- 原題
- The Door into Summer
- 発表
- 1956年(雑誌連載)、1957年(単行本)
- 初出
- 『ファンタジー・アンド・サイエンス・フィクション』誌の1956年10月号から12月号に連載
- 形式・長さ
- 小説・長編
- 手ごわさ
- すぐ読める
- 書棚
- SF・幻想文学
親友と婚約者に裏切られ、自分で作った会社も発明も奪われた技術者が、愛猫とともに失ったものを取り戻そうとする物語です。冷凍睡眠とタイムマシンを組み合わせて1970年と2000年を行き来する筋立てを、希望に満ちた明るい調子で描いた時間旅行SFの古典です。
こんな人に
- ひどい目にあった主人公が、知恵で巻き返す話が好きな人に
- 猫と暮らしている人、猫の気まぐれに付き合ってきた人に
- 時間旅行ものの、伏線がきれいにはまる感覚を味わいたい人に
あらすじ(ネタバレなし)
1970年、技術者のダン・デイヴィスは酒に溺れていました。彼は親友マイルズと二人で会社を興し、自分の発明した家事用ロボットで成功を収めましたが、経営をめぐってマイルズと対立します。そして婚約者ベルの裏切りによって株主総会で負け、会社から追い出されてしまったのです。
いま信頼できるのは、愛猫のピートと、マイルズの義理の娘で11歳のリッキィだけです。ピートは冬になると、家にあるどれかの扉が夏に通じていると信じて、人間用の扉を全部開けさせる猫でした。
心の中まで冬になったダンの目に、冷凍睡眠の保険の広告が飛び込んできます。眠っている間に財産を増やし、30年後の未来で目覚めることができるというのです。ダンはピートと一緒に眠りにつく契約を結びます。けれども、このまま逃げ出すのではなく戦おうと思い直し、マイルズの家へ車を走らせます。
主な登場人物
- ダン(ダニエル・ブーン・デイヴィス)
- 主人公の発明家。独立心が強く、人に従うことを嫌う。
- ピート
- ダンの愛猫。正式な名はペトロニウスで、どこへでもダンと一緒に行く。
- マイルズ・ジェントリイ
- ダンの軍隊時代からの親友で、会社の経営を担当していた。
- ベル(ベリンダ・ダーキン)
- ダンの会社に雇われた有能な秘書。ダンと婚約するが、彼を裏切る。
- リッキィ
- マイルズの義理の娘。ダンとピートになついていて、ベルを嫌っている。
見どころ・おもしろいところ
夏への扉を探す猫
ピートは雪が積もると、家にある11の人間用の扉を一つずつダンに開けさせ、どれかが夏に通じていると信じています。題名は、この猫の扉探しから取られています。つらい冬を抜け出したいダンの気持ちが、猫の姿に重ねられているところが読みどころです。
1956年に描いた2000年
書かれたのは1956年で、物語の舞台は14年後の1970年と、44年後の2000年です。ダンが考える発明品について、坂村健は事務の機械化や設計の自動化まで予測していると評しました。人の形にこだわらない現実的なロボットが登場するのも、当時としては新しい描き方でした。
あとから意味がわかる出来事
2000年に目覚めたダンは、自分の名前がついた身に覚えのない特許など、不思議な出来事に次々と出会います。それらの謎が後半で一つずつつながっていく流れは、パズルが解けていくような気持ちよさがあります。気になった出来事は覚えておくと、後半がいっそう楽しめます。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
冒頭は事件のあとから始まる
物語は、会社を奪われたダンが酒浸りになっている場面から始まり、そこに至るまでの経緯はあとから振り返られます。冒頭で状況がわかりにくくても、少し読み進めれば事情が見えてきます。
作中の用語を押さえる
冷凍睡眠は、体を冷やして何年も眠り、未来で目覚める技術です。作中では保険会社が商品として売っています。この世界では過去に「六週間戦争」という核戦争があったことになっていて、その影響が時代の背景として出てきます。
時代の古さが見える所
1950年代の作品なので、女性の描き方や、核兵器の被害をあまり深刻に受け止めない感覚など、古さを感じる部分があります。大人のダンと少女リッキィの関係にも、批評家たちが指摘してきた危うさがあります。書かれた時代を意識しながら読むと、引っかかりを整理しやすくなります。
雪の日の猫から生まれた物語
着想のもとは、ハインラインがコロラドで暮らしていたころの出来事です。雪の日、外に出たがる飼い猫のためにいくつ扉を開けても、猫は鳴くばかりで出ていきませんでした。妻ジニーの一言を聞いた彼は、考える時間も含めて13日間でこの小説を書き上げたと語っています。
ハインラインには、時間旅行の逆説を使った短編がほかにもあります。この作品の世界は、ワシントンが壊滅して首都がデンバーに移った核戦争のあとの未来という設定です。リッキィは、妻ヴァージニアをモデルにしていると考えられています。
日本で愛された時間旅行SF
刊行当時の評価は分かれました。批評家ジェイムズ・ブリッシュは主人公の人物像が弱いと批判し、のちに伝記を書いたアレクセイ・パンシンは、通俗的だがとても楽しい良い物語だと評しています。アメリカのローカス誌の読者投票でも、歴代SF長編の上位に何度か選ばれました。
とりわけ日本での人気は高く、S-Fマガジンの海外長編のオールタイム・ベストでは1989年と1998年に1位、2014年にも9位に入っています。山下達郎が作曲した同名の歌が生まれ、1995年にはNHK-FMでラジオドラマにもなりました。劇団による舞台化も行われています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
マイルズの家でベルに薬を打たれたダンは、言いなりのまま冷凍睡眠に送られ、2000年に一文無しで目覚めます。ピートは行方知れずになっていました。働きながら新しい時代を学ぶうち、ダンは自分が思い描いていただけの製図機が、「D・B・デイヴィス」の名で特許を取られていることを知ります。
ダンは物理学者トウィッチェルのタイムマシンで1970年に戻り、サットン夫妻の助けを借りて製図機と万能ロボットを完成させ、新しい会社を託します。そして奪われた試作品とピートを取り戻し、リッキィに21歳になったら冷凍睡眠で来てほしいと告げて、ふたたび眠りにつきます。2001年に目覚めたダンは、同じく目覚めたリッキィと結婚し、夏への扉を見つけたと感じるのでした。
よくある疑問
- 『夏への扉』はどんな話?
-
裏切られて会社を失った発明家が、冷凍睡眠とタイムマシンを使って1970年と2000年を行き来し、失ったものを取り戻していく話です。愛猫ピートがいつもそばにいます。
- タイトルの意味は?
-
冬になると、どれかの扉が夏に通じていると信じて扉を開けさせる猫ピートの行動から来ています。ハインラインの飼い猫が雪の日に扉を開けても外へ出なかったとき、妻が「夏への扉を探している」と言ったことが着想のきっかけでした。
- 日本で特に人気があるって本当?
-
本当です。S-Fマガジンが行った海外長編SFのオールタイム・ベストの投票で、1989年と1998年に1位になっています。1998年の投票では、20代以下の読者でも1位でした。
- どのくらいの長さ?
-
長編小説で、雑誌では1956年10月号から12月号まで3回に分けて連載されました。ハインラインはこの作品を13日間で書き上げたと語っています。
