石炭をばはや積み果てつ。
ドイツに留学した若い官僚が、ベルリンで貧しい踊り子と出会い、出世の道と恋のあいだで引き裂かれていく話です。帰国の船の上で主人公が過去を書きつづる手記の形をとります。鴎外が最初に発表した創作小説で、高雅な文語体で書かれています。
こんな人に
- 仕事と恋のどちらを取るかで迷ったことがある人に
- 周りの期待に応えるだけの生き方に疑問を持った人に
- 明治の文語文のリズムを一度味わってみたい人に
あらすじ(ネタバレなし)
ドイツから日本へ帰る船が、サイゴンの港に停泊しています。ひとり船室に残った太田豊太郎は、晴れない胸のうちを紛らそうと、ドイツでの日々を書き記しはじめます。
豊太郎は幼くして父を亡くし、母の期待を背負って学問に励んできました。大学を出て官庁に勤め、官長の命を受けてベルリンに留学します。そこで初めて、自分がこれまで他人の言うままに動く器械のようだったと気づき、窮屈な官命よりも自由な学問に心を向けはじめます。
ある夕方、豊太郎は古い教会の前で泣いている少女エリスに出会います。劇場の踊り子で、父の葬式を出す金もないというエリスを、豊太郎は助けます。やがて同郷の者が二人の仲を曲げて官長に告げ口し、豊太郎は官職を失います。そこへ母の死の知らせが届き、豊太郎は遠い異国で後ろ盾をすべてなくした身になります。
主な登場人物
- 太田豊太郎
- 主人公で手記の書き手。法学を修めた官僚で、官命でベルリンに留学する。
- エリス
- ヴィクトリア座の踊り子。十六、七歳。貧しさに苦しんでいるところを豊太郎に救われる。
- 相沢謙吉
- 豊太郎の友人で、天方伯の秘書官。職を失った豊太郎に手を差しのべる。
- 天方伯
- 日本の大臣。ドイツを訪れ、豊太郎の語学の力を高く買う。
- 官長
- 豊太郎が勤める役所の上司。豊太郎をドイツに送り出した人物。
見どころ・おもしろいところ
帰国の船で書かれる手記
物語は、すでにすべてが終わったあとの豊太郎が、船の中で書いた回想として語られます。冒頭から、書き手の心が晴れていないことがわかるので、何がそうさせたのかを探りながら読み進めることになります。
明治の青年が見たベルリン
ウンテル・デン・リンデンの大通りや獣苑、古い教会の建つ裏通りなど、鴎外が留学で見たベルリンが舞台です。カタカナで書かれた地名をたどると、明治の青年の目に映った西洋の都会が浮かんできます。
意志の弱い主人公をどう見るか
豊太郎は秀才ですが、自分の意志で道を選んだ経験がほとんどありません。発表直後から主人公の意志の弱さは議論の的になりました。読者がこの人物を許せるかどうかも、この作品の読みどころです。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
文語体は声に出して読む
本文は明治の雅やかな文語体で、現代の文章とは語尾も言い回しも違います。一文ずつ声に出して読むと、意味より先にリズムがつかめ、だんだん慣れてきます。
冒頭は現在、すぐ過去へ
最初の段落はサイゴンに停泊中の船の上で、そのあと豊太郎の生い立ちへとさかのぼります。現在と回想の境目を意識しておくと、どこを読んでいるのか見失いません。
留学帰りの鴎外の第一作
『舞姫』は、鴎外が発表した創作小説の第一作です。鴎外は1884年から陸軍の留学生としてドイツに渡り、1888年に帰国しました。その経験をもとに書かれたのがこの作品です。
続けて発表した『うたかたの記』『文づかひ』もドイツを舞台にしており、三作は「ドイツ三部作」と呼ばれます。主人公の名や人物の設定には、鴎外と同じ時期にベルリンにいた軍医・武島務の生涯が投影されているという説もあります。
論争を呼び、教科書の定番に
発表のひと月後、石橋忍月が評論で高く評価しつつ、主人公の意志の弱さなどを批判しました。鴎外は相沢謙吉の名で反論し、「舞姫論争」と呼ばれる論争に発展します。
1957年に高校の国語教材に取り上げられてから、60年以上にわたって定番教材として使われてきました。1989年には篠田正浩の監督で、日本とドイツの合作映画『舞姫』が作られています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
相沢の紹介で天方伯の翻訳を手伝い、ロシア訪問にも随行した豊太郎は、身ごもったエリスの待つベルリンへ戻ります。大臣から一緒に日本へ帰らないかと誘われた豊太郎は、断れずに承諾してしまいます。
エリスにどう告げるか悩むうちに豊太郎は倒れ、その間に相沢が帰国の件をエリスに話します。だまされたと知ったエリスは心を病み、正気に戻りませんでした。豊太郎はエリスの母に生活の資金を託して日本へ発ちます。手記は、相沢ほどの良い友はいないが、自分の中には彼を憎む心が今も一点残っている、という言葉で結ばれます。
よくある疑問
- 『舞姫』はどんな話?
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ドイツに留学した日本の官僚が、ベルリンの踊り子エリスと恋に落ち、出世の道との間で引き裂かれる話です。主人公が帰国の船で書いた手記の形をとっています。
- 『舞姫』は実話がもとになっている?
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鴎外がドイツから帰国した直後の1888年、ドイツ人女性が後を追って来日し、ひと月ほどで帰った出来事がありました。この体験が下敷きにあると考えられ、エリスのモデル探しが続けられてきました。ただし経緯は作中の筋とは異なります。
- どのくらいの長さ?
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短編小説です。ただ文語体で書かれているため、同じ長さの現代の小説より読むのに時間がかかります。
- 『舞姫』は無料で読める?
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著作権が切れているため、青空文庫で無料で読めます。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
