吉原の遊郭の裏手の町で、子どもたちが大人になる手前の短い季節を過ごす物語です。遊女を姉に持つ勝ち気な少女・美登利と、寺の息子・信如の言葉にならない淡い思いを中心に、夏祭りから酉の市までの町の移ろいが描かれます。24歳で亡くなった一葉の名を一気に広めた作品です。
こんな人に
- 子どもから大人になる境目の、言葉にできない気持ちを覚えている人に
- 好きな相手ほど素直になれなかった経験がある人に
- 明治の下町の祭りや季節の風俗を味わいたい人に
あらすじ(ネタバレなし)
吉原の遊郭の裏手にある大音寺前の町。大黒屋の美登利は、吉原で人気の遊女を姉に持つ十四歳の少女です。勝ち気で気前がよく、たっぷりの小遣いで仲間にものを買ってやる美登利は、町の子どもたちの女王のような存在です。
一方、龍華寺の息子の信如は、おとなしく勉強のできる少年で、いずれは僧になる身です。二人は同じ学校に通っていますが、春の運動会で転んだ信如に、美登利が紅の絹ハンカチを差し出したことを仲間にはやしたてられ、それ以来、信如は美登利によそよそしくなります。
町の子どもたちは、鳶の頭の子・長吉の横町組と、金貸しの家の正太郎の表町組に分かれて張り合っています。夏祭りの夜、その対立がとうとう騒ぎになり、美登利は長吉からひどい言葉を浴びせられます。長吉の後ろに信如がついていると聞かされた美登利は、ますます信如に心を閉ざしていきます。
主な登場人物
- 美登利
- 大黒屋に住む十四歳の少女。紀州の生まれで、姉は吉原の遊女。表町組の子どもたちの中心。
- 藤本信如
- 龍華寺の息子で十五歳。おとなしく成績は学校一。いずれ僧になることが決まっている。
- 長吉
- 鳶の頭の息子で、横町組の大将。乱暴者で、表町組を目のかたきにしている。
- 田中屋の正太郎
- 祖母が金貸しを営む田中屋の子で、表町組の大将。長吉より三つ年下で、美登利を姉のように慕う。
- 三五郎
- 横町に住みながら表町組に加わっている少年。十三の年から働きに出ている。
見どころ・おもしろいところ
雨の日、切れた鼻緒の場面
ある雨の日、美登利の家の前で信如の下駄の鼻緒が切れます。互いに相手に気づきながら、一言も交わせない二人のもどかしさが、格子戸を挟んだ距離で描かれます。作品の中でもっともよく知られた場面です。
子どもたちの張り合い
横町組と表町組の争いは、子どもの遊びでありながら、大人の世界の力関係をそのまま写しています。金持ちの子と職人の子、遊郭に縁のある家とそうでない家の違いが、子どもたちの言葉の端々に出てきます。
季節とともに変わる町
物語は千束神社の夏祭りに始まり、秋を経て、大鳥神社の三の酉の市へと進みます。祭りの夜のにぎわいや霜の朝の静けさが、子どもたちの心の移り変わりと重ねて描かれています。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
冒頭の一文がとても長い
第一章の最初の一文は、句点まで千字を超えて続きます。吉原の裏町の暮らしぶりを語る長い前置きなので、すべてを理解しようとせず、町の雰囲気をつかむつもりで読み進めて大丈夫です。
会話にかぎかっこがない
本文には「」が一つもなく、会話も地の文に溶けこんでいます。誰の言葉かわかりにくいときは、少し前に戻って話し手を確かめると、文の切れ目が見えてきます。全十六章と短いので、迷ったら章の頭から読み直せます。
吉原近くで開いた店の日々
1893年、一葉は吉原に近い下谷龍泉寺町で、荒物と駄菓子の店を営んでいました。このころの暮らしで見聞きしたことが、『たけくらべ』の題材につながっていると考えられています。作中の龍華寺も、近くの大音寺がモデルだとされています。
翌年に本郷へ移った一葉は、1895年1月から『文学界』でこの作品の連載を始めます。原稿が集まらずに困った編集者の依頼を受け、書きためていた作品を改題して出したものでした。この時期から次々と名作を発表した一葉の仕事ぶりは、のちに「奇蹟の14ヶ月」と呼ばれています。
鴎外と露伴が激賞した一作
1896年4月、作品は『文芸倶楽部』に一括して掲載されました。森鴎外、幸田露伴、斎藤緑雨の三人が雑誌の匿名合評「三人冗語」で高く評価し、一葉の名は一気に知れ渡ります。
のちに鏑木清方が口絵や墨画で美登利を描き、1955年には五所平之助の監督、美空ひばりの主演で映画化されました。東京都台東区の一葉記念公園には、美登利と信如を詠んだ佐佐木信綱の歌碑が建っています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
雨の日、鼻緒の切れた信如に、美登利は格子の陰から紅入り友仙の端切れを投げてやります。けれども信如はそれを拾わず、通りかかった長吉の下駄を借りて去っていきます。
三の酉の市の日、美登利は髪を島田に結い、美しく着飾って現れます。しかし声をかけた正太郎を悲しげに拒み、それきり子どもたちと遊ばなくなってしまいます。ある霜の朝、大黒屋の格子門に誰かが水仙の造花を差し入れていきました。美登利はなぜか懐かしく思って一輪挿しに飾ります。その翌日は、信如が僧になる修業の学校に入る日でした。
よくある疑問
- 『たけくらべ』はどんな話?
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吉原の裏町に住む子どもたちの日々と、勝ち気な少女・美登利と寺の息子・信如の淡い思いを描いた話です。子どもが大人の世界へ移っていく境目の季節がとらえられています。
- タイトルの意味は?
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『伊勢物語』第23段の、幼なじみの男女が井戸の囲いで背比べをした子ども時代を懐かしむ話にちなんでいます。「たけくらべ」は背比べのことです。
- どのくらいの長さ?
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全十六章の短編小説です。ただし文語で一文が長く書かれているため、同じ長さの現代の小説より読むのに時間がかかります。
- 『たけくらべ』は無料で読める?
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著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。新字旧仮名と旧字旧仮名の版が公開されています。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
