを意識すると流れを見失いません。

始まりにはっきりした事件がない

ヘミングウェイはフィッツジェラルドの助言を受け、冒頭の30ページを丸ごと削りました。そのためはっきりした出発点のないまま物語が始まります。第一部は人物紹介と考え、スペインへ向かうまで気楽に読み進めると楽です。

気持ちは会話の裏にある

登場人物は自分の本心をめったに口にせず、作者もそれを説明しません。誰が何を言わずにいるかに注目すると、軽い会話の奥にある嫉妬やいらだちが見えてきます。

1925年の夏、パンプローナで

1920年代のヘミングウェイは、トロントの新聞の特派員としてパリに住んでいました。1923年に初めてパンプローナのサン・フェルミン祭を訪れて闘牛に魅了され、翌年も友人たちと出かけています。1925年7月の三度目の訪問には、のちに作中人物のモデルとなる仲間たちが同行しました。

祭りのあいだに一行の関係はすぐに崩れ、ヘミングウェイとハロルド・ローブは人前で殴り合いになりました。闘牛についてのノンフィクションを書くつもりだったヘミングウェイは、この一週間で小説の材料は十分だと考えます。祭りが終わって数日後、7月21日の自分の誕生日に執筆を始めました。

仮の題は『フィエスタ』で、9月に草稿を書き上げたあと『失われた世代』に改めています。最終的な題は、シャルトル大聖堂を訪れた際に思いついたとされます。本は1926年10月に初版5,090部で刊行されました。

若者の熱狂と賛否の評価

刊行から2か月で7,000部が売れ、最初の長編としては大きな成功を収めました。批評家マルカム・カウリーによれば、女子学生はブレットの装いをまね、若い男たちは主人公のような抑えたタフな話し方をまねようとしました。一方で、人物が浅く退屈だとする書評もありました。

のちには、ロバート・コーンの描き方が反ユダヤ主義的だと批判されてきました。それでも、飾りを削った文体は20世紀アメリカの文章の手本の一つとなり、伝記作家ジェフリー・マイヤーズはこの作品をヘミングウェイの最高傑作と書いています。パンプローナの牛追いが広く知られるきっかけにもなり、映画には1957年と1984年の二度なりました。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

祭りのあいだ、ジェイクはブレットをロメロに引き合わせ、ブレットはロメロを誘惑します。嫉妬が高まるなか、元ボクサーのコーンはジェイクとマイクを殴り、さらにロメロを打ちのめします。それでもロメロは闘牛場で見事な技を見せました。祭りの最終日、ブレットはロメロとともにマドリードへ去ります。

祭りが終わると一行は散り、ジェイクは一人でサン・セバスティアンへ向かいます。そこへブレットから助けを求める電報が届きます。マドリードの安ホテルで再会した彼女は金もなく、ロメロとも別れていました。ブレットはマイクのもとへ戻ると告げ、物語は、タクシーの中で二人がありえたかもしれない関係を語り合う場面で終わります。

よくある疑問

『日はまた昇る』はどんな話?

パリに暮らすアメリカ人とイギリス人の若者たちが、スペインの祭りへ出かけて互いの関係をこじらせていく話です。中心にあるのは、戦争の傷を負った語り手ジェイクと、彼が愛するブレットの結ばれない関係です。

『日はまた昇る』は実話がもとになっている?

1925年にヘミングウェイが仲間とパンプローナの祭りを訪れたときの出来事がもとになっています。ジェイクはヘミングウェイ自身、ブレットはダフ・トゥイズデン、コーンは小説家ハロルド・ローブがモデルです。

タイトルの意味は?

題は旧約聖書の「伝道の書」の一節から取られています。「また昇る」は「再び昇る」ではなく、「沈むだけでなく昇りもする」という意味です。ヘミングウェイは編集者に、この本は世代が失われた話というより、大地は永遠に変わらないことを書いたものだと伝えています。

「失われた世代」とは?

第一次世界大戦のあとに青春を送った世代を指す言葉で、作家ガートルード・スタインが言い出したものです。この作品は冒頭の題辞の一つでこの言葉に触れています。ヘミングウェイ自身は、登場人物たちは打ちのめされてはいても失われてはいないと考えていました。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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