- 原題
- The Picture of Dorian Gray
- 発表
- 1890年(雑誌版)、1891年(単行本)
- 初出
- 『リッピンコッツ・マンスリー・マガジン』1890年7月号に掲載。1891年4月にウォード・ロック社から増補版を刊行
- 形式・長さ
- 小説・長編
- 手ごわさ
- ふつう
- 書棚
- ヨーロッパの文学
画家に肖像画を描いてもらった美しい青年ドリアン・グレイが、自分のかわりに絵のほうが年をとればいいと願ったことから始まる物語です。快楽を説く貴族ヘンリー卿の言葉に導かれて生きるドリアンと、彼の秘密を映す一枚の絵を描いた、ワイルド唯一の長編小説です。
こんな人に
- 皮肉の効いた会話や警句を味わうのが好きな人に
- 美しさや若さにとらわれる気持ちに覚えがある人に
- 怪奇小説の仕掛けで人の心を描く話を読みたい人に
あらすじ(ネタバレなし)
舞台はヴィクトリア朝のロンドンです。画家バジル・ホールウォードは、裕福な美青年ドリアン・グレイをモデルに肖像画を描いています。ドリアンはバジルにとって、創作の霊感そのものと言える存在でした。
アトリエを訪ねたバジルの友人ヘンリー・ウォットン卿は、若さと美こそ人生で追う価値のある唯一のものだと、巧みな逆説でドリアンに語りかけます。その言葉に心を揺さぶられたドリアンは、完成した自分の肖像を前にして、自分が若いままで、絵のほうが年をとってくれればいいのにと口にします。
ヘンリー卿の影響のもと、ドリアンは快楽を求める暮らしに入っていきます。やがて彼は、場末の劇場でシェイクスピア劇を演じる若い女優シビル・ヴェインに夢中になり、出会ってまもなく婚約します。肖像画にかけた願いがどんな形で返ってくるのか、ドリアンはまだ知りません。
主な登場人物
- ドリアン・グレイ
- 金髪碧眼の裕福な美青年。ヘンリー卿の考え方に強く影響されていく。
- バジル・ホールウォード
- ドリアンの肖像画を描いた画家。誠実な人柄で、ドリアンに深く心を寄せている。
- ヘンリー・ウォットン卿
- バジルの友人の貴族。逆説と警句で人を惑わす。愛称は「ハリー」。
- シビル・ヴェイン
- 小さな劇場でシェイクスピア劇に出る、貧しい家の若い女優。
- ジェイムズ・ヴェイン
- シビルの弟で船乗り。姉の身を案じ、ドリアンを信用していない。
- アラン・キャンベル
- 化学者で、かつてドリアンと付き合いのあった友人。後半に登場する。
見どころ・おもしろいところ
ヘンリー卿の警句
ヘンリー卿は口を開くたびに、常識をひっくり返すような逆説を口にします。バジルが彼について、道徳的なことは言わないが悪いこともしない男だと言う言うことと生き方のずれにも注目すると、この人物の怖さが見えてきます。
変わっていく一枚の絵
物語の中心にあるのは、ドリアンの秘密を引き受けていく肖像画です。彼が屋敷の中で絵をどこに置き、誰から隠すかに気をつけて読むと、ドリアンの心の動きがそのまま伝わってきます。
作者が自分を分けた三人
ワイルドは手紙で、バジルは自分が思う自分、ヘンリー卿は世間が見る自分、ドリアンはなりたい自分だと書いています。三人の会話を、一人の人間の中の対話として読むこともできます。
つまずきやすい所と、読み通すコツ
冒頭に序文の警句が並ぶ
本文の前に、芸術についての短い警句を並べた序文があります。雑誌版への批判に答えて単行本で加えられたもので、芸術のための芸術を掲げた宣言として知られます。意味がつかみにくければ、本文を読み終えてから戻ってきても大丈夫です。
版によって章の数が違う
1890年の雑誌版は13章でしたが、1891年の単行本では20章に増補され、シビルの弟ジェイムズなどが加わりました。本によって章立てや場面が少し違うことがあるので、人と話すときはどちらの版かを確かめると混乱しません。
一夜の夕食会からの依頼
1889年8月30日、雑誌『リッピンコッツ』の編集者がロンドンで夕食会を開き、ワイルドやコナン・ドイルらに中編小説を依頼しました。ドイルはこの依頼に応えて『四つの署名』を書いています。ワイルドの原稿が届いたのは、依頼から7か月後の1890年4月でした。
作品のおおもとの着想は、1887年に画家に肖像を描いてもらったときの冗談だったとワイルドは語っています。雑誌に載せる前、編集者は品位を損なうことを恐れ、同性愛をほのめかす箇所などをワイルドに知らせずに削除しました。
スキャンダルから再評価へ
削除を経てもなお、雑誌版はイギリスの書評家たちの道徳観を逆なでしました。不潔だ、若い心を汚すといった批判が並び、当時最大の書店チェーンは駅の売店から掲載号を撤去しています。1895年のワイルドの裁判では、この小説の一節が尋問の材料に使われました。
長いあいだ批評家からはあまり顧みられませんでしたが、1980年代ごろからワイルドの代表作として再評価が進みました。映画やテレビドラマ、舞台、ダンス作品などに何度も翻案されています。
結末まで知りたい人へ
ネタバレを含むあらすじを開く
シビルはドリアンを愛するあまり演技ができなくなり、失望したドリアンは彼女を冷たく捨てます。帰宅すると肖像画の顔に残酷な表情が浮かんでいました。翌朝シビルが自殺したと知ったドリアンは絵を隠し、長い年月、若く美しいまま悪徳の限りを尽くします。噂を確かめに来たバジルに醜く変わった絵を見せ、彼を刺し殺して、アラン・キャンベルを脅して死体を始末させます。
アヘン窟で姉の仇を探すジェイムズに見つかりますが、若すぎる顔で人違いだと思わせて逃れます。ジェイムズは狩猟の誤射で死にました。改心を誓ったドリアンが絵を見ると、そこにはいっそう醜い顔がありました。彼がバジルを殺したナイフで絵を刺すと、悲鳴が響きます。駆けつけた召使いたちが見たのは、若く美しい姿に戻った肖像画と、胸を刺されたしわだらけの老人の遺体でした。
よくある疑問
- 『ドリアン・グレイの肖像』はどんな話?
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自分のかわりに肖像画が年をとるようになった美青年が、若さを保ったまま悪徳を重ね、その罪がすべて絵に刻まれていく話です。
- どうしてこの話を思いついたの?
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ワイルドは1887年、カナダ人の画家に肖像を描いてもらったとき、絵は年をとらず自分だけが老いるのは悲劇だ、逆ならいいのにと冗談を言いました。その瞬間に小説の筋になると気づいたと書き残しています。
- 雑誌版と単行本版の違いは?
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雑誌版は掲載前に編集者が約500語を無断で削りました。単行本ではワイルドがさらに手を入れ、13章から20章に増やして序文を加えています。
- ドリアン・グレイにモデルはいる?
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詩人ジョン・グレイがモデルだとする説がありますが、本人はその噂から距離を置いていました。はっきりしたことはわかっていません。
出典
あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。
