アルジャーノンに花束を

アルジャーノンに花束をダニエル・キイス
原題
Flowers for Algernon
発表
1959年(中編)、1966年(長編)
初出
中編は『ファンタジイ・アンド・サイエンス・フィクション』1959年4月号に掲載。長編は1966年にハーコート・ブレイス&ワールド社から刊行
形式・長さ
小説・長編
手ごわさ
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ひとことで言うと

知的障害のある32歳の青年チャーリイが、知能を高める脳手術を受けて天才へと変わっていく物語です。全編がチャーリイ自身の書く経過報告でできていて、最初は誤字だらけの文章が手術のあと少しずつ整っていきます。賢くなるにつれて見えてくる周りの人の本心と、深まっていく孤独が描かれます。

こんな人に

  • 賢くなれば幸せになれるのかと考えたことがある人に
  • 一人の人の内側の変化をじっくり追う物語が好きな人に
  • 宇宙や未来が出てこないSFを読んでみたい人に

あらすじ(ネタバレなし)

チャーリイ・ゴードンは32歳ですが、知能は幼い子どもと同じくらいです。叔父の知り合いが営むパン屋で働きながら、大学に設けられた学習クラスに通い、読み書きを習っています。人を疑うことを知らず、賢くなって周りの友達と同じになりたいと願っています。

ある日、クラスの先生アリスの推薦で、チャーリイは知能を高める新しい脳手術の被験者に選ばれます。同じ手術を先に受けたのが、ハツカネズミのアルジャーノンでした。チャーリイは迷路を解く競争でアルジャーノンに負けてしまいますが、手術を受けることを喜んで引き受けます。

手術は成功し、チャーリイのIQは68から185へと上がっていきます。大学で学ぶことを許され、知ることの喜びを味わう一方で、仲間だと信じていた人たちの本当の姿や、忘れていた子ども時代の記憶が、少しずつ見えてくるようになります。

主な登場人物

チャーリイ・ゴードン
主人公で語り手。パン屋で働く32歳の青年で、手術を受けて天才になっていく。
アルジャーノン
チャーリイより先に同じ手術を受けたハツカネズミ。迷路でチャーリイと競う。
アリス・キニアン
チャーリイが通う学習クラスの先生。彼の学ぶ意欲を見込んで手術を勧める。
ニーマー教授
手術の研究を率いる心理学者。プライドが高く、神経質な人物。
ストラウス博士
チャーリイの手術を執刀した精神科医で脳外科医。チャーリイに気さくに接する。
パン屋の人々
主人のドナーと、同僚のギンピィ、ジョウ、フランクら。チャーリイが友達だと思っている。

見どころ・おもしろいところ

  1. 文章そのものが変わっていく

    物語は、チャーリイが研究のために書く経過報告の形で進みます。最初は綴りも文法もでたらめですが、手術のあとは文章が日を追って正確で複雑になっていきます。書かれている内容より先に、文章の姿でチャーリイの変化が伝わってきます。

  2. 読者の方が先に気づく

    手術の前のチャーリイは、周りで起きていることを正しく理解できません。そのため、彼が楽しそうに書く場面でも、読者にはからかわれているのがわかるという、つらいずれが生まれます。賢くなったチャーリイがそのことに気づく場面は、この作品の大きな山のひとつです。

  3. よみがえる子ども時代

    知能が上がるにつれて、チャーリイは忘れていた幼いころを思い出していきます。とくに、障害を受け入れられなかった母ローズとの記憶は、いまのチャーリイの願いがどこから来たのかを教えてくれます。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

最初の数ページは読みにくい

冒頭の経過報告は、幼い子どもが書いたような誤字と崩れた文で書かれています。読みにくさは作者の仕掛けなので、意味がつかめれば先に進んでよいと考えると楽です。日本語訳でも、この崩れた文章が漢字や句読点の使い方で写されています。

回想が前触れなく入る

手術のあと、報告の途中に子ども時代の場面がはさまるようになります。現在の出来事と過去の記憶が交互に出てくると知っておけば、場面が急に変わっても迷いません。

中編版と長編版がある

この作品には、先に書かれた中編と、それを書き直した長編があります。家族や画家のフェイが出てくるのは長編版だけなので、話題にする人によって覚えている中身が違うことがあります。

学生時代のメモから始まった

作者のダニエル・キイスは、大学生のころに書きとめたメモから、この物語を考え始めました。そこには、教育が自分と両親のあいだに楔を打ちこむという思いと、人の知能を人工的に高められたらどうなるかという問いが書かれていました。障害のある生徒に英語を教えていた経験も、物語のもとになっています。

中編を書き上げて雑誌社に持ちこむと、編集者からは結末を明るく変えるよう求められました。キイスはこれを断り、別の雑誌に載せています。長編のときも結末の変更を求められて出版社に断られ、1966年にようやく刊行されました。

二つの賞と、日本での広がり

中編は1960年にヒューゴー賞を、長編は1966年度のネビュラ賞を受けました。宇宙や未来社会ではなく、知能を高める手術という限られた設定だけでSFを成り立たせた点が、SFの幅を広げた作品として評価されています。1968年の映画『まごころを君に』では、主演のクリフ・ロバートソンがアカデミー主演男優賞を受けました。

日本では、中編が1961年に『S-Fマガジン』に訳されて載り、長編の翻訳は1978年に出ています。1988年に氷室京介がこの作品の題をソロアルバムの名前にしたことで、日本で広く読まれるきっかけになったと出版社の編集者は振り返っています。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

チャーリイは天才になる一方で人を見下すようになり、パン屋を解雇され、アリスとの関係もうまくいかなくなります。研究者たちに実験動物のように扱われることに怒った彼は、アルジャーノンを連れて逃げ出します。やがてアルジャーノンの様子がおかしくなり、自ら研究を進めたチャーリイは、手術で上がった知能はやがて失われ、元より下がることさえあるという欠陥を突き止めます。

アルジャーノンは死に、チャーリイの知能も衰えていきます。年老いた母や妹ノーマと再会したあと、彼は人に憐れまれることに耐えられず、自分の意思で施設に入ることを決めます。最後の報告には、裏庭にあるアルジャーノンの墓に花をそなえてほしいという追伸が添えられています。

よくある疑問

『アルジャーノンに花束を』はどんな話?

知能を高める手術を受けた青年が、天才になることで得たものと失ったものを、自分の経過報告に書きつづる話です。

アルジャーノンとは誰のこと?

主人公より先に同じ脳手術を受けた実験用のハツカネズミの名前です。作者は、名前を詩人スウィンバーンから思いついたとされています。

中編と長編はどう違う?

1959年に雑誌に載った中編がもとで、1966年にそれを大きく書き足した長編が出ました。長編では、チャーリイの家族や子ども時代の記憶がより深く描かれています。中編はヒューゴー賞、長編はネビュラ賞を受けています。

日本のドラマと原作は同じ話?

日本では2002年と2015年にテレビドラマになりましたが、どちらも舞台を日本に移し、主人公の名前も変えています。2002年版は結末も原作から大きく変えられています。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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