黒い雨

黒い雨井伏鱒二
発表
1966年(昭和41年)
初出
雑誌『新潮』に1965年1月号から連載。連載当初の題は「姪の結婚」
形式・長さ
小説・長編
手ごわさ
ふつう

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ひとことで言うと

原爆の投下から数年後、広島県の山あいの村で、被爆した男が同居する姪の縁談をまとめようと、昭和20年8月の日記を清書し始めます。日記には、原爆が落ちた日からの広島の様子が記されていました。被爆者の実際の日記をもとに書かれた、井伏鱒二の長編小説です。

こんな人に

  • 原爆の日に起きたことを、一人の生活者の目で知りたい人に
  • 家族を思う静かな物語を、時間をかけて読みたい人に
  • 大きな出来事のあとに続く、日々の暮らしに目を向けたい人に

あらすじ(ネタバレなし)

原爆の投下から数年後の広島県東部、神石郡小畠村。閑間重松と妻のシゲ子は、戦時中に広島市内で被爆し、その後遺症で重い仕事ができません。散歩や釣りで体を養うと、村人から怠け者のように見られます。重松は村の被爆者仲間を誘い、鯉の養殖を始めようとします。

重松にはもう一つ悩みがありました。同居する姪の矢須子の縁談です。8月6日の朝、矢須子は爆心地から遠く離れた場所にいて、直接は被爆していません。それでも縁談が持ち上がるたびに、被爆者だという噂が流れて話がまとまらないのです。

そこへ、またとない良い縁談が来ます。重松は矢須子に健康診断を受けさせ、さらに昭和20年8月の自分の日記を取り出して清書し始めます。あの日、矢須子が広島市内にいなかったことを証明するためでした。

主な登場人物

閑間重松
主人公。広島市内の横川駅で被爆した。姪の縁談のために、当時の日記を清書する。
シゲ子
重松の妻。広島市内千田町の自宅で被爆し、夫とともに後遺症を抱えて暮らす。
矢須子
重松夫婦と同居する姪。婚期を迎えているが、被爆したという噂で縁談が続かない。

見どころ・おもしろいところ

  1. 清書される日記

    物語は、重松が日記を書き写していく形で、戦後の村の暮らしと、昭和20年8月の広島とを行き来します。8月6日から15日までの日記には、焼けた町を逃げる人々の姿が書きとめられています。

  2. 被爆後の暮らしの描写

    被爆の後遺症で働けない重松たちは、村人から怠けていると見られます。目に見えにくい傷を抱えた暮らしが、鯉の養殖の計画や近所づきあいを通して、淡々と描かれます。

  3. 黒い雨という題

    黒い雨は、原爆の炸裂で巻き上げられたすすや放射性物質を含んだ、粘り気のある大粒の雨です。題名が何を指しているのかを頭に置いて読むと、日記の一行一行が重く響いてきます。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

日記の部分は少しずつ読む

作品の多くは、重松たちの日記を書き写す形で進みます。被爆直後の惨状が続く日記は読むのがつらい箇所もあるので、一日分ずつ区切って読むと無理がありません。

二つの時間を意識する

物語には、日記を清書している戦後の現在と、日記に書かれた昭和20年8月の二つの時間があります。いまどちらの時間の話かを意識すると、場面の切り替わりで迷いません。

被爆者の日記から生まれた小説

井伏鱒二は原爆投下のとき広島にはいませんでした。作品は、被爆者の重松静馬が記した日記と、被爆した軍医の手記を基にして組み立てられています。『重松日記』そのものは、井伏の死後の2001年に刊行されました。

連載は1965年に雑誌『新潮』で始まり、当初は「姪の結婚」の題でした。連載の途中で『黒い雨』と改題され、1966年に新潮社から刊行されています。

世界で読まれた原爆の物語

刊行の年に第19回野間文芸賞を受賞し、井伏は同じ年に文化勲章を受章しました。英語、ロシア語、中国語など、二十を超える言語に翻訳されています。

1989年には今村昌平の監督で映画になり、カンヌ国際映画祭で高等技術委員会賞を受けました。一方、井伏の没後には、日記をほぼそのまま使ったものだとする主張が出され、それに対する研究者の反論も出されています。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

実は矢須子は、重松夫婦の安否を確かめようと船で広島へ向かう途中、瀬戸内海の上で黒い雨を浴びていました。さらに、再会した重松たちと燃える市内を逃げ回ったため、残留放射線も浴びていました。このことを日記に書くべきか重松が迷っているうちに、矢須子は原爆症を発病します。医師の懸命の治療もむなしく病状は悪化し、縁談も破談になります。

8月15日までの日記を清書し終えた重松は、養殖池から向かいの山を見上げます。そして、空にかかる奇跡の虹を思い描き、その虹に矢須子の回復を祈ります。

よくある疑問

『黒い雨』はどんな話?

被爆者の重松が、姪の矢須子の縁談をまとめるため、原爆投下当時の日記を清書していく話です。日記を通して、原爆が落ちた日の広島が描かれます。

実話がもとになっている?

被爆者の重松静馬が書いた『重松日記』と、被爆した軍医の岩竹博の『岩竹手記』をもとにしています。主人公の名前も重松静馬の名に由来します。

なぜ題名が途中で変わったの?

連載当初は「姪の結婚」という題でしたが、連載の途中で『黒い雨』に改められました。井伏は当初、姪の日記を借りるつもりでしたが、その日記はすでに処分されていたため叔父の日記を借りたといわれています。

映画化されている?

1989年に今村昌平監督が映画化しました。1983年にはテレビで「黒い雨・姪の結婚」の題でドラマにもなっています。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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