黒猫

黒猫ポー
原題
The Black Cat
発表
1843年
初出
『サタデー・イヴニング・ポスト』1843年8月19日号(当時は一時的に『ユナイテッド・ステイツ・サタデー・ポスト』と名乗っていた)
形式・長さ
小説・短編
手ごわさ
すぐ読める

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ひとことで言うと

動物好きだった男が酒に溺れ、かわいがっていた黒猫を傷つけてしまいます。やがてそっくりな二匹目の黒猫が現れ、男は少しずつ追い詰められていきます。名前のない「私」の告白として語られる、ポーの代表的な恐怖短編です。

こんな人に

  • 自分でも説明できない衝動に覚えがある人に
  • 短い時間でぞっとする話を読みたい人に
  • 語り手の言葉をどこまで信じていいか迷う話が好きな人に

あらすじ(ネタバレなし)

語り手の「私」は、子どものころから動物が好きな男です。若くして結婚した妻も動物好きで、二人は小鳥や金魚、犬やウサギなどを飼っています。なかでもプルートーという名の黒猫は美しく、私によくなついていました。

ところが、私はしだいに酒に溺れ、機嫌の悪さから動物たちを虐待するようになります。ある晩、猫に避けられていると感じた私は、プルートーを捕まえて片目をえぐり取ってしまいます。後悔はしたものの苛立ちは収まらず、さらに残酷な行いに及んだその夜、屋敷が火事で焼け落ちます。

良心のとがめを感じた私は、プルートーに似た猫を探すようになります。ある日、酒場の樽の上にそっくりな黒猫を見つけ、家に連れて帰りますが、その猫を見るうちに奇妙な嫌悪が湧いてきます。

主な登場人物

私
語り手。名前は出てこない。処刑を待つ身で、自分の身に起きたことを書き残している。
妻
私の妻。夫と同じく動物好きで、黒猫はみな魔女の化身だという言い伝えを口にする。
プルートー
私がかわいがっていた黒猫。名前はローマ神話の冥界の神に由来する。
二匹目の黒猫
酒場で見つけた猫。プルートーにそっくりだが、胸に大きな白い斑がある。

見どころ・おもしろいところ

  1. 信用できない語り手

    語り手は冒頭で、この話を信じてもらえるとは思っていないと述べます。英語版Wikipediaは、彼を正気かどうか疑わしい語り手として紹介しています。語られる出来事のどこまでが本当なのかを考えながら読むと、怖さが増します。

  2. 理由のない悪への衝動

    語り手は、してはいけないと分かっているからこそしてしまう心の動きを語ります。日本語版Wikipediaは、この天邪鬼の心理を同じポーの短編「天邪鬼」と共通する主題として挙げています。悪事の理由を説明できない男の告白として読むと、ただの怪談とは違う手ざわりが残ります。

  3. 焼け残った壁と白い斑

    火事のあとの壁、二匹目の猫の胸の白い斑など、目に見える印が少しずつ形を変えていきます。猫の名前が冥界の神から取られていることも含めて、細部に不吉な意味が重ねられています。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

前置きの語りが長く感じる

最初の数段落は、語り手が自分の性格や動物好きを説明する部分です。ここにはのちの出来事の伏線が含まれているので、急がずに読むと後半の怖さが効いてきます。

残酷な場面がある

動物を傷つける場面が、語り手の口から直接語られます。短い作品なので、一度に通して読み切ると、つらい場面で止まらずに物語の流れをつかめます。

週刊紙に載った告白体の怪談

「黒猫」は1843年8月19日に『サタデー・イヴニング・ポスト』に掲載されました。このとき同紙は、一時的に『ユナイテッド・ステイツ・サタデー・ポスト』という名前を使っていました。同じ年のうちに、ほかの新聞にも転載されています。

ポー自身も黒猫を飼っていて、別の文章で黒猫と魔女の言い伝えに触れています。英語版Wikipediaによれば、この作品はポーの作品の中で最も強く飲酒の害を訴えたものとされます。酒が語り手の人格を壊していく過程が、物語の土台になっています。

パロディから映画、日本語訳まで

発表当時から読者の評判はよく、同時代の作家トマス・ダン・イングリッシュによるパロディも書かれました。映画化も多く、1934年にはベラ・ルゴシとボリス・カーロフ主演の作品が作られましたが、原作とはあまり似ていません。原作に最も忠実とされるのは、ロジャー・コーマン監督のオムニバス映画『黒猫の怨霊』の第二話です。

日本では1887年(明治20年)に饗庭篁村が翻訳し、これが日本で最初に訳されたポーの作品になりました。明治のうちに複数の訳が出ており、1911年には平塚らいてうの訳が『青鞜』に載っています。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

二匹目の猫も、プルートーと同じく片目がないことがわかります。胸の白い斑はしだいに絞首台の形に見えてきて、私は猫に耐えられなくなります。ある日、斧で猫を殺そうとした私は、止めに入った妻に逆上し、妻を殺してしまいます。死体を地下室の壁に塗り込め、猫の姿も消えて、私は安心して眠れるようになります。

四日後、警察が家を調べに来ますが、何も見つかりません。得意になった私は、地下室の壁の頑丈さを自慢して、妻を塗り込めた壁を叩きます。すると壁の奥から異様な叫び声が響きます。警官たちが壁を崩すと、立ったままの妻の死体と、その頭の上に座ったあの黒猫が現れます。私は妻と一緒に猫まで塗り込めていたのでした。

よくある疑問

『黒猫』はどんな話?

酒に溺れた男が飼い猫を殺し、そっくりな二匹目の猫によって追い詰められていく話です。男自身の告白の形で語られる恐怖小説です。

どのくらいの長さ?

一度に読み切れる短編小説です。章分けはなく、語り手の告白が一続きに書かれています。

「告げ口心臓」と似ている?

よく並べて論じられます。どちらも犯罪を注意深く隠した語り手が、罪の意識に追い詰められていく話です。罪悪感の心理を描いた作品として扱われています。

黒猫の名前「プルートー」の意味は?

ローマ神話で冥界を治める神の名前です。作中では、妻が黒猫はみな魔女の化身だという言い伝えに触れる場面もあり、不吉なイメージが重ねられています。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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