嵐が丘

嵐が丘エミリー・ブロンテ
原題
Wuthering Heights
発表
1847年
初出
1847年12月、エリス・ベルの筆名で刊行
形式・長さ
小説・長編
手ごわさ
ふつう

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ひとことで言うと

ヨークシャーの荒野に建つ屋敷「嵐が丘」に拾われてきた孤児ヒースクリフと、屋敷の娘キャサリンの激しい愛と、その後に続く復讐の物語です。アーンショウ家とリントン家の二つの家の三代にわたる出来事を、家政婦ネリーが借家人に語って聞かせるという形で描きます。

こんな人に

  • きれいごとでは済まない、激しい愛憎の物語を読みたい人に
  • 語り手の話をそのまま信じていいのか考えながら読むのが好きな人に
  • 荒涼とした土地の空気ごと味わえる小説を探している人に

あらすじ(ネタバレなし)

1801年、都会暮らしに疲れた青年ロックウッドは、荒野の屋敷スラッシュクロス(鶫の辻)を借りて移り住みます。挨拶に訪れた大家の屋敷「嵐が丘」で出会ったのは、無愛想な主人ヒースクリフと、生気のない若い女性、粗野な若者ヘアトンでした。住人たちは客の前でも平気で罵り合っています。

吹雪で嵐が丘に泊まることになったロックウッドは、通された部屋でキャサリン・アーンショウという名の古い日記を見つけます。その夜、窓を叩く少女の幽霊を見て叫び声を上げると、駆けつけたヒースクリフは窓にすがって泣き崩れました。

わけを知りたくなったロックウッドに、家政婦のネリーが昔話を始めます。かつて嵐が丘の主人アーンショウは、リヴァプールから身寄りのない少年を連れ帰り、ヒースクリフと名づけて可愛がりました。息子のヒンドリーは少年を憎み、娘のキャサリンは彼と荒野を駆けまわる仲になっていきます。

主な登場人物

ヒースクリフ
嵐が丘の主人アーンショウに拾われた素性の知れない孤児。物語の中心にいる男。
キャサリン・アーンショウ
アーンショウ家の娘。奔放で気性が激しく、幼いころからヒースクリフと惹かれ合う。
エドガー・リントン
隣の屋敷スラッシュクロスに住むリントン家の息子。上品で裕福な青年。
ヒンドリー・アーンショウ
キャサリンの兄。父の愛情を奪ったヒースクリフを憎み、下働きの身に落とす。
ネリー(エレン・ディーン)
両家に仕えてきた家政婦で、物語のほとんどを語る人。「ネル」と呼ばれることもある。
ロックウッド
スラッシュクロスを借りた青年。ネリーの話を聞く聞き手で、最初の語り手でもある。
キャシー(キャサリン・リントン)
冒頭の嵐が丘にいる若い女性。キャサリン・アーンショウとは別人で、作中ではキャシーと呼ばれる。

見どころ・おもしろいところ

  1. 窓を叩く幽霊の夜

    物語は、ロックウッドが嵐が丘で過ごした奇妙な一夜から始まります。窓の外の少女の声と、それを聞いたヒースクリフの取り乱し方が、最初に投げかけられる大きな謎です。ここで何が起きたのかが、ネリーの昔話で少しずつ明かされていきます。

  2. 対になった二つの家

    荒々しいアーンショウ家の嵐が丘と、上品なリントン家のスラッシュクロスは、屋敷も家族も性格も対照的に描き分けられています。人物がどちらの家に属し、どちらの家へ移っていくかに目を留めると、物語の骨組みが見えてきます。

  3. 荒野と名前の響き

    題の「wuther」は風が吹き荒れることを表す語で、嵐が丘はアーンショウ家の屋敷の名です。ヒースクリフという名も荒野(ヒース)と崖(クリフ)を合わせた響きを持ちます。人の激しさと土地の厳しさが重ねて描かれています。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

語り手が入れ子になっている

まずロックウッドが語り、その中でネリーが過去を語り、ときには手紙や日記がさらにその中に入ります。誰が誰に話しているのかを意識して読むと迷いません。ネリーは当事者でもあり、その話が正しいとは限らないことも知っておくと楽しめます。

同じ名前の人が何人もいる

キャサリンという名の女性が二人いて、若いほうは作中でキャシーと呼ばれます。リントンという名も、家の姓としてだけでなく人の名前としても出てきます。三代にわたる家系図を手元に置いて読むと、混乱がぐっと減ります。

時間が行き来する

物語は1801年の時点から始まり、ネリーの回想で数十年前にさかのぼり、ときどき1801年に戻ってきます。回想の中の年月が飛ぶ所もあるので、章が変わったら今が何年ごろかを確かめると読みやすくなります。

筆名で出された姉妹の小説

『嵐が丘』は、ブロンテ姉妹の一人エミリーが29歳のときに発表した唯一の小説です。当時は女性作家が低く見られていたため、姉妹は男とも女ともとれる筆名を使いました。エミリーは「エリス・ベル」、姉シャーロットは「カラー・ベル」の名で、同じ1847年に本を出しています。

舞台は姉妹が暮らしたヨークシャーのハワース周辺の荒野です。作中の土地の様子や動植物は細かく写実的に描かれ、登場人物の多くはヨークシャーの方言で話します。エミリーは出版の翌年、30歳で亡くなり、作品について自分で語った言葉はほとんど残っていません。

酷評から古典へ

姉の『ジェーン・エア』がベストセラーになったのに対し、『嵐が丘』は発表当時に酷評されました。語り手が次々に替わり、回想が入れ子になる構成は理解されにくく、「物語史上最悪の構成」とまで言った評論家もいたとされます。その一方で、力強さと独創性は当初から認められていました。

20世紀に入るころには高く評価されるようになります。日本では1920年代に東京帝国大学で教えたエドマンド・ブランデンが、『リア王』『白鯨』と並ぶ英米文学の三大悲劇と紹介したことで広まったとされます。映画や舞台、漫画、音楽など、多くの作品がこの小説をもとに作られています。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

キャサリンはヒースクリフを愛しながらも、身分を考えてエドガーとの結婚を決めます。その話を途中まで立ち聞きしたヒースクリフは姿を消し、3年後に富を得て戻ってきます。彼はエドガーの妹イザベラを誘惑して結婚し、賭博でヒンドリーから嵐が丘を奪います。キャサリンは心身を病み、娘キャシーを産んで亡くなりました。

ヒースクリフは自分の病弱な息子リントンとキャシーを無理やり結婚させ、スラッシュクロスまで手に入れます。しかしリントンもエドガーも亡くなったあと、虐げられてきたヘアトンとキャシーは心を通わせていきます。キャサリンに似た二人の姿に、ヒースクリフは復讐の意欲を失い、食事もとらずに死にました。ロックウッドが三人の墓を眺めるところで物語は終わります。

よくある疑問

『嵐が丘』はどんな話?

荒野の屋敷に拾われた孤児ヒースクリフと屋敷の娘キャサリンの激しい愛、そしてヒースクリフの長い復讐を、二つの家の三代にわたって描いた話です。

モデルになった場所はある?

作者の暮らしたハワースの荒野にある廃墟「トップ・ウィゼンズ」が、嵐が丘のモデルとされています。

なぜ「嵐が丘」という題なの?

原題のWuthering Heightsはアーンショウ家の屋敷の名で、「wuther」は風が激しく吹き荒れることを表します。これを「嵐が丘」と訳したのは英文学者の斎藤勇で、名訳とされています。

どのくらいの長さ?

長編小説です。作者エミリー・ブロンテが生涯に書いた小説はこの一作だけです。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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