檸檬

檸檬梶井基次郎
発表
1925年(大正14年)
初出
同人誌『青空』創刊号の巻頭に掲載
形式・長さ
小説・短編
手ごわさ
すぐ読める
えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。
書き出し

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ひとことで言うと

得体の知れない憂鬱を抱えて京都の街をさまよう「私」が、果物屋で一個のレモンを買い、その色と重さに心を救われる話です。筋らしい筋はなく、鬱屈した心と鮮やかな色彩だけで組み立てられた五千字ほどの短編ですが、梶井基次郎の代表作とされています。

こんな人に

  • 理由のわからない憂鬱に覆われた日を知っている人に
  • 小さな物ひとつで気分が変わった経験がある人に
  • 物語の筋より、色や手ざわりの描写を味わいたい人に

あらすじ(ネタバレなし)

「私」の心は、えたいの知れない不吉な塊に始終押さえつけられています。肺の病や神経衰弱、借金のせいばかりではありません。以前は好きだった美しい音楽や詩にも耐えられなくなり、「私」は京都の街から街へとさまよい続けています。

そのころの「私」は、壊れかかった街並みや裏通り、安っぽい花火や色ガラスのおはじきのような、みすぼらしくて美しいものに強くひかれていました。かつて好きだった洋書や香水の並ぶ丸善も、借金に追われる身には重苦しい場所になっています。

友人の下宿を転々とするある朝、街をさまよっていた「私」は、寺町の果物屋の前で足をとめます。そこには珍しく、「私」の好きなレモンが並んでいました。「私」はレモンを一つ買い、その冷たさと重さを手に感じながら、久しぶりに幸福な気分で街を歩きはじめます。

主な登場人物

私
語り手。肺を病み借金を抱え、えたいの知れない憂鬱に苦しみ、京都の街をさまよう青年。
友達
「私」が下宿を転々と泊まり歩いている友人たち。作中には名前も姿もほとんど出ない。
寺町の果物屋
「私」が以前から気に入っている店。ここでレモンを見つけることが物語の転機になる。

見どころ・おもしろいところ

  1. 一個のレモンの存在感

    「私」は買ったレモンの色や形、冷たさ、重さを、何度も確かめるように味わいます。たった一個の果物が心の重さを軽くするまでの感覚の動きが、細かく書きとめられています。

  2. 色と形で描かれる憂鬱

    この作品は、主人公の境遇や性格をほとんど説明せず、目に見え手に触れる感覚の世界だけを描いています。気分を言葉で説明する代わりに、街の風景や物の色で心の状態を伝えるのが梶井の書き方です。

  3. モデルの店がある京都の街

    「私」が歩くのは寺町や京極といった京都の繁華街で、果物屋と丸善には実在した店のモデルがあります。地図をたどりながら読むと、大正の京都を歩く学生の足どりが見えてきます。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

何かが起きるのを待たない

前半は「私」の心の状態と、好きなもの嫌いなものの話が続き、レモンが出てくるのは半ばを過ぎてからです。何かが起きるのを待つより、一つ一つの物の描写を楽しむつもりで読むと入りやすくなります。

短いので声に出して読む

五千字ほどの短い作品なので、一度に通して読める長さです。詩のように音の流れが整った文章なので、声に出して読むと情景がくっきりと浮かびます。

京都の学生時代の鬱屈から

梶井は第三高等学校の学生として京都に下宿していました。そのころの鬱屈した心理を背景に、1924年に書かれた習作『瀬山の話』の中の挿話を何度も書き直して、独立した短編『檸檬』が生まれました。

さらに2年前の1922年には、一個のレモンに心を慰められる内容の文語詩の草稿を日記に書きつけています。『檸檬』は1925年1月、中谷孝雄や外村繁らと始めた同人誌『青空』の創刊号の巻頭を飾りました。梶井自身は友人への手紙で、当時あまり発表に乗り気でなかったと書いています。

6年後に見いだされた名作

発表当初、この作品はほとんど注目されませんでした。1931年、病の重い梶井のために友人の三好達治らが奔走して創作集『檸檬』を出し、それが梶井の生涯で唯一の本になります。その後、井上良雄や小林秀雄が本格的に論じたことで、梶井は文壇に認められました。

三島由紀夫はこの作品を日本の短編の最高のものとし、鮮やかな感覚の印象を残して終わる作品だと評しています。英語、フランス語、ドイツ語、中国語などにも翻訳されています。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

レモンを持った「私」は、久しぶりに丸善に入ります。けれども憂鬱がまた立ちこめ、画集を棚から出しては眺めるうちに、積み上げた画集の山を前にぼんやりしてしまいます。そこで「私」はレモンを思い出し、画集の山の上に置いてみます。レモンの黄色は、ごちゃごちゃした本の色をひっそり吸いこんで冴えかえりました。

「私」はそれをそのままにして、何食わぬ顔で店を出ることを思いつきます。レモンを丸善の棚に仕掛けた爆弾に見立て、十分後には丸善が大爆発するのだと想像しながら、「私」は京極の通りを下っていきます。

よくある疑問

『檸檬』はどんな話?

憂鬱を抱えて京都の街をさまよう青年が、一個のレモンを手にして心を慰められる話です。筋よりも、色や感覚の描写で心の動きを描いた作品です。

モデルの店はある?

レモンを買った果物屋は、京都の寺町二条角にあった八百卯がモデルとされています。登場する丸善は当時、三条通麩屋町西入ルにあった店舗です。

どのくらいの長さ?

五千字ほどの短編小説です。1931年に刊行された梶井の創作集『檸檬』では、巻頭に収められました。

『檸檬』は無料で読める?

著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。新字新仮名の版が公開されています。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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