- 原題
- Faust
- 発表
- 1808年(第一部)、第二部は作者の死後に刊行
- 初出
- 第一部は1808年に刊行。第二部は1831年に完成し、ゲーテの死後に発表
- 形式・長さ
- 戯曲・大長編
- 手ごわさ
- 手ごわい
- 書棚
- ヨーロッパの文学
あらゆる学問を修めても満たされない老学者ファウストが、悪魔メフィストーフェレスと魂を賭けた契約を結びます。悪魔を供にしたファウストは、恋や快楽、さらには神話の世界までを経験していきます。ゲーテが60年近くをかけて書き上げた、二部からなる長大な詩劇です。
こんな人に
- 知識だけでは満たされない気持ちを抱えたことがある人に
- 悪魔との取引という筋立てに惹かれる人に
- 時間をかけて一つの大作と付き合ってみたい人に
あらすじ(ネタバレなし)
物語は天上から始まります。悪魔メフィストーフェレスは神に向かって、人間は与えられた理性をろくなことに使っていないとあざけります。神は努力し続ける人間の代表として学者ファウストの名を挙げ、メフィストは、その魂を悪の道へ引き込めるかどうかの賭けを持ちかけます。
地上のファウストは年老いた学者です。あらゆる学問を修めたのに、そのどれもが空しく役に立たないと絶望しています。魔術に救いを求めても望むものは得られず、彼は死さえ考えます。
そんなファウストの書斎に、散歩の帰りについてきた一匹のむく犬が入り込みます。その正体はメフィストでした。メフィストは、この世ではファウストに仕える代わりに、死後はその魂をもらうという取引を持ちかけます。ファウストは、満ち足りてその瞬間が続くことを願ったら自分の負けだという賭けを付け加えて、血の署名で契約を結びます。
主な登場人物
- ファウスト
- あらゆる学問を修めた老学者。知識に絶望し、悪魔と契約を結ぶ。
- メフィストーフェレス
- 人を誘惑する悪魔。略してメフィストとも呼ばれ、滑稽な台詞回しで場を動かす。
- グレートヒェン
- 第一部でファウストが恋をする素朴な町娘。マルガレーテとも呼ばれる。
- 主(神)
- 冒頭の天上の場面で、メフィストの賭けを受けて立つ。
- ワーグナー
- ファウストの助手。復活祭の日、ファウストと連れ立って散歩に出かける。
- マルテ
- グレートヒェンの隣人。メフィストに利用され、二人の仲を取り持つ。
見どころ・おもしろいところ
神と悪魔の賭けから始まる
本筋は、天使たちの合唱で始まる天上の場面から動き出します。悪魔が神に賭けを持ちかけ、神がそれに乗るという物語全体を包む枠組みが、ここで示されます。ファウストの地上での歩みは、すべてこの賭けの行方として読むことができます。
おしゃべりな悪魔メフィスト
メフィストは誘惑の悪魔ですが、登場の仕方は意外なほど軽やかです。天上の場面では、天使たちの合唱のあとに滑稽な台詞回しでひょっこり現れ、神の前で人間の愚かさをあざけります。むく犬に化けて書斎に入り込むなど、彼の出る場面には遊び心があります。
神話の世界へ広がる第二部
第二部でファウストは皇帝に仕え、さらに人造人間ホムンクルスやメフィストとともにギリシア神話の世界へ旅立ちます。第一部の「小さな世界」から一転して、歴史や政治、神話までを舞台にした「大きな世界」の劇になります。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
本筋は三つめの序から
冒頭には献辞、劇場での前戯、天上の序曲という三つの前置きがあります。物語の本筋は天上の序曲から始まるので、最初の二つで手が止まったら、先に天上の序曲から読んでもかまいません。
第一部と第二部は別物と考える
第一部はグレートヒェンとの恋を中心にした筋の通った悲劇ですが、第二部は五つの幕がそれぞれ独立したエピソードに近い作りです。まず第一部を一つの作品として読み終え、第二部は間をおいて取り組むと負担が軽くなります。
第二部は読むための劇
第二部は古典の引用や神話の人物が非常に多く、全体が上演されることはまれです。舞台よりも読むための戯曲に近いとされるので、注を頼りに、一幕ずつゆっくり読み進めるのが向いています。
人形劇から始まった生涯の仕事
ゲーテは子どものころ、旅回りの一座による人形劇『ファウスト博士』を見たといわれ、若いころからこの伝説に強い興味を持っていました。最初の形である『原ファウスト』は1772年から1775年にかけて書かれ、その写本は1886年になって見つかっています。
1790年に断片が出版され、第一部は1808年に刊行されました。第二部は晩年の大きな仕事となり、完成したのは亡くなる前年の1831年です。若き日の着想から完成まで、ほぼ一生をかけた作品ということになります。
ドイツ語の舞台で最も見られる劇
全体が上演されることはまれですが、『ファウスト』はドイツ語圏の舞台で最も多くの観客を集める劇とされています。シューベルトの歌曲、ベルリオーズの『ファウストの劫罰』、グノーのオペラ、マーラーの交響曲第8番など、音楽への影響も大きな作品です。
日本では森鷗外が初めての完訳を出し、1913年には鷗外訳による日本で初めての上演が帝国劇場で行われました。手塚治虫は生涯この作品に惹かれ、漫画『ファウスト』や遺作『ネオ・ファウスト』にその設定を取り入れています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
第一部で、ファウストはメフィストの手引きでグレートヒェンを誘惑します。逢引のために使った眠り薬で母親が死に、グレートヒェンは身ごもります。彼女の兄ヴァレンティンは、ファウストとメフィストに殺されます。グレートヒェンは生まれた子を殺した罪で牢に入れられ、ファウストは救い出そうとしますが彼女は逃げることを拒みます。天からは、彼女は救われたという声が響きます。
第二部でファウストは皇帝のもとで国の財政を立て直し、神話の世界で美女ヘレネーと結ばれますが、二人の息子は命を落とします。現実に戻ったファウストは広大な領地を得て海を埋め立てる事業に乗り出しますが、「憂い」に視力を奪われます。民衆の働く音だと信じた墓掘りの音を聞きながら、彼は満ち足りた瞬間を思い描いて息を引き取ります。賭けに勝ったと魂を奪おうとするメフィストに反して、その魂はグレートヒェンの祈りによって天上で救われます。
よくある疑問
- 『ファウスト』はどんな話?
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学問に絶望した学者ファウストが、悪魔メフィストーフェレスと魂を賭けた契約を結び、恋や権力、神話の世界までを経験していく話です。全体は二部構成の戯曲です。
- ファウストは実在の人物?
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15世紀から16世紀ごろのドイツに実在したといわれる錬金術師、ファウスト博士の伝説がもとになっています。悪魔と契約した黒魔術師だという噂に包まれた人物でした。
- どのくらいの長さ?
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第一部と第二部からなる長大な戯曲で、ほぼ全編が韻文で書かれています。第二部だけでも五幕あり、全体が一度に上演されることはまれです。
- 第一部だけ読んでもいい?
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第一部はグレートヒェンの悲劇として一つのまとまりを持っているので、そこで区切っても読めます。ただし、神とメフィストの賭けの決着は第二部で描かれます。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
