雪国

雪国川端康成
発表
1935年(昭和10年)〜1947年(昭和22年)
初出
『文藝春秋』『改造』などの雑誌に断章を書き継ぎ、1937年に創元社から刊行。完結本は1948年
形式・長さ
小説・長編
手ごわさ
ふつう

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ひとことで言うと

東京から雪深い温泉町へ通う男・島村と、そこで芸者として生きる駒子、そして澄んだ声を持つ娘・葉子の三人を描く小説です。大きな筋よりも、ひとつひとつの瞬間の美しさを写し取ることに重きが置かれ、雪国の自然と人の情熱が静かに重ね合わされます。

こんな人に

  • 物語の筋より、場面の空気や余韻を味わいたい人に
  • 誰かをひたむきに想う気持ちと、その空しさを知っている人に
  • 雪景色や温泉町の静けさに心ひかれる人に

あらすじ(ネタバレなし)

12月の初め、東京に妻子のある島村は、雪国へ向かう汽車に乗っています。向かいの席には、病人の男に付き添う若い娘がいます。夕暮れの窓ガラスに映る娘の顔と外の景色の重なりに、島村は心を奪われます。娘の名は葉子といい、二人は島村と同じ駅で降りました。

宿に着いた島村は、芸者の駒子を呼びます。島村が駒子に出会ったのは、前の年の5月、山歩きのあとに初めてこの温泉町を訪れたときでした。当時十九歳の駒子は、三味線と踊りの見習いとして島村の部屋に来たのです。その後、駒子は芸者に出ていました。

翌日、島村は駒子に誘われ、彼女が住む踊りの師匠の家を訪ねます。汽車で見た病人は師匠の息子の行男で、葉子は駒子とも知り合いのようでした。按摩からは、駒子は行男の許婚で、治療費のために芸者になったのだと聞かされますが、駒子はそれを否定します。島村はやがて、駒子と葉子の間にあるものに引き寄せられていきます。

主な登場人物

島村
東京の下町出身。親の遺産で暮らし、西洋舞踊の研究や翻訳をしている。妻子がいる。
駒子
温泉町の芸者。初めて島村と会ったときは十九歳。三味線を独習で身につけた。
葉子
温泉町出身の娘。悲しいほど美しい声を持ち、行男の看病をしている。
行男
駒子が習う踊りの師匠の息子で、二十六歳。病気のため東京から帰郷する。
佐一郎
葉子の弟。鉄道の信号所で働く少年。

見どころ・おもしろいところ

  1. 汽車の窓に映る顔

    冒頭近く、夕暮れの窓ガラスに葉子の顔と流れる野山が重なる場面があります。三島由紀夫はこの描写を全編の序曲のようなものと評しました。現実と映像が溶け合うこの見え方が、作品全体の見え方を決めています。

  2. 独りで磨いた駒子の三味線

    駒子は三味線を独習で身につけてきた女性です。島村がその音に心を打たれる場面には、ひたむきに生きる駒子の姿が凝縮されています。島村がそれをどう受け止めるかにも注目すると、二人の距離が見えてきます。

  3. 雪国の暮らしと風物

    温泉宿や芸者の置屋、縮の産地の町を訪ねる場面など、雪国の暮らしが細やかに描かれます。後半には鈴木牧之の『北越雪譜』を参考にした部分もあり、土地の時間の厚みが感じられます。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

時間があちこちへ飛ぶ

物語は汽車の場面から始まり、すぐに前の年の出会いの回想に入ります。いま島村が何度目の訪問をしているかを意識しておくと、場面の前後関係で迷いません。

説明されないことが多い

人物の気持ちや出来事の理由は、はっきり書かれないまま進みます。伊藤整は、省略によって美を抽出する手法のために初めての読者は難しさを感じると述べています。わからない部分は無理に埋めず、場面の印象を受け取りながら読むのが近道です。

13年かけて書き継がれた断章

『雪国』は、はじめから一つの長編として構想されたものではありません。1935年1月に「夕景色の鏡」と「白い朝の鏡」が別々の雑誌に載り、その後も断章が書き継がれました。1937年に単行本となって文芸懇話会賞を受け、さらに続編を加えた完結本が出たのは1948年で、約13年の歳月がかかっています。

舞台のモデルは、清水トンネルを抜けた先の越後湯沢温泉です。川端は1934年から高半旅館に逗留し、そこで駒子のモデルとなる芸者と出会いました。『雪国』という題が決まり、冒頭の一文に「雪国」の語が入ったのは、最初の単行本のときでした。

ノーベル賞の対象となった作品

『雪国』は川端の代表作とされ、エドワード・サイデンステッカーの英訳をはじめ多くの言語に翻訳されました。川端が受賞したノーベル文学賞の審査対象にもなった作品です。

小林秀雄は川端の抒情の本質を論じ、伊藤整は『枕草子』や俳諧に通じる美の精神を見いだしました。1957年には池部良と岸惠子の主演で映画化され、1965年には岩下志麻が駒子を演じています。冒頭の一節は湯沢温泉の文学碑にも刻まれています。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

島村が帰る日、行男が危篤だと葉子が知らせに来ますが、駒子は人が死ぬところを見たくないと言い、そのまま島村を駅まで見送ります。翌々年の秋に島村が再訪すると、行男も師匠もすでに亡くなっていました。島村は葉子とも言葉を交わし、葉子は東京へ連れて行ってほしい、駒子をよくしてあげてほしいと頼みます。

島村はその冬も温泉町に逗留を続けます。天の河のよく見える夜、映画の上映会場になっていた繭倉が火事になり、駆けつけた島村と駒子の目の前で、二階から女が落ちます。それは葉子でした。駒子は葉子に駆け寄って抱きかかえ、気がちがうと叫びます。島村が仰ぐと、天の河が音を立てて自分の中へ流れ落ちてくるようでした。

よくある疑問

『雪国』はどんな話?

雪国の温泉町に通う男・島村と、芸者の駒子、娘の葉子をめぐる物語です。出来事の筋より、人の情熱や雪国の自然の美しさを描くことに重きが置かれています。

『雪国』の舞台はどこ?モデルはいる?

作中では地名が伏せられていますが、川端はのちに舞台を越後の湯沢温泉だと明かしています。駒子のモデルは、川端が逗留した高半旅館で出会った芸者の松栄とされています。

冒頭の「国境」はなんと読む?

「くにざかい」と「こっきょう」の両方の説があり、議論が続いています。旧国の境なので「くにざかい」とする説と、上越国境は一般に「こっきょう」と読むとする説があり、川端自身の発言もはっきりしていません。

どのくらいの長さ?

長編小説に分類されます。もとは1935年から雑誌に別々に発表された断章で、それらをつなぎ合わせて一つの作品になりました。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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