- 原題
- The Scarlet Letter
- 発表
- 1850年
- 初出
- 1850年春、ボストンのティックナー・アンド・フィールズ社から刊行
- 形式・長さ
- 小説・長編
- 手ごわさ
- ふつう
17世紀、清教徒の町ボストン。夫のいない間に子を産んだヘスターは、姦通の罪のしるしとして、胸に赤い「A」の文字をつけて生きることを命じられます。彼女は子の父親の名を明かさないまま、娘と二人で町はずれに暮らしはじめます。罪と赦しをめぐる長編です。
こんな人に
- 周りから責められても、自分の尊厳を手放さない人の話を読みたい人に
- 誰にも言えない罪の意識が、人をどう変えるかに関心がある人に
- 閉ざされた共同体を舞台にした、重い空気の物語が好きな人に
あらすじ(ネタバレなし)
1640年代、清教徒が治めるマサチューセッツ湾植民地のボストン。若い女性ヘスター・プリンは、父親のわからない赤ん坊を抱いて、さらし台の上に立たされています。罰として彼女は3時間人々の前にさらされ、姦通を表す緋色の「A」を一生胸につけることになりました。父親の名を言えと迫られても、ヘスターは口を閉ざしたままです。
群衆を見渡したヘスターは、その中に、海で行方不明になったと思われていた夫の姿を見つけます。夫は自分の身元を隠してロジャー・チリングワースという医師になりすまし、子の父親を必ず突き止めると誓います。そしてヘスターに、自分が夫だと誰にも明かさないよう約束させます。
牢を出たヘスターは、町はずれの小屋で娘パールを育てながら、見事な針仕事で細々と暮らします。人々に避けられながらも、彼女は貧しい人々に施しを続けます。一方、パールは成長するにつれて気まぐれで手に負えない子になり、教会の人々は彼女をヘスターから引き離そうと言い出します。
主な登場人物
- ヘスター・プリン
- 主人公。夫より先に新大陸に渡った若い女性。胸に緋色の「A」をつけて暮らす。
- パール
- ヘスターの娘。母の胸の「A」に不思議なほど興味を示す、気まぐれな子。
- チリングワース
- ロジャー・チリングワース。ヘスターの夫が名乗る偽名。医師として町に住みつく。
- ディムスデール
- アーサー・ディムスデール。ヘスターの教会の若い牧師。町の人々に深く敬愛されている。
- ウィルソン牧師
- ジョン・ウィルソン。ボストンの牧師。さらし台のヘスターを問いただす。
- ベリンガム総督
- 植民地の総督。パールをヘスターから引き離すかどうかの話し合いに加わる。
見どころ・おもしろいところ
序章「税関」の仕掛け
本編の前に、語り手が税関の倉庫でヘスターについての古い記録と、赤い布の「A」の文字を見つける序章があります。語り手はその布に触れたとき、焼けるような熱さを感じたと語ります。作り話を、本当にあった記録のように差し出す入り口です。
三度現れるさらし台
ヘスターが罰を受けたさらし台は、物語の中で三度にわたって重要な場面の舞台になります。それぞれが物語の初め・中ほど・終わりを区切る役目を果たしています。二度目、三度目にこの場所が出てきたら、誰がそこに立つのかに注目してください。
意味を変えていく「A」
初めは罪のしるしだった胸の「A」は、ヘスターが人々を助け続けるうちに、見る人によって違う意味を帯びていきます。中には「Able(有能な)」の頭文字だと言う人も出てきます。一つの文字の受け取られ方の変化が、彼女の生き方を映しています。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
序章は後回しにしてもよい
冒頭の「税関」は、本編の前に置かれた長い序章で、ヘスターはまだ登場しません。作者自身の税関勤めの体験がもとになっています。筋を早く追いたいなら本編から読み始め、あとで序章に戻っても話はわかります。
清教徒の町を知っておく
舞台は1642年から1649年のボストンで、総督ベリンガムなど実在の人物も登場します。罪を厳しく裁き、それを公にさらすのが当然とされた社会です。その空気を知っておくと、人々の冷たさや登場人物の苦しみが理解しやすくなります。
心理描写に付き合う
大きな事件は少なく、登場人物の心の動きが細かな心理描写で積み重ねられます。展開が遅く感じたら、三度のさらし台の場面を目印にして、その間で人の心がどう変わったかを追うと読み進めやすくなります。
税関を去った作家の代表作
ホーソーンは実際にマサチューセッツ州セイラムの税関で数年間働き、政権が変わったことで職を失いました。この体験が序章「税関」のもとになっています。原稿はセイラムの家で書かれ、1850年2月に最後の原稿を渡したとき、ホーソーンは売れるかどうか疑っていたといいます。
ところが1850年春に刊行されると、たちまちベストセラーになりました。機械で印刷された初めての2,500部は10日で売り切れています。ただし序章の書き方にセイラムの人々が強く反発し、作者は第2版の序文で、悪意はなかったと書き添えました。
アメリカ文学の古典として
当時、多くの批評家が作品を称えましたが、宗教界からは道徳的に問題があるという批判も出ました。イギリスの作家ジョージ・エリオットは、本作をアメリカ文学で最も独自で見事な作品の一つに挙げています。
20世紀には、D・H・ロレンスがアメリカ人の想像力が生んだ完璧な作品だと評しました。「偉大なアメリカ小説」の一つに数えられることも多く、舞台、オペラ、映画に繰り返し翻案されてきました。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
ディムスデールの健康が衰えると、チリングワースは医師として彼と同じ家に住み、彼こそパールの父ではないかと疑って心理的に追い詰めていきます。罪の意識に苦しむディムスデールは、真夜中にさらし台に立ちますが、昼の光の中で告白する勇気は持てません。森で再会したヘスターは、夫の正体を明かし、二人でヨーロッパへ逃れようと持ちかけます。
しかし選挙日の祝祭の日、見事な説教を終えたディムスデールはさらし台に上って罪を告白し、ヘスターの腕の中で息絶えます。復讐の相手を失ったチリングワースも1年もたたずに死に、パールに多くの遺産を残します。ヘスターはパールとヨーロッパへ渡りますが、数年後に一人で戻り、再び「A」をつけて暮らし、死後はディムスデールの墓の近くに葬られます。
よくある疑問
- 『緋文字』はどんな話?
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17世紀のボストンで、姦通の罪のしるしに赤い「A」をつけられた女性ヘスターが、子の父親の名を明かさずに娘と生きていく話です。罪や罰、赦しが大きな主題になっています。
- 「A」は何の意味?
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姦通(adultery)の頭文字です。ただし物語が進むにつれ、ヘスターの献身的な姿から、有能(able)のAだと受け取る人も出てきます。
- 実在の人物や場所は出てくる?
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舞台のボストンは実在の町で、ベリンガム総督や魔女として処刑されたアン・ヒビンズなど、歴史上の人物が登場します。作中に出てくるキングス・チャペル墓地も実在します。
- 映画になっている?
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何度も映画化されています。1926年にはリリアン・ギッシュ主演で、1995年にはデミ・ムーア主演で映画になりました。1973年にはヴィム・ヴェンダースも監督しています。
