- 原題
- Moby-Dick
- 発表
- 1851年
- 初出
- 1851年10月にロンドンで『The Whale』の題で全3巻、11月にニューヨークで『Moby-Dick; or, The Whale』の題で1巻本として刊行
- 形式・長さ
- 小説・大長編
- 手ごわさ
- 手ごわい
白い巨大なマッコウクジラに片脚を奪われた船長エイハブが、捕鯨船ピークオッド号を率いて復讐の航海に出ます。語り手は初めて捕鯨船に乗る若者イシュメールで、物語の合間に鯨と捕鯨についての解説の章が数多く挟まる、型破りな大長編です。
こんな人に
- ひとつのことに取りつかれた人間の行く末を見届けたい人に
- 寄り道の多い長い本をじっくり味わうのが好きな人に
- 海や船、鯨そのものに興味がある人に
あらすじ(ネタバレなし)
19世紀、アメリカが世界の海で盛んに捕鯨をしていた時代。「わたし」と名乗る若者イシュメールは、捕鯨船に乗ろうとニューイングランドの港町へやって来ます。混み合った宿で、全身に入れ墨をした南太平洋出身の銛打ちクイークェグと同じベッドで眠ることになり、二人はすぐに打ち解けます。
二人は捕鯨の基地ナンタケットへ渡り、捕鯨船ピークオッド号に雇われます。港では謎めいた男が、船長エイハブと一緒に行けば不吉なことになると予言します。船はクリスマスの日に出港しますが、船長はなかなか甲板に姿を見せません。
やがて現れたエイハブは、鯨の顎の骨で作った義足をつけていました。彼は乗組員の前で、白鯨モービィ・ディックを最初に見つけた者に金貨を与えると宣言します。一等航海士スターバックは、この航海は商売のためのものだと異を唱えますが、船は白鯨を追う旅へと進んでいきます。
主な登場人物
- イシュメール
- 語り手。放浪の水夫だが捕鯨船は初めて。船が海に出ると、語りが三人称のようにも変わる。
- エイハブ
- ピークオッド号の老船長。白鯨に片脚を奪われ、鯨骨の義足をつけている。
- クイークェグ
- 南太平洋の島の王の息子で、腕のいい銛打ち。宿で出会ったイシュメールの親友になる。
- スターバック
- 一等航海士。ナンタケット出身のクエーカー教徒で冷静。エイハブと対照的な人物。
- スタッブとフラスク
- 二等航海士と三等航海士。スタッブはいつもパイプをくわえた陽気な男。
- フェダラー
- エイハブが船主に断りなく乗せた謎の男。エイハブ直属の銛打ち隊を率いる。
- ピップ
- 黒人の少年で、捕鯨作業の間は本船の留守番をする。航海の途中で大きな変化が訪れる。
見どころ・おもしろいところ
白鯨を知る船との出会い
ピークオッド号は航海中、ほかの捕鯨船と出会って話を交わします。英語版Wikipediaによれば、その出会いは全部で9回あり、物語の骨組みの役目を果たしています。白鯨について尋ねるエイハブの反応が、回を追うごとに変わっていく様子に注目すると、緊張が高まっていくのがわかります。
説教、芝居、百科事典
この小説には、教会の説教、ト書きのついた戯曲のような章、独白、鯨の分類表まで、さまざまな文章の形が入っています。章ごとに書き方が変わるので、次はどんな形で来るのかを楽しみにしながら読めます。
エイハブとスターバック
復讐に突き進むエイハブに対して、スターバックは何度も航海の目的を問い直します。船長と一等航海士の対立は、執念と良識のぶつかり合いとして読めます。二人が言葉を交わす場面は、物語が大きく動く合図になっています。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
鯨の解説の章が長く続く
鯨の分類、解剖、捕鯨の道具や作業など、物語の進行と直接関係しない解説の章が随所に挟まります。英語版Wikipediaの注では、こうした説明の章は全体の章の約5分の1とされています。物語を追いたいときは、解説の章を軽く流し読みして、次に船が動く章へ進んでもかまいません。
エイハブがなかなか出てこない
序盤はイシュメールが宿で過ごし、船に雇われるまでの話が続きます。主役の船長は出港してしばらくたつまで甲板に現れません。冒頭は陸の上の青春小説のつもりで、イシュメールとクイークェグの友情を楽しむと入りやすくなります。
聖書の名前が多い
エイハブやイシュメールをはじめ、旧約聖書から取られた人名が多く出てきます。由来を知らなくても筋は追えますが、気になったら名前の元になった人物を調べると、作者が込めた意味が見えてきます。
捕鯨船の体験とイギリス先行の出版
メルヴィルは1840年12月に捕鯨船アクシュネット号に新米として乗り組みました。ピークオッド号の船主がクエーカー教徒であるように、アクシュネット号の船主もクエーカー教徒でした。出港前に聞いた教会の説教も、作中の説教の場面のもとになったと考えられています。
出版はイギリスが先で、1851年10月にロンドンで『The Whale』の題で全3巻、翌月にニューヨークで『Moby-Dick』の題で出ました。題は印刷の最終段階で変えられたものです。イギリス版には結びのエピローグが欠けていたため、イギリスの書評家の一部は物語の筋に戸惑い、その評がアメリカでの受け止め方にも影響しました。
売れなかった本の再発見
刊行当時の売れ行きは振るわず、メルヴィルの生前に売れたのは合計3,215部でした。晩年の4年間は絶版になっていました。
評価が変わったのは作者の死後です。1920年代にカール・ヴァン・ドーレンやD・H・ロレンスが作品を高く評価し、豪華な挿絵入りの版も出て、読者が広がりました。サマセット・モームは『世界の十大小説』の一つに選んでいます。映画化も多く、1956年のジョン・ヒューストン監督版ではグレゴリー・ペックがエイハブを演じました。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
嵐で羅針儀が狂い、船は位置を確かめる手段を失います。白鯨と戦って息子の乗ったボートを見失ったレイチェル号の船長が捜索を頼みますが、エイハブは断ります。やがてエイハブ自身が白鯨を見つけ、3日間の追跡が始まります。1日目に船長のボートは噛み砕かれ、2日目にはボートが壊されてフェダラーが死にます。
3日目、白鯨はピークオッド号に体当たりして沈めます。エイハブは白鯨に銛を打ち込みますが、綱が首に絡まり、海に引きずり込まれて死にます。沈む船の渦から浮かび上がったのは、クイークェグが病気のときに大工に作らせた棺桶でした。それにつかまって漂っていたイシュメールだけが、行方不明の乗組員を探し続けていたレイチェル号に救われます。
よくある疑問
- 『白鯨』はどんな話?
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白いマッコウクジラに片脚を奪われた船長が、捕鯨船の乗組員を巻き込んで復讐の航海を続ける話です。語り手は新米の水夫イシュメールです。
- 実話がもとになっている?
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メルヴィル自身の捕鯨船での体験がもとになっていますが、自伝ではありません。白鯨には実在した白いマッコウクジラ「モカ・ディック」というモデルがいたとされ、1820年にマッコウクジラに沈められた捕鯨船エセックス号の事件も物語の下敷きになったといわれています。
- どのくらいの長さ?
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135章からなる大長編です。物語の章のあいだに、鯨や捕鯨についての解説の章が多く挟まっています。
- スターバックスの名前の由来って本当?
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本当です。コーヒーチェーンのスターバックスの名前は、この作品の一等航海士スターバックに由来します。ただし作中のスターバックとコーヒーの間には特に関係はありません。
