貧しい製材屋に生まれた青年ジュリアン・ソレルが、才気と野心を武器に身分の壁を越えて出世しようとします。地方の町長の家からパリの大貴族の屋敷へと進むなかで、彼は二人の女性と激しい恋に落ちます。七月革命直前のフランス社会を、一人の青年の目を通して描いた長編小説です。
こんな人に
- 生まれや身分を越えてのし上がろうとする主人公に惹かれる人に
- 計算と情熱のあいだで揺れる心の動きをじっくり読みたい人に
- 恋愛小説としても社会の風刺としても楽しめる作品を探している人に
あらすじ(ネタバレなし)
フランシュ=コンテ地方の架空の町ヴェリエール。製材屋の末息子ジュリアン・ソレルは、家業の手伝いよりも、ナポレオンの輝かしい戦いを夢見ながら本を読むことを好む青年です。学問好きをひけらかすと、兄たちに殴られる毎日です。
かつてのナポレオンのように軍人として名を上げる道は、王政が復活した世の中ではもう閉ざされています。そこでジュリアンは、聖職者として出世することを目指し、町の司祭のもとでラテン語と神学を学んでいます。ラテン語の文章を暗記して目上の人々を感心させる頭のよさが、彼の武器です。
やがてジュリアンは、その賢さを買われ、町長レーナル氏の子どもたちの家庭教師として雇われます。身分の高い人々の暮らしに入り込んだジュリアンは、自尊心と野心の間で揺れ動きます。そんな彼に、町長の妻レーナル夫人が少しずつ惹かれていきます。
主な登場人物
- ジュリアン・ソレル
- 製材屋の末息子で主人公。ナポレオンを崇拝し、出世のため聖職者を志す。訳によってはジュリヤン。
- レーナル夫人
- ヴェリエールの町長の妻で、名はルイーズ。ジュリアンを家庭教師として迎える。
- レーナル氏
- ヴェリエールの町長。ジュリアンを子どもたちの家庭教師に雇う。
- マチルド
- 第二部に登場するラ・モール侯爵の令嬢。はじめは平民のジュリアンを見下している。
- ラ・モール侯爵
- パリの大貴族。第二部でジュリアンを秘書として雇う。
- シェラン司祭
- ヴェリエールの司祭。ジュリアンに神学とラテン語を教えた恩師。
- ピラール神父
- ブザンソンの神学校の校長。ジュリアンの才能を見込み、後ろ盾になる。
見どころ・おもしろいところ
心の中をのぞく語り
スタンダールは、登場人物の感情や考え、心の中のつぶやきを細かく描きました。ジュリアンが一つの行動の前にどれほど計算し、迷い、自分を励ますのかが手に取るようにわかります。この書き方から、作者は心理小説の生みの親とされています。
対照的な二人の女性
第一部の舞台は地方の町、第二部はパリの貴族の屋敷で、それぞれにジュリアンの心をとらえる女性がいます。地方の町長夫人とパリの侯爵令嬢という立場のまったく違う二人との関係が、ジュリアンの別々の面を引き出していきます。
1830年のフランスを写す
副題が示すように、物語は王政復古の末期から七月革命の時期を背景にしています。貴族や聖職者の偽善や物欲が、身分の低いジュリアンの目を通して皮肉たっぷりに描き出されます。恋愛小説であると同時に、鋭い社会の風刺にもなっています。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
二部構成で舞台が変わる
全体は二部に分かれ、第一部は地方、第二部はパリが舞台です。第一部の終わりで登場人物の顔ぶれががらりと変わるので、ここで一度区切りをつけて、第二部は新しい物語を読み始めるつもりで入ると混乱しません。
時代背景は軽く押さえる
作者は読者が当時の歴史を知っている前提で書いているため、政治の背景はほのめかす程度にしか説明されません。ナポレオンの時代が終わり、王政が戻って貴族と教会が力を取り戻していた、とだけ知っておけば十分に読めます。
章の頭の引用は作者の創作
各章の冒頭には、有名人の言葉のような題辞が置かれています。けれども、その多くはスタンダール自身が書いたものです。本物の引用かどうかを気にせず、章の雰囲気を伝える飾りとして読めば足ります。
革命の年に出た「年代史」
スタンダールは、訴訟記録で知ったベルテ事件やファルグ事件に題材を取りました。身分の低い若者たちの中に、上流階級の欺瞞を打ち破る力が蓄えられていると感じたことが、執筆のきっかけだったとされています。
出版契約の時点で、副題は「19世紀年代史」でした。ところが同じ年の7月に革命が起き、作者は副題を「1830年代史」に改めます。王政復古の下で抑えつけられた社会と、復活した旧来の支配層への批判が、作品全体に込められています。
早すぎた小説の評価
アンドレ・ジッドは、この作品を時代に先んじた、20世紀の読者のための小説だと述べました。一つの時代の人々を精密に観察して描いたこの作品は、フランスのリアリズム小説の出発点ともされています。
サマセット・モームは『世界の十大小説』の一つにこの作品を選んでいます。1954年にはジェラール・フィリップ主演で映画化され、イギリスやフランスでテレビドラマになったほか、宝塚歌劇団でも繰り返し舞台化されています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
ジュリアンとレーナル夫人の恋は町の噂となり、彼は神学校へ移ります。校長ピラール神父の推薦でパリのラ・モール侯爵の秘書となったジュリアンは、令嬢マチルドとの駆け引きの末に愛し合うようになり、彼女は彼の子を身ごもります。侯爵は渋々結婚を認め、ジュリアンに爵位と領地、軍の地位まで与えます。
ところが、身元を問い合わせた侯爵のもとに、聴罪司祭に言われるまま書いたレーナル夫人の手紙が届きます。ジュリアンは女性を誘惑して出世の踏み台にする男だと書かれており、結婚は取り消されます。故郷に戻ったジュリアンは、教会でミサの最中のレーナル夫人を撃ちますが、夫人は一命を取り留めます。死刑を宣告されたジュリアンは、夫人がいまも自分を愛していると知って運命を受け入れ、処刑されます。レーナル夫人もその三日後に亡くなります。
よくある疑問
- 『赤と黒』はどんな話?
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貧しい生まれの青年ジュリアン・ソレルが、才能と野心で上流社会にのし上がろうとし、その途中で二人の女性と恋に落ちる話です。王政復古期のフランス社会への批判が込められています。
- タイトルの意味は?
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ジュリアンが出世の手段にしようとした軍人の服の赤と、聖職者の服の黒を表すという説がよく知られています。ルーレットの色を表すという説もありますが、作者自身は題名の由来を明言していません。
- 実際にあった事件がもとになっている?
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スタンダールは、裁判の記録で知ったベルテ事件などをもとにこの作品を書きました。ジュリアンが終生愛するレーナル夫人は、作者の母がモデルだとも言われています。
- どのくらいの長さ?
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第一部と第二部からなる長編小説で、初版は全2巻で刊行されました。第一部は地方、第二部はパリが舞台です。
